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普段通りに今日も、凹凸とした建造物、私立楯宮学園へ登校し、教室へ入る勇気に多くの視線が集まった。

 勇気は訝しみながら席へ座ると周囲に目を配る。

(なんだ?)

 周囲は勇気を見てひそひそと陰口で話をする仕草。

 なんだか妙で、いい気分ではない。

 その光景は珍獣を相手に嫌悪するかのような空気。

 勇気が座席につくと目の前に座る茶髪にチャラ目な恰好をしたクラス内カースト上位で勇気とは真逆の存在たる男子生徒、一ノ瀬卓也が声を掛けてくる。


「お前さ、ついにやらかしたな」

「あ?」


 卓也は席を立ち、勇気の手を掴む。

 彼から感じる気迫は有無を言わせんとするものであった。

 勇気も連れてかれるままに彼に誘導されて教室の外へ出た。

 そのまま、廊下を歩いていく。

 周囲の見知らぬ多くの生徒が勇気を見て話していた。

 一瞬だけ聞こえてきた内容。

 それはあまり良い噂話ではない。

 狭間修に関する概要であったからだ。



「そうだよ。修様に恨みを抱いて?」

「修様が殺したのって彼だよね?」

「でも、修様を見つけたのも彼でしょ」

「まぁ、一ノ瀬君が聞いてくれるかな」

「大丈夫かな」



 勇気は内容からピンと来て血の気が引いていく。

 同級生たちの目は勇気を犯罪者として見ている偏見の目。

 言われも得ぬ言いがかりが飛び交っている現状では勇気は何かを行ったところで覆りそうにない空気を感じ取る。

 卓也が勇気に何を聞こうとしているのかも自ずと明白に気づき始めてくる。

 同級生の卓也に連れてこられた屋上で卓也が怖い顔をしながら勇気の両肩をつかんだ。

 勇気は生唾を飲み込みながら彼の言葉を待った。 



「なぁ、安生。はっきりといってくれ。お前一昨日、狭間と一緒にいたって本当か?」



 一昨日の狭間修の最後に一緒にいた人物について学園内で自分であったことが広まっているようであった。

 そう、自分は今疑われている。

 経緯がどういうわけかは知らぬけれども、彼と最後に一緒にいた人物が勇気であるということにされていた。

 実際は犯人が最後にいたわけだが、勇気は犯人ではないので彼と最後にいた人物ではないということになる。

 しかし、周囲の事柄からすればあの夜の繁華街で狭間修と最後に話をしたのは勇気ということにはなる。

 そもそも、狭間修が死んだことが広まっているというわけであるのは聞こえてきた内容で把握していた勇気は同級生の手を振り払う。


「確かに一昨日、狭間修とは一緒にいた。でも、あくまで学校の帰り道にアイツがホテルから出たところを偶然にも遭遇しただけだ。そのあとはアイツは一人で帰ったぞ」

「本当か、それは? 狭間に何かしたりしてないよな? 悪いが狭間と仲が悪いのは学園の全員が知っていることだ。だから、狭間が殺されたことに同級生が関わっているならば今すぐに警察に出頭をしてくれ。話なら俺も聞く。犯人じゃないとしても一昨日お前と狭間が揉めていたのを目撃している奴もいるんだ。第一発見者は君と聞いた。だから、本当のことを話してくれ」


 勇気は一ノ瀬卓也の勇気ある行動に感嘆した。

 もしも、相手が犯人だとわかっていたら、真正面からお前が犯人かなんて普通は聞けない。

 自分が殺される可能性だってあるかもしれないリスクが伴う。

 なのに、この男は平然とそれを問いただした。

 ずいぶんと図太い神経をしていると痛感する。

 事実無根、勇気は犯人ではないので首を振る。


「だからさ、犯人じゃない。第一、その噂はいつから広まってるんだ? まだ、警察で発表されてなかったはずだ」

「それはもう、学校内の裏掲示板で情報が上がってるよ。君が犯人ではないかという憶測も飛び交っている。さらに君のことを恨んでるファンクラブ連中もいるくらいだよ」


 勇気の目の前に彼が携帯の画面を見せてきた。

 そこには学校の裏サイト掲示板が乗っていて、ずらりと名前が載っていた。

 『狭間修死亡』

『第1発見者、楯宮の裏切り者、自由人、安生勇気』

『根暗勇気の嫉妬殺害?』

『最低のくそ悪魔安生勇気』

 とひどいレッテルが張られて、レスがどんどんと伸びていた。

 正直、気分がいいものではない。


「こんなものが……」

「僕は同級生が犯人とは思いたくない。だから、信じるよ。できうる限りは君のことも擁護しよう。だけど、犯人であるのならば自首をしてくれよ、頼むから」


 この男は自分をどちらの立場に付けたいんだと思えた。

 一ノ瀬卓也の考えはともかくとしても周りの評価は非常に良いように展開してはいない。

 つまりは恨みに駆られて背後から刺されかねない状況ということであった。

 大仰にため息をつく。


「じゃあ、俺は教室戻るぞ」

「お、おい! 今の話で戻るのかい。今は……」

「戻るさ。大体、噂を気にしてたらいつまでも学校に来れなくなる。正直それは困るんだ」

「僕としてもクラスの一人がいなくなるのは嫌だけど……」

「あのさ、お前は俺を信用してんの? してないの??」

「それは……しているさ」


 一瞬だけの間が怪しく聞こえる。

 最初から、卓也という人物に対して勇気は全幅の信頼をした親友とは思ってはいない。

 勇気も一ノ瀬もお互いが『同級生』と思っているのだ。

 だからこそ、彼も『同級生』と表現した言葉を使い続けている。

 冷たいと周りは思うかもしれないが勇気にとってはそのほうが都合がよい。

 あまり、深い関係になっても今の勇気には邪魔な存在となるだけだ。

 勇気は人との付き合いがもう正直に言えばつらいだけである。

 

「一ノ瀬もさ、そんなに俺のことを気にすんなら話すなよ。もう、俺のことは放っておいてくれ」

「え? なんだよそれ」

「お前だってそのほうがいいだろう。今の状態でこうして一緒に話をしていればお前まで危険人物認定されるぞ」

「っ! それは……でも、僕は同級生として……」

「自分の立場が大事なのはわかるけどさ、俺なんかをかばったところで評価点は下がるだけだと思うぜ」

「僕は別にそんな……」


 核心をついたような冷たい発言をし、突っぱねるように勇気は一方的に冷たい態度をとって屋上から出た。

 そのまま、教室に戻るとタイミングよくチャイムが鳴る。

 黒髪のモデルのような長身の美女教師が入ってきて暗い顔をしていた。

 なんとなく、それだけで察しがついた。

 勇気は着席して、教室に後から卓也も入って着席する。



「本日はホームルームを始める前に皆さんに悲しいお知らせをしなくてはなりません」



 美女教師、如月冴先生のいつも鋭く研ぎ澄まされた瞳は暗く澱み覇気はなく、普段の威圧感はない。

 生徒全員がそれだけで何かを痛感する。



「今朝、狭間修さんが事故で他界したことが判明しました。本日はみなさんで追悼式を行います。急なことで申し訳ありませんがこのまま、体育館へ移動を始めます」


 朝から沈鬱な面持ちのままに追悼式の開催を知らせる告知がなされた。

 その中で周囲の目だけは勇気に対する睨みが絶えなかった。

 そして、勇気は今回の事件の概要を詳しく知っているであろう存在を探すように空白の後ろの席へ目を向けた。

 そう、そこに座っている一人の少女は欠席をしていた。

(あの女、どこに行ったんだ?)

 朝一緒にいたはずの少女、綾蔵雪奈は転校二日目にして無断欠席を決行していたのであった。

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