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モンスター&ライフ  作者: 仮ノ一樹
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13/15

第13話 ライム村の事件

 ――ミスタリレ王国 東部:ライム村――


 “死神”と名乗った少女が人質を連れ去った後、ヒトミは亜人達と村に戻った。

 マスルを始め、彼らは村人と同じように酷く怯えていた。おそらくは、あの少女が放った殺気の所為だろう。あれは明らかに常人が放てるものではなかった。

 魔法の類いとも考えられるが、特技スキルである可能性もある。


 ヒトミや妹達に影響がなかったのは、精神耐性も含め全能力値(ステータス)が人間・他種族の数倍高いからだ。これも魔石と《創造イメージ》による恩恵である。

 しかし、それでも多少後退りする程度の覇気があった。これでは村人達が悲観するのも当然だ。

 事の重大さ故に、ヒトミは直様主であるハルキに連絡を入れた。相談の結果、昼頃にはこちらに来るという事となった。

 《ゲート》でいつでも来れると言っても、行くまでに準備もいる。合流するのであれば時間を決めた方が良いと言う、ヒトミ自身の進言だ。


「はあ、お昼には向こうに帰るつもりだったのにね」

 村長に部屋を借り、その床に寝転がったミツバが気をだるくして言う。

「仕方がないわ。まさか、ここまで大事になるなんて誰も思わないでしょう。神様というのも意地悪なものね」

「……」

 ヒトミに焦る様子も無いが、想定外の事態なのは変わらないので敢えて冷静さを装っているようだ。

「この後はどうするの?」

「そうねぇ、ダンナ様がいらっしゃるまでにまだ時間はあるし、食材を借りて昼食の準備でもしようかしら」

「……」


 姉と妹が今後について話合っている中、フミナだけはずっと黙っていた。

 不良達―――あのグレイという人間とその仲間を巻き込んでしまった事に、責任を感じているのだ。

 無論、下手にちょっかいを掛けて返り討ちに合い、おまけに気絶して気づいたら人質に。などと言うのは根本を言えば、彼らの自業自得だ。

 しかし、死神は気絶していた彼らを()()()と言っていた。恐らく、人質というよりも単なる気まぐれなのだろう。自分が使役する魔物の丁度良い餌が目の前にあるのなら、それを活用しようと思うのは道理だ。

 そしてその原因を作ったのは自分だ。面倒臭いと思うあまりに、少し強力な精神攻撃を行った自分の不始末。関係の無い人間を巻き込んだという後悔の表れだった。

 



――――――――



 空間に光の扉が構築され、《九世界ユグドラシル》と繋がる《ゲート》が開く。

 やがて《ゲート》からは主が現れ、三姉妹と対面した。

「わざわざ赴いて頂き、申し訳ありません」

 と、ヒトミがペコリと頭を下げたその時―――

「あいつが!“あいつ”がまたこの村に来たって本当なんでしょうね!?」

 《ゲート》から出るや否や、ミクがヒトミの胸倉を掴見上げた。

「お、落ち着いて下さい、ミク様!苦しい、ちょっと苦しいですって!」

「おい、止めないか!今は焦っても仕方がないだろう」

 ハルキが制止すると、興奮した気持ちが少し緩んだのか、ゆっくりと力を緩めてヒトミを離した。


「おお、ハルキ様!お久し振りでございます」

 村長のダイゴが少し遅れてやって来た。モカは家で出迎えの準備をするという事で、今この場には居ない。

「あ、おじさん」

「ミクちゃんか!元気にしてたかい?」

「え、うん…まあ…」

 久しくダイゴと会ったからか、先程の怒りが更に治まっていく。

「―――ところでハルキ様。娘は連れていらっしゃらないので?」

「ああ、はい。もちろん連れて来ていますが―――お前ら何してるんだ?早く来いよー」

「はーい!ち、ちょっとまって下さいね。こ、こらマオ!じっとしてなさい!」

「む、胸が苦しいですー!あとミオさん、爪が痛いですよー!」

「そんなデカいの付けてるそっちが悪い。サヤ、そっち持って」

「わかってるけどっ!うう、鎧ぐらい自分で着てよ!」

「ご、ご免なさいっ!」


「………」

 中々出て来ない他のメンバーの様子を見ようと、ハルキは開いたままの《ゲート》に顔を突っ込んだが、その先で繰り広げられている光景に唖然としていた。

「ちょっと待ってて下さいね村長さん。どうやら取り込み中みたいで。―――ヒトミ、頼む」

「はい…分かりました」

 何となく、状況を察したヒトミは妹達を連れ、一旦《ゲート》へ入る。

「申し訳ありません!うちの娘が…」

「いやいやいや!気にしないでください。もう、振り回されるのには慣れてますから」

「本当に!申し訳ありません、うちの娘が!」

 気がつくとダイゴは足元で土下座していた。


 数分後、ようやく今回のパーティーメンバーが揃った。

「お久し振りです、お父さん」

「おじさん、久し振り!」

「ああ、会えてうれしいよ、サーヤちゃん。それはそうとマオナ。お前、まさか普段からハルキ様にご迷惑を掛けてないだろうな?」

 先程の事もあってか、それとも親として心配なのか、ダイゴは必死になってマオに迫る。

「もう、お父さんったら、心配性なんですから」

 笑顔で答えるマオだったが、その後ろでは。


「いいですか、アキラ様、ミオ様。ああいう大きいのは力任せにズン!と押し込めば良いんですよ」

「あー、なるほど!普段の恨みを、そのままぶつければよかったのね」

「理解した。次はそうする」

 やけに悪意のある会話をしていた。

「お前らその辺にしとけよ」

 これ以上ややこしい事態にしまいと、ハルキが制止する。


 その後、一旦ダイゴの家、もといマオの実家へと足を運ぶ。そこではダイゴの妻・モカとメイド三姉妹が端正を込めて作った料理が振る舞われた。

「どうぞ。お口に合いますかは、存じ上げませんが…」

「気にしないで下さい。腕を奮って貰うのはこちらですから」

 ハルキを前に緊張を見せるモカに対し、ハルキは笑顔で彼女に敬意を表した。


 料理を見ると、野菜と肉料理のバランスが調えられており、主食であろうパン類と付け合わせのミルクスープの匂いが食卓に広がっていた。

「この村で取れた最高級の食材です。ささ皆様、どうぞお食べください」

 ダイゴの号令と同時、各々手を合わせて食事を開始した。

 豪華な料理が振る舞われるというのは、まるで貴族のような贅沢感に包まれるが、こうして皆がわいわいと食事を楽しむ様子は親戚の集まりのような庶民感も感じさせている。


「あの、ダンナ様…」

「ん?」

 ハルキが口にパンを頬張った所に、ヒトミが小声で話しかけた。

「あの、皆様人間態を解除していられるのですが、これはどういう事でしょうか?」

 そうだなのだ。ここは身内の出身とはいえ、一般の村の中だ。にも拘らず、彼女達は非人間である事を隠していない。

 猫人ケットシーであるミオはまだしも、アキラは擬態はせず、ミクやサヤも豚亜人オークの牙と半人半鳥ハーピーの翼を出したまま。実親の前でマオすらも牛人ミノタウロスの角を仕舞ってはいなかった。


 知らない彼女達からしたら、疑問に思うのも当然だろう。

 そこで、ハルキはあっさりと。

「あれ、そういや言ってなかったっけ。マオとミクとサヤの人外化は家族公認だぞ」

「ハイ!?」

 途端に声を上げたヒトミに、一同注目する。

「何か有りましたかな?」

「なななんでもありませんよ!ありませんから、皆様食事を続けて下さいませっ」

「ふむ。そうですか…」

 何やら不審に思いつつも、ダイゴは食事に戻った。食事に戻るというよりも、久々に会う家族との話を楽しんでいるようだったが。

「え?ええっと…?ど、どういう事なのでしょう?」

「…ちょっとこっち来い」

 ハルキは他の二人も呼び、メイド三姉妹を外へ連れ出した。

「丁度良い機会だから、お前たち達に話しておくよ」

 そう言うと、ハルキは昔話の様に語りだした。



 あれはそう、三年前の事だったかな。

 始めはあいつらも、ただの村娘だったさ。

 村の中で育って、村の為に働いて。ごく普通に暮らしていたんだ。

 だけどある時、あの“死神”がこの村にやって来た。

 なんの前触れも無く、ただただ唐突に。この村に死をもたらしに。

 僕らもその存在は聞いていたよ。仮面と漆黒のマントに鎌を持っているから、そう呼ばれるようになったらしい。情報はそれだけで、後は腕の良い暗殺者だとしか。

 どうしてこの村に来たのかは全く分からない。当時のここは貧相な村で、少ない資金と畑や家畜で養っていたからね。

 仮に領主や国から重税を課せられていたとして、規定の資金を払えないとしても、貴族がわざわざ暗殺者を雇う事は無いだろうし、この国はそこまで腐った国じゃない。

 それに、死神がやったのは虐殺だ。暗殺の「あ」の字もない。


 そこで何があったか、だ。

 突然に現れた死神に対し、その存在を知らなかったダイゴさんや村人達は、冒険者の者だと思って歓迎しようとしたらしい。

 だけど、死神は一人の村人の腕を切り飛ばし、次に胴体を切断し、最後に頭を切り落とした。ただ無言で。

 当然、村はパニックに陥った。

 死神は無作為に村人達を襲い、サヤの両親もその時に―――。

 村を守ろうと、立ち上がった勇者達もいた。その中にミクとその母親がいたって言う話だ。

 あいつの母親はシングルマザーで、家族は他に弟と双子の兄妹がいる。長女のミクは家族を護ろうとして、一緒に武器を取ったんだと。


 他の子供達や戦えない村人達は基本的に村長夫妻の下で一ヶ所に集まっていたそうだ。

 ただ、相手はプロの殺し屋。武器を持っただけの農民が勝てる訳がない。

 結果、多くの戦士が殺された。彼女の母親も―――。そして、最後はミクだけが残ってしまった。

 心配になったマオは親の元を飛び出して、彼女の下へと駆けつけたらしいが―――その時にはもう、闘いに参加した知人達は殺されていた。

 最後に、彼女の目の前で死神はミクの右腕を切ったんだ。

 血は吹き出し、想像を絶する痛みが伝わって、涙が出る。

 何があったのか、当時のあいつには解らなかったらしいよ。数人でよって集って戦ったのに、みんな殺されて自分一人になって、結局「死ぬしかないのかな」って思ったらしい。



「―――そんな事が…」

 ヒトミも、フミナも、ミツバも。三姉妹はこの村で起こった事件を聞き、驚愕と同情で胸が張り裂けそうだった。

「それで、ご主人様はどうやってマオさん達と出会ったの?」

 ミツバが尋ねる。

 そうして、ハルキはまた語り出した。



 僕がこの村に来たのは、それから一週間が経った頃だよ。

 まだ、冒険者としては初心の時期で、父さんと母さんを亡くしてから一年くらいしか経ってない頃でさ。

 丁度、ギルドで依頼クエストを確認してたら『“死神”という名の人物を探してください』っていう記事を見つけたんだ。

 最初は何事かと思ったけど、内容を詳しく見ている内に他人事に思えなくて。それからすぐ受注して、村に向かったのさ。


 村についてからは、色々と聞いたよ。何が起こったのか、“死神”とはどんな人物だったのか、何人殺されたのか。

 そこで分かったのは、死神はミクの腕を切り飛ばした後、急に立ち去った事だ。まるで、十分に殺したとでも言うように。

 だから依頼クエストも発注できたし、僕も駆けつけることが出来たんだ。

 皆殺しにされなかったとはいえ、村の被害は甚大だった。家畜を奪われたり、農作物を荒らされた訳でもないけど、多くの村人が喪った事は致命的だ。

 そこで、僕は言ってしまったんだ。多数の知り合いの死体を見てしまったマオに。両親を殺されてしまったサヤに。失った腕を見据えて、涙を溢すミクに。


「その腕を治す方法が―――仇を討つ方法がある」


 今になって思うよ。どうして、あんな事を言ったのか、何故、あいつらに人間を辞めるような選択を迫ってしまったのか。

 悩んだ末に彼女達は答えを出した。亡くなった村人の喪った家族の仇を取る為に、人間を捨てる決断を。



「「……」」

 ヒトミとミツバは、もう言葉が出なかった。知人や親を亡くすというのは、この姉妹にも経験がある事だ。

 しかしそれでも、あの三人の過去を知って、どう接していいか分かりそうもない。

「あの、私達わたくしたちは、これからどうすれば良いのでしょう…」

 不安の積もるヒトミの言葉に、ハルキは愛想よく答える。

「ん?別にいつも通りでいいよ。今じゃあもう過去の事だし。普段だって、気にしてる様子はないだろう。それに、変な気を回しても逆に傷が深くなるだけさ」

 そう言って、笑みを浮かべるハルキだったが、三姉妹の内、一人が居ない事に気付く。

「…あれ?そういや、フミナは?」



 主の話を途中で脱け出したフミナは、村の汲み水であろう井戸に自分の顔を移していた。

 丁度外の空気を吸いたかったので、元々頃合いを見て脱け出すつもりだったのだ。

「何か、結構凄い話を聞いちゃったなあ」

 いつもニコニコして、時々その豊かすぎる胸を妬まれるマオ。

 性格はキツいけど、何にでも突っ込んで意外に面倒見の良いミク。

 トリ頭なのに、実は手先が器用で細かい作業が得意なサヤ。

 あの三人にあんな過去があったなんて、想像出来ない。

 フミナは井戸の水面に映る自分を見据えて、やがて静かに目を閉じた。すると―――


〈なーに辛気臭ぇカオしてんだよ〉

 突然、何処からか声が聞こえた。背後には誰もいないが、はっきりと。それは姉や妹、そして主の声でもない。

 ()()()()()()()

 フミナは閉じていた目を開けると、水面に映る自分の姿が変わっていた。

 角は元々出していたが大きく曲がりくねっており、髪は真っ黒に染まって、背中からは堕天使を思わせる漆黒の翼が生えている。

 しかし、あれは紛れもなく自分だ。牧神の子孫である山羊人(パン)ではなく、上位悪魔·山羊頭の悪魔(バフォメット)の姿の自分自身。通称·黒フミである。(尚、山羊人(パン)の方は白フミと呼ばれている)


「別にそんな顔なんて…ちょっと驚いてただけじゃない」

 白フミは、水面に映る黒フミに反論する。

〈フン、別にお前が気にする必要もねぇだろ。ダンナも言ってたじゃねぇか〉

「それは、そうだけどさ…。やっぱり同情しちゃうっていうか…」

 白フミは井戸に背を向けて、まだ明るい空を見上げた。水面に映る黒フミも同じように動く。空には雲が風に流されながら転々としていた。

〈まだ生き残りがいるだけ良いだろ。私達(オレたち)が経験した事の方が、ずっとつらい〉

「そう、なのかな」

 白フミは顔を下に下ろして今度は地面を見やる。

〈そうだぜ。(オレ)が言うんだから間違いねぇよ。(オレ)はお前で、お前は(オレ)だからな〉

 白フミは見えていないが、水面の黒フミが頭をこちらに振り向けた。


〈で、どーすんだよ〉

「な、何よ急に」

 黒フミが突然口調を変えて語り掛けるので、白フミは思わず水面に振り返った。そこには、未だ背中を向けたままの黒フミの姿があった。

〈何って、あの不良共の事だよ〉

「そんなの助けるに決まってるじゃない!ご主人様に言えば、きっと―――」

 今度は強く反論した。しかし、途中で口が止まる。

〈…偽善だな。あんな奴ら、助けたところで意味なんざねぇ。だいたい、自分達で絡んでおいて、痛い目見て、そのくせ魔物のエサになるなんざ自業自得でしかねぇじゃねぇか〉

「でも!私達わたしの所為で捕まったのなら、責任はあるでしょ!?」

〈だから、そんな義理はねぇっつってんだよ!〉


 黒フミは白フミの考えていた事を改めて口に出す。彼女は、黒フミはフミナの黒い部分――もう一つの人格――であり、ある意味フミナの本心に近い。

 それを知っているからか、白フミはこれ以上食い下がれなくなった。

 自分――黒フミ――の言う通りだ。目的はどうあれ、村長からの依頼はジャバウォックの討伐と死神の拘束。そこに人質の救出ともなれば、難易度(レベル)はさらに高くなるのは目に見えてる。優先すべきはこの村の安全だ。


  更に言えば、他人にここまで気を使うのは、恐らく彼女だけ。

 山羊人パンは分類上、獣人種とされているが魔物ではない。その先祖は神々の一柱でもあるという。

 その所為か、白フミには人間として――半分は森妖精(エルフ)――の感性や良心が強く残っている。大抵は魔物になり場合によっては殺しも厭わないギルドである《モンスター・ファミリア》に於いて、ハルキ以外の人間に感心を持つ者は殆ど存在しないのだ。


〈わかったろ、あの人間達は諦めろ―――と、ダンナが来たぜ〉

「あ、ちょっと待ちなさい…あっ」

 気付くと井戸の水面には白フミの姿が移っていた。

「おっ、あたいたフミナ、探したぞ」

「ご、ご主人様っ。ごめんなさい、ちょっと外の空気が吸いたかったので」

 フミナは慌てて言葉を取り繕った。

「そうか。さ、戻るぞ。昼食を済ませたら、いよいよ作戦会議だ」



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