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モンスター&ライフ  作者: 仮ノ一樹
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9/15

第9話 帰還


――ミスタリレ王国南部 スランドール森林――

「これ、全部剥ぎ取るのか」

 ハルキ目の前にあったのは、大量の死体の山だった。

 ゴブリン、コボルト、レッドキャップ、ハーピー、一角兎アルミラージ、トロール、一目巨人サイクロプス、そして人面獣マンティコア

 今回の一件で始末した魔物の死体を全てかき集め、まとめて置いた結果がこれである。


「うへ~、めんどくさ~い!」

 サヤが悲鳴を上げる。

「っていっても、これだけ放っといたらアンデッド化するしね」

「うーん」

 しばしハルキは頭を抱えるが、後片付けはしっかりやろう。と、仕方ないので、やりきる事を決めた。


「はーい、誰かお腹空いてる人ー!」

「「「はーい!」」」

 アキラ、マオ、サヤの三人が元気良く手を挙げる。

「アキラは腹減らないだろ。スライムなんだから」

「いいじゃないですか!気分ですよ、き・ぶ・ん!」

「あ、はい。分かった、分かったから。頼むから素材はなるべく残しておいてよ…」

「分かってますって♪」


 心配だ…。とアキラを見て、ハルキは顔をしかめた。そんな彼を慰めるように、ミクが声をかけた。

「アキラの事は任せて下さい。バカども二人も居るわけですし、面倒は見ときますよ」

「ありがとう、助かるよ。お前は良いのか?一緒になっても良いんだぞ」

「私は遠慮します。どうせ、バカの相手するだけで暇がないだろうし」

「あー、うん。なるほどね」

 お互いの苦労を分かち合い、二人はため息をひとつ。

「じゃあ、僕はこれからミオ達とあの洞窟の探索に行ってくる。皆の事は頼んだよ」

「はーい。任されました」





「ユウちゃんは食べないの?

 ハルキとミクのやり取りを聞いていたアキが、からかい半分で尋ねた。

「食べないわよ。せっかく落ち着いてきたんだから。それに、一目巨人サイクロプスの目玉とか、トロールの皮膚とかは、良い薬の材料になるわ」

「…なんかユウちゃん、魔女みたいな事言うね」

「あら、薬作りも、錬金術の一環よ」


 ユウカは元々、錬金術師アルケミストの卵として学んでいた時期があった。成績も優秀であり、将来は有望だとも言われていた。しかし、とある事件に巻き込まれ、その道を断念。その後、ハルキの元へと落ち着いたという形だ。


「「「いただきまーす」」」


 元気の良い三人の声が、大きな耳の彼女に届いた。いや、間違いなくアキにも聞こえているだろう。

「あっちはあっちで元気ね。見た目ただの地獄絵図だけど」

「だね~…」


 こちら三人は、死体の山で夜食タイム。とはいえ、長い時間戦闘が続いていた為、直ぐに日が昇ってくるだろう。

 マオとサヤは、山からなるべく綺麗な形の物を選んでいるのに対し、アキラは躊躇なくホイホイと口に入れいている――いや、取り込んでいる。


「アキラさんはよくそんなに食べれますよね」

「まあね。口?体?に入れたら、すぐ消化しちゃうから」

「へも、やっはり…ごっくん。お腹は空かないんだよね?」

 サヤはコボルトの腕を口に咥え、呑みこみながら話をした。

「何よ、今さらね。食欲と睡眠欲は、無い事ぐらい知ってるでしょ。まあ、有るとしたら―――性欲くらい?」

「「うわぁ…」」

 頬を赤らめるように発言するアキラには、流石の二人もドン引きだった。

 その傍ら、監視をしていたミクもまた、一歩引いていた。




――洞窟内部――

 素材や道具の回収をアキラ達を任せたハルキは、ミオ、ミサ、サナエ、レイコを連れ、洞窟内部の探索に出ていた。

 外で倒れている錬金術師アルケミストの他に、レンの洗脳を受けた者はまだ残っているはずだ。

 その救出、あるいは、レンと共に脱出している場合は、その追跡調査を目的に、彼女達を護衛に洞窟に入ったのだ。


「この先に、彼らが働いていた魔石の実験場があるはずです」

「洗脳は多分、解けてると、思います。でも、逃げられていたら分かんない、です」

「そっか。まあ、その時はその時だ。深く考えるのはやめよう」

 おどおどが止まらないサナエに対し、ハルキは優しく声をかける。


「…!」

 しばらく歩いた後、そこには、十人程の錬金術師アルケミスト達が倒れていた。

「大丈夫ですか!?」

 駆け寄ったハルキの声に答えは無い。ただ、息はあるようだ。

 それを確認し、ハルキは安堵の息を漏らす。


「大丈夫。洗脳系の魔法が解けて、一時的に気を失ってるだけ」

「みたいだね。みんな、この人達を運び出してくれ」

 了解。と、彼女達は頷いた。

「レイコ。この人達だけで全員?」

「はい。人数は間違いありません―――っ!ご主人様、上を!」

 突然レイコが叫びだし、全員が頭上に注目した。するとそこには―――――



「ぎゃああああああああ!」



 顔を真っ青にして叫んだのはハルキだ。

「蜘蛛ー!でっかい蜘蛛ーっ!」

 それは、推定4メートル以上はある真っ黒な大蜘蛛だった。

暗蜘蛛ダークスパイダー!?なんでこんな…」

「まさか、奥の魔石を喰ったのか!」

 ここは元々、魔石の実験場だ。何処かに大量の魔石が保管されていても可笑しくはない。

 そもそも、この蜘蛛は何処から沸いてきたのだろう。

 レンの実験の残党か、自然に生れた物か、それとも、元々ここに住み着いていたのか。何れにせよ、この場で退治する必要はありそうだ。


「ご主人様は下がって、ここは私達が」

 さっと、ミオが前に出て身構える。

「状況、開始」

「シャー!」

 洞窟の天井に引っ付いたままの暗蜘蛛ダークスパイダーは、前足を上げて威嚇をかますと、尻から糸を飛ばしてきた。


「《風刃ウィンドエッジ》」

 風の刃が糸を容易く切り裂き、貫通して大蜘蛛に迫る。が、寸前に天井から飛び降りて、これを回避。

「はあっ!」

 レイコが半月刃ムーンエッジで斬りかかるが、その硬い外郭に阻まれる。

「くっ!サナエ!」

 紅い弾丸が、レイコの脇を綺麗に通り抜け、蜘蛛の頭に直撃。

「キィィィィィ」

 苦痛の叫びなのか、大蜘蛛は古びた扉のような声をあげた。しかし、まだまだ平気そうだ。

 ただ、ダメージは確実に入っている。このまま押して行けば、勝利は確実だろう。


「こんの~《盾殴打シールドバッシュ》!」

 続けざまミサが飛び上がり、盾で蜘蛛の脳天を強打。強い衝撃に、流石の大蜘蛛も一歩退けぞった。

「キシャー!」

 今度は蜘蛛が、前足をふり上げ、その足でミサに反撃。

 ミサは綺麗に防いではいるが、盾を両手で押さえ、なんとか耐えている状態だ。

「《影分身シャドー・イリュージョン》」

「むぎゅっ!」

 ミサを踏み台に飛び上がったミオが、四人に分身。四つのナイフが、暗蜘蛛ダークスパイダーに突き刺さった。


「キュウウウウ!」

 大蜘蛛は悲鳴を上げ、絶命。

 ミオは分身を消し、直ぐに一人なったところで呟いた。

「状況終了」

「いってて…いきなり何するんですかミオさん!なんで踏むんですか!」

 頭を抑え、ミサが怒鳴った。


 これは、完全なデジャブだ。


「お前、アキラの真似したろ」

 こくり。とミオは無言で頷いた。

「そのうちやりたいと思ってた。面白いから」

「なんの話ですか。ていうか、私をおもちゃ扱いしないでくださいよ!」

「いや、そんなつもりはない。からかってるだけ」

「どっちにしろやめてください!」



――ミスタリレ王国南部 スランドール森林――

「よし、みんな、あらかた片付いたか?」

「はい。後は、この人達を連れて行くだけですね」

 洞窟の前には十五人程、錬金術師アルケミスト達が寝かせてある。全員意識を失っているが、このままここで寝かせたままにするわけにもいかない。

「それじゃあこっちの方は、えーっと、マオとアキの班に任せるよ」


「は~い。わかりました」

「え~、やだ~。帰って寝たい~」

「はいはい、残業は残さずやりましょうね~」

 ミクは《ゲート》を開くと、サヤを引きずって入っていった。彼らを連れていく前に、ギルドに調査報告をしに行くのだろう。

「では、ご主人様。行ってきます」

「うん、後はよろしく」

 行儀よくお辞儀をした後、二人に続いてマオも《ゲート》に入っていった。


「それじゃ、私達は見張りでもしよっか。留守中にこの連中が襲われないようにね」

「うん、オッケー」

 アキとユウカの方針も決まったようだ。

「それじゃ、行こうか《ゲート》」

 ハルキが手をかざした先に、神々しい光の門がその場に現れた。九世界ユグドラシル第一層、《神界アースガルド》へ繋がる扉だ。

 門が開くと、ハルキはこの上ないばかりに笑顔を浮かべた。


「なんか嬉しそうですね。ご主人様」

「え?ああ。うん。逃げられたとはいえ、誰も人を殺めずに済んだから、なんだか嬉しくなって。行方不明になってた人も、こうして助けられたし」

 と、気持ちの良い笑顔をまた一つ浮かべる。

(お~い)


「なんだそんなことですか~ご主人様の実力あってこそじゃないですか~」

 言ったのはナナミだった。

(ねえ、ちょっと誰か~)

「ちょっとナナミ!それ私の台詞!」

「え~、いいじゃん。どうせいつも言うこと決まってるし」

(たーすーけーてー)

「決まってるって何?私は思った事をそのまんま伝えてるだけよ」

「それがわかり易いんだって、アキラは」

(ねえ、みんな聞いてる?)


 言い合う二人を見ている内に、ハルキは突然何か足りないものがある。そんな気がしていた。

「あれ?なんか忘れてるような…?」

 首を傾げるハルキにミオが問いかけた。

「何が?」

「いやなんか、ナナミ見てたらさ、誰か居ないような気がしたんだけど」

(忘れてますよー、ここにいますよー)

「気のせいじゃないですか?」

「そうかなぁ、ま、いっか」

(ええ~!?)

 そういって、ハルキ達は開きっぱなしの《ゲート》の中へと消えていった。


「で、あれどうする?」

「さあ?そのうち誰か気づくんじゃない?」

 残った二人の視線にいるのは、未だ土塊人形ゴーレムの下敷きになっていたアカリであった。




――九世界ユグドラシル 第一層 妖精界アルブヘイム――


――翌日――


 木の程よい香りが、朝明けと共に鼻に注がれてきた。

 その香りが、彼女を目覚めさせ、メイドとしての一日が今日も始まると告げている。

 彼女はベッドから起きると、眼鏡を掛け、着替えると朝の弱い二人の妹をお越しに隣の部屋に行く。


「ほら、貴女達、朝よ起きなさい」

 一人は、自分と同じように尖った耳と、黄土色の髪には山羊の角があり、上半身は人間で下半身は山羊の山羊人パンという種族だ。

 もう一人は姿こそ人間だか、こっちの耳も尖っており、背中には綺麗で透明な羽が生えているのが分かる。

「ムニャ…もうちょっと…」

「うへへ…」

 よだれすら垂らして寝ている妹を目の当たりにし、姉として情けなく思えてしまう。

 そこで彼女は、大きく息を吸った。

「起きなさーい!」


 二人は飛び起き、目の前に居たのは、姉の姿だった。長い黒髪の下にある尖った耳に、メイド服を着ている。

「あ…お、お姉ちゃん、おはよう」

「お、おはよう」

 流石に寝すぎたかと、二人は後悔し、硬直してしまった。

「早く着替えなさい。今日も忙しいわよ」


キャラ紹介

ヒトミ 種族:森妖精エルフ

 メイド三姉妹長女。元々、この姉妹は半妖精ハーフエルフであったが、彼女はその影響を強く受け、完全なエルフとなった。真面目な性格で、仕事熱心。


フミナ 種族:山羊人パン

 メイド三姉妹次女。二重人格者で、戦闘になると性格が変わることがある。ただ、根は優しく、面倒みの良い性格が基本。山羊人パンという種族上、笛を吹く事を生業とする。


ミツバ 種族:悪戯妖精ピクシー

 メイド三姉妹三女。小柄で、少しイタズラ好きな少女。妖精や小動物など、小さいもの・可愛いものをこよなく愛する。姉のフミナとも性格が似ており、よくヒトミに説教を受ける事が多い。

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