利害関係
「ということは、君は今まで妖魔のことを知っていたばかりか、本来の実力を隠してたというわけか」
「すべてを知っていたわけじゃない。そもそも妖魔という名前や聖剣のことについては知らなかった。ただ、そういう存在がいて親父たちがエクソシストのような仕事をしていたのは知っていただけだよ」
沈痛な空気が流れる自宅のリビングルームの席に座り、自分が知っていた事柄を大まかに説明をした。
説明を聞いた二人の反応は良い空気ではない。
嘘をつかれていたのを知って喜ばしく思う人はいない。
いたとしたら、それは人格破綻者でしかないだろう。
二人は悩ましげな顔をしているがこれに対して別に悪かったなんて思いは抱かない。
「俺は謝らないぞ。こっちにも理由はあったし姉ちゃんに至っては俺に隠していたことがあったわけだからな」
「別に私たちも文句は言わんさ。だがな、君は事の事態をよく理解していない。さっきだって君は一人で勝手に暴走して危険だったではないか。もしも、私たちが来なかったら死んでいたんだぞ」
「事態の危険性はよくわかっているつもりだ」
「いいや、わかっていないな。もしも、わかっていたのならばあのような妖魔一人だけしかいないという判断にはならない」
「っ!」
痛いところをついてくる。
たしかに、考えの甘さはあった。
あの時の罠で一ノ瀬卓也という男が罠にかかったことを図に乗って拷問していた。
だが、彼には仲間がいたのだ。
その仲間が来なかったのは彼女が追跡してくれていたからでもしも、それがなければ自分のところへ大量の妖魔が襲いかかって死んでいたことだろう。
「復讐をしたい気持ちはよくわかる。だからといって一人で行動をするのは危険だ。この町には多くの妖魔が潜伏している。特に今回のではっきりしたことは組織だって妖魔が動いているようであるということだ」
一ノ瀬卓也は雇われたかのような言い回しをしていて語っていた。
その存在は『大悪魔』と呼称した。
それが敵の親玉で勇気の両親を殺した存在であろうこともわかっている。
「さらにいえば、君は狙われている立場だ。監視もされているのだろう?」
雪奈は拷問の一部始終を見ているから知っている。
一ノ瀬卓也が語った内容を彼女は振り返るのように勇気へ詰問していく。
頷いて答えれば彼女は眉間を抑えてから大仰にため息をついた。
「ゆっくん、私からも一ついいかしら?」
ずっと、今まで黙って聞いていた義姉がここで初めて勇気へ声を掛けた。
復讐に駆られて裏で動いていたという事実を知った今なお勇気に対して何を聞こうというのか勇気は正直怒られるのではないかと思ったがそうではなかった。
彼女は手元の携帯を操作して文字がびっしりと刻まれた何かの文章を見せてくる。
よくよくその文面を見て読んでいくと何かの報告書のようであった。
「今から2年くらい前にこの町で強い波動があった。それが原因で街に妖魔が侵入することになったんだけどね、この強い波動はもしかしてゆっくんの仕業なの?」
「何? そうなのか九条勇気?」
聞かれるとは思っていた。
2年前に親を殺したやつを殺すためにと譲り受けた『聖剣』当時は聖剣とは知らずただの護身用の短剣として扱い訓練をしていた時にたまたま発露をさせてしまった神々しい輝きを伴った現象。
あの時の一回だけであったから何も思わなかったが、数日前に同じような経験をして聖剣という存在だとわかった今はあのせいで結界にひびを入れたのは自分だとわかる。
「たぶん、そうだよ。2年前に確かに俺はこの聖剣を使って訓練をしていた。そしたら、たまたま偶然にも力が発露したんだ。天まで突きあがるような神々しい光が放出したよ。一瞬のことだったからあの時は幻でも見たのかと思ったけどね。でも、今は違うってわかる」
「そっか。やっぱりそうなのね。結界を壊した原因はこれで分かった。だからね、結界の外にまで聖の波動を流し込んでしまっていた理由は」
「ん? どういうことだ、九条彩音」
「そのままの意味よ。外のほうにまで聖剣の力が放出されていたの。それがいい感じで妖魔を呼び寄せる集束装置になってしまっていたのよ。本当ならね、ここは結社の町であるから結界も強力だし内部の力を抑え込めるほどに活躍しているはずなの。だけど、その内部からの強大な力は異常であったばかりに、外にまで妙なエネルギーを放出させた。このエネルギーが過剰に聖剣の波動を強めにしていたのよ。でも、破壊原因が聖剣であったのならば、納得。外に充満するのもまた聖剣の力であったというならね」
義姉の語った事柄から自分がしでかしたことはやはり大事を招いたことをよく理解させられた。
ずっと、彼女が守って来てくれたのに自分はわざわざ危険を呼び込んだのだ。
だが、裏を返せば自分にとっては都合がよかったのだろう。
なにせ、ずっと両親の復讐を果たしたかったのだ。
鳥かごの中にとらわれていては何もできない。
そう考えると――
(もしかしたら聖剣は復讐の願いを叶えるためにわざと結界を壊したのだろうか)
だとしたら、本当にこの聖剣とはすごい貴重なものであるのだろう。
「外にまで影響を及ぼすとはさすがは聖剣というところか。まぁ、ともかくとしてだ、九条勇気、君には改めて行動を自粛するように言わせてもらおう。今回ので理解したはずだ。一人ではどうにもならないとな」
「……よくわかったさ。だけど、俺はどうしても親を殺した大悪魔とやらを許せねぇ! ソイツは俺のこの手で殺さないと気が済まないんだ!」
「わかっている。だから、協力をする」
「え?」
「どちらにしても、私たちもそれが仕事なんだ。なにも無理をして一人でせずともみんなで協力をすればいい」
「……勝手に殺したりしないのか?」
彼女が目を丸くして、大仰に笑い出した。
「な、なんだよ!」
「そうか、そうか。目標物を横取りでもされると思ったから一人で活動していたわけか」
「うぐっ! それもあるけど、俺はただ単に俺の復讐で他人を巻き込みたくなかっただけだ」
「アハハハ、ならその心配もいらない。知っているだろう、私だって訓練を積んでいる。それに君の義姉もだ。心配されるような弱い女じゃない」
「だけど――」
その時、首筋には彼女の刀の刃先が突き付けられていた。
「これでも、反論をするか」
「わかった。俺の負けだよ」
「よろしい。別に私たちも君の復讐の邪魔はしないさ。大悪魔は譲ろう。だがな、ある妖魔だけは私に譲ってもらおう」
「ある妖魔?」
「私の両親を殺した妖魔さ」
「っ!」
まさか、雪奈もまた勇気と同じ復讐者であったことには驚いて言葉が出なかった。
「なにも、不思議な話ではないさ。妖魔狩り士とは復讐者が多い。九条彩音のような結社とは違いな」
「何よ、結社を馬鹿にしているの綾蔵雪奈」
「馬鹿にしていないさ。だが、君たちのような存在がしっかりすれば妖魔が人を殺すのは減るわけだろう」
「こっちだってがんばってるわよ。数が多すぎるのを理解していないわけないでしょ!」
「しかし、君たち結社が妖魔を煽るようなやり方をしているのまた知っている」
「私たちは精一杯――」
綾蔵は席を立つと義姉へ向けて刀を振り上げようとする。
勇気は叫んだが、その刀は義姉の前で弾かれた。
義姉の手には楯のようなものが顕現していた。
「ちょっと、なんのマネよ」
「いや、君の力を君の弟君にも見せて大丈夫であるという証明をしておいたほうがいいだろうと思ったまでさ」
「さっきの皮肉はこのための三門芝居だったわけ?」
「いいや、真実を語ったのさ」
「殺すわよ?」
「いつでも、私は歓迎だが」
相容れぬ二人はやはり、お互いに武器を構えて殺気立つ。
「喧嘩をする前に、組織を探すのをどうするか考えるのが先だと思うんだけど」
仲裁をするわけではないが、より今優先すべき事項を考えた。
彼女たちも武器を収めた。
一種の術なのだろう。武器は光の粒子となって存在を消す。
「そのことならば、めぼしい場所は見つけてあるぞ」
「え?」
「楯宮学園だ」
綾蔵雪奈は指を立ててそう宣言した。




