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餌場1

「何? 勇気と連絡がつかない?」

 雪奈の携帯に一件の着信が来た。

 それはここ最近になって連絡先を交換した女性で、仕事柄では宿敵でもある女性からのものであった。

 怪訝に感じながらも電話に応じてみれば、先方の彼女はずいぶんと焦ったような口調で言った。

『ゆっくんと連絡がつかない! 彼の波動を感知できなくなった』

 ゆっくんというのは彼女が愛称で呼ぶ義弟の安生勇気のことである。

 その彼はここ最近私自身で訓練をつけていたが、実は訓練をさせる必要もないほどに彼は強かったことが昨晩判明したばかりでいろいろとひと悶着あり行動を起こす場合は連絡をしろという決めごとをしたばかりである。

 いなくなったとするのならば彼がまた独断行動を起こしたことになるが、彼のような男がそこまで聞き分けのない性格をしているとも思えない。

 あの彼は義姉に対しては過剰に愛をもって接している。

 その義姉を裏切るような行動を起こすはずはない。

 それを理解しているからか、九条彩音は心配になって電話をしてきたのだろう。

 もしかしたら、私のほうに連絡をしているとでも思ったのか。

「あいにくと私のほうにも連絡は来ていない」

「どうしよう、またゆっくんが勝手な行動をしていたら……」

「そこまで聞き分けのないような男であるのか君の弟は?」

「そんなはずないじゃない! ゆっくんは確かに昨日まではだましていたけどちゃんと約束事なら守ってくれるはず……」

「はずか……」

 確かに経緯はどうあれ、一度交わした義姉との約束は彼は破っているらしくある。

 だからこそ、曖昧な言葉を使う。

 でも、どうにも昨日のあの彼の態度からは二度目の約束事を破って行動するようにも見えない。

 痛い目にあっておいて独断行動を続けているのであればそれは馬鹿な奴としか思えない。

 そこまで、彼は馬鹿だったのか?

 そんなはずはない。

「こちらからも連絡をしてみよう。もしも、つながらなければ……」

 電話先の彼女に用件を伝えようとした刹那に自らの身体を支配するいびつな気配に気づいた。

 すばやく、退魔の短刀を後ろへ投擲した。

 短刀は何かを確かに掠め切裂く。

 切裂かれた透明な存在が急接近してきた。

 電話を切り、両手に虚空より顕現させた刀を握りしめて相手に向かい、振りかざす。

 透明な存在は刀の斬撃を受けた触感が手に伝わる。

「幽鬼の類か」

 再び接近をしてきた透明な存在、『幽鬼』と呼ばれる妖魔の魔の手が迫った。

 胸元に触れて衝撃が身体に伝わった。

 肺や骨が悲鳴を上げた。証拠が喀血という形で現れる。

 今度は後ろに回り込んだ『幽鬼』の大手に振るう猟奇的な刃の手が迫っていた。

 軸足を右に固定して体を高速回転する。

「神風!」

 駒のように回転した身体から台風のような竜巻の風が巻き起こる。

 その風は斬撃を纏って相手を粉みじんにする勢いで衝撃波を放った。

「ギョァアアアアアアアア!」

 『幽鬼』の絶叫が耳に響いて聞こえてくる。

 徐々にその存在の気配は薄まっていき、消えていった。

 携帯を懐から取り出した時に携帯電話が破損していた。

「チッ、やってくれましたね」

 雪奈は歓楽街の廃屋の中で毒づく。

「さて、どうしようか」

 そこには周囲にすぐに連絡をできる手段のものはなく、鬱屈とした場所だ。

 足元の死体をどかしながら歩いて吹き抜けた窓から下を見下ろした。

 歓楽街の中にいる人は当てになるはずもない。

 急いで、この場所から移動しようにも『まだ調査することが残っている』。

 手元には自分でメモした用紙があった。

 そこはあの情報屋兼業務請負所兼仲介所となっていた場所で見つけた人物名と場所が書かれていたものをまとめ書きしたものだ。

 その一軒の家に来たがもぬけの殻だった。

 安生勇気を責めていながらも実際独断行動をしているのは自分自身であるなどとは口が裂けてもいえない。

 安生勇気を放置して昼休みに学校を早退してこんな場所に来ているのだから。

「ん? これは……」

 廃屋の表札らしいものが目についた。

 そこには一ノ瀬の名称が刻まれていた。

 一ノ瀬といえば、昨日に安生勇気が拷問していたクラスメイト。

「なるほど、彼の元居住場所だったわけか。とするならば、ここから足取りは……」

 また再び気配を感じた。

 だが、今度ばかりはさっきのよりもかなり強烈なものであった。

 自らの全神経が支配を受けて、動けなくなってしまい指先一つ手足一つ動かせない。

 いうなれば、恐怖か。

 このやばい感じの気配は絶対に自分では敵わない。

 そう、敵にすれば100%殺される。

 徐々にその気配は遠ざかり、噴出した汗をぬぐいとる。

「今度の相手はやばいというのは分かったな。となれば、ここでまだ手掛かりはつかめそうだが……」

 学校でも何かがあることは確かであり、学校で急に連絡がつかなくなった彼のことが妙にやはり気になってしまった。

 優先すべきことを考えれば安生勇気だろう。

 結社までは敵にしたくはない。

「仕方ないか。急いで学園へ戻ってみよう」

 だが、一つの収穫は得た。

 あのそれぞれの妖魔たちはひどい環境で育っていたが良き生活環境を得るために何者かと契約をしたのだろう。

 では、その者とは。

 おおよそ、それは学校にいるのか。

 はたまた別の場所にいるのか。

 でも、ただ一つ学校の人間は餌にされていたり捕食者が大半の可能性もあるということだ。

 元一ノ瀬家から離れるようにして雪奈は出ていくように玄関に向かい歩く。

 ここに長居をすればバレてしまう。

「き、貴様ぁ……こんなことをすれば……」

「黙れ」

 死体の山の中にまだ虫の息であったものに止めを刺した。

 元一ノ瀬家は妖魔の巣窟であり餌場になっていた。

 それが何よりの証拠だ。

 餌の中には楯宮学園の女子生徒を含め、その兄弟校の戸澗学園の生徒も含まれていた。

 全員が全裸で半身となって血と肉へなり変わり捨てられている。

 無残な死体たち。

 その死体をむさぼり食らう連中を始末すればこの場所に長居する理由もない。

「幽鬼が出るのも納得ではあるがまさか親玉が立ち寄るとは意外だったというべきか」

 このような餌場がまだあると考えるのはぞっとした。

 ひどい環境だ。

 一ノ瀬卓也のいた場所とは餌場というひどい環境。

 他の捕食者たちも餌場をもらっているのだろうか。

 潰さないといけない。

「結社は当てにはならないからな」

 だが、今は戻ろう。

 彼のいる学園へ。


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