第12話 マジカル☆三女
――ミスタリレ王国 最東端:弾薬の荒地――
姉達に面倒事を押し付け、速攻で飛び去ったミツバはその後、優雅に空中散歩を楽しんでいた。
人気も無いことから気持ち緩めに翅も出して風を受けている。
昔の自分は、こうやって空を飛ぶ事を何度も夢見てきた。いや、妖精になる事を自分の夢にしていたのだ。
そして今は夢が叶い、悪戯妖精となってメイドもやっている。今の主には感謝してもし切れ無いというものだ。
しかし、障害物らしい障害物も無いのにも関わらず、ロック鳥の姿は見当たらない。というか、空は雲一つ無い晴天だ。
と、思いながらも地面を探し続けていると。
「あっ、見ーつけた!」
岩影にそれらしい物を見つけ、ミツバは対象向けて飛び掛かった。
ガシッ!と影の背中を掴むが、慌てる様子がない。どうやら、熟睡しているようだ。
それはそれとして、このロック鳥はどうも様子がおかしい。
やたら体がヌメヌメしているし、しかもよく見たら羽毛がない。
あー、これはずれっすわ。勢いに任せ過ぎたわ。
とにかく、何の生き物に取り付いたのかも分かっていないので、襲われる前に退散しようとしたその時、ヌッと背後からこちらを見る視線に気がついた。
恐る恐る後ろを振り向くと、目の前には鯰の首が。
「グオアアアアア…!」
「ギャアアアアアアアア!!」
一つ間を置いてきぼり、鯰の首は重厚な雄叫びを上げると同時に、ミツバもこれ以上無いという程の悲鳴を上げるのだった。
「で、こうなったと」
何があったのかを姉に話し、コクコクと大きく首を縦に振る。
「…どうしたら、ロック鳥とジャバウォックを見間違えるんだよ!?このドジ!」
「ごめんなひゃい…」
フミナに怒鳴られ、ミツバはどんどん小さくなった。比喩ではなく物理的に。やがて手のひらサイズになる寸前、ジャバウォックがこちらに向かってブレスを吐いた。それは黒い霧の様なもので、明らかに触ってはいけないと直感が騒ぐ。
「《魔法盾》」
ミツバは魔力で壁を作り、フミナと自身をブレスから護った。しかし見た目が見た目だからか、ブレスに包まれた瞬間、魚の生臭い匂いが辺りに漂う。
「「何これ、生臭っ!」」
あまりの臭さに、二人の声がハモる。
「お、お姉ちゃん、何とかして…!」
「クソ!わかってら!」
フミナは翼を大きく広げる事で、風を起こす体制を作った。
「《悪魔羽》」
漆黒の翼から羽根と共に禍々しい風が起こり、黒い霧を見事に吹き飛ばす。霧が晴れると同時に彼女は飛び出し、二丁のボウガンを構えて撃ちまくった。
「オラオラオラオラ!」
矢はまるでビームの様に射出され、ジャバウォック目掛けて一直線に飛んで行く。
魔弾となった矢は見事に命中し、その隙に後ろを取った。
「食らえ!」と再度ボウガンを構えるフミナに、ジャバウォックはその長い首をクルリと後ろに向けた。そのままブレスを放とうと口を開ける。
「ヤベェッ!」
このままじゃお姉ちゃんがっ!
ミツバは咄嗟に飛び出し、瞬く間にフミナの目の前に。体が小さかった為か、空気抵抗の影響が少なくして駆けつける事が出来たらしい。
「グオアアアアア!」
「《妖精の吐息》」
ジャバウォックの黒霧とミツバの魔法がぶつかり合った。互角かと思いきやミツバが優勢を取り、黒霧共々ジャバウォックを吹き飛ばす。
「ったく、もっと早く来いよ。あと、いつまでそのままでいんだよ」
言われて気付いたのか、ポン、と元の大きさに戻る。
「もう、助けてあげたのにそれはないでしょ!」
「協力プレイしてんだから、そのくらい当然だろ。…けど、まあ、一応礼は言っておく」
しかし、安心するのも束の間。地上に叩きつけられたはずのジャバウォックは、再度こちらに向かって――今度はその鋭く長い爪を掲げて――襲い掛かって来た。
間一髪で巨体を避ける二人だったが、ここまで来ると魔獣の強さを実感した。
「こいつ、思ったよりも手強いな」
「ジャバウォックって童話じゃ、もっと弱くなかったっけ?」
ジャバウォックというモンスターは竜種ではあるが、童話で語られる様に強い魔物ではない。ファミリアにも苦戦する者はいないはずだ。しかし、皮肉にも今現在その相手に苦戦してしまっている。
「どうする?もうちょっと本気出す?」
「バカ。ダンナの許可無しにレベルを上げれるか!もう少し様子を見ねえと―――っ!」
「グオアアアアア…」
悠長に考える暇もなく、Uターンしたジャバウォックは何度も爪を立てて襲い掛かってくる様だ。
「チッ!ミツバ、私がタゲを取ってる間にあいつを足止めしろ!」
「り、了解!」
フミナは矢で牽制しつつ、ジャバウォックを引き付ける為に一旦離れていった。
ミツバはその間に自身の武器《緑葉杖》を構え、魔法を放つため、杖で大きな輪を描いた。
「お姉ちゃん、準備出来たよ!」
「よし!オラ、しっかり付いて来いよ!」
フミナはもう一度ジャバウォックに牽制を掛け、方向転換してミツバの元に向かう。
やがて両者の間が狭まり、ギリギリのタイミングで魔法を発動する。
「行っけー!《魔力光輪》!」
描かれた光の輪を飛ばし、フミナはその中をスルリと通り抜け、体の大きいジャバウォックはぴったりと填まってしまった。
空中でもがく雑竜を、光の輪は更に締めつけ、同時に電撃を浴びせて抵抗させないようにする。
「っしゃ、これで決めるぜ《魔弾:黒十字架》!」
二丁の《黒山羊の十字弓》の銃口に、逆五芒星の刻まれた黒く小さな魔方陣が配置された。そこを中心に魔力が収束。漆黒の十字架が形成され、放たれた矢と共にジャバウォックに撃ち込む。
着弾と同時に《魔力光輪》が反応し、ジャバウォックごと大爆発を起こした。
しかし、なんという事か。爆発の中心にいたはずが、―無傷ではないが―力尽きる素振りもなく滞空し続けているではないか。
「ゴアアアアアア…!」
「嘘だろ!?何で死なねえんだ!?」
「これ可笑しいよね、絶対可笑しいよね!?」
状況に姉妹は困惑するも、フミナは冷静に判断を下す。
「と、とりあえず逃げるぞ!お姉と合流して出直そう!」
「う、うん。わかった…って、お姉ちゃん、後ろ後ろ!来てる!」
「うわああ!しかもさっきよりもスピード上がってるし!どうなってんだよ!」
逃げる二人にあと一歩でジャバウォックが追い付こうとしたその時。
自分達よりも一回りは大きい岩がジャバウォックの顔面に激突した。
「ゴアアア…」
これにはさすがのジャバウォックも昏倒しかけるが、すぐに体制を立て直してキョロキョロと辺りを見渡し始めた。
すると、今度は無数の矢が迫ってきた。これは弓使の特技、《五月雨矢》だ。
やはり高い知能を持つのか、ジャバウォックは矢の雨を見ただけで撤退を始めた。高速で飛行し、間一髪難を逃れたかのようにそのまま去っていってしまった。
「「た、助かった~」」
二人の力が抜け、ゆっくりと降下して地面に座り込む。
「まったく、本当に世話が焼けるわね。貴女達は」
「「お、お姉ちゃん!!」」
脱力した二人の目の前には、弓を持って立つヒトミの姿があった。
「いや~よかっただな。お仲間が無事で」
聞き慣れない、訛りの聞いた声。姉の後ろには、一体の鬼と何体かの亜人鬼の姿があった。
――ミスタリレ王国 東部:ライム村――
合流した三姉妹は、一旦村に戻り体制を立て直す事にした。ただし、鬼と亜人鬼のおまけ付きで。
「ここから先は村の領内ですので、ここで少しお待ちください。私が村長に話をつけて参りますので」
「いや~すまねえだぁ。このなりじゃ、人間からは怖がられて話も出来ねぇだよ」
「いえ、こちらも妹達を助けて下さる手伝いをして貰ったのですから。おあいこというものです」
律儀な姉は一礼し、村へと向かっていった。フミナとミツバが羽を生やして飛んでいた事については、魔法の一種だと言い訳してある。
この鬼達によれば、ここよりも遠い南地に殆どが亜人種で構成された街があるはしい。彼らは使節団として村々を旅しているそうだ。
ライム村に来たのも畜産業を学ぶためらしく、遠路遥々やってきたという事だ。
通常、モンスターである事が多い亜人種だが、長い間生存する事で知恵を持つ事がある。それが悪い方へ進めば種族の王として人間種を襲い、逆に良い方向に進めば人間には無害な存在となる。むしろ人間種よりも優れた能力を使って交流をする様にもなるそうだ。
暫くして、姉がが村長であるダイゴを連れて戻って来たので鬼達を案内しつつ、三姉妹は村に一時帰還した。
村は当然大騒ぎではあるが、彼女らが来た時とは真逆のリアクションでもあった。
ある程度の事情は先にヒトミが説明したそうなので、一旦ダイゴの自宅に向かう事に。しかし、体の大きい人喰い鬼は入れない事が解ったので、急遽外で対談を行う事となった。
「コホン。ええ、僭越ながら、仲介役は私ヒトミ・クラブスが勤めさせて頂きます」
やっぱり律儀な姉は自然に仕切り役に当たったようだ。
「先程もご説明した通り、こちら、人喰い鬼のマスル様は、遠い南の地より使節団として派遣なされたそうです」
マスルというのはあの鬼の個人名だ。以外と平凡な名前に、フミナとミツバは少し拍子抜けしたが。
「マスル様、こちらは、このライム村の村長、ダイゴ・パスクム様でございます」
「よ、止してくださいヒトミ様!あの方の使いである貴方様に敬称などは…」
「ダイゴ様。先程も言いましたが、私共はメイド。それ以上でも以下でもございません」
「しかし…」
「これでは、対談が進みません。この件は後に回して下さい」
と、ヒトミは眼鏡をキラリと光らせた。あの仕草を取った姉は半分相手に対する警告を表している。
それがダイゴにも伝わったのか、大人しく引き下がった。
「では、話を戻します。マスル様とその使節団の方々は、この村に訪れる最中、荒れ地でジャバウォックと遭遇したとの事。彼らは亜人種であるが為に、近くの村に知らせようとしても怖がられてしまいます。その為、彼らは自分達が暴れるような素振りを見せ、近くを通る村人や通行人を近づけさせないようにされていたそうです」
「んだ、んだ」
コクコクと頷く彼らだが、そのお陰で纏めて討伐対象にされていたという事は気にしてはいけない。現に、彼らも気にしていない。
「では、村人が見たという、モンスターの影というのは…」
「はい、恐らくジャバウォックでしょう。彼らはただ警告の代わりに通行人を脅していただけです。実際、彼らが人を襲った経験はありません」
「その事は素直に謝るだよ。オラ達、人間に怖がれた事は何度もあんだ。その性で村や街との交流は失敗続き」
後ろの亜人鬼達が一斉に首を振る。
「おまけに厄介払いされるように、ここまでやって来ただよ…」
何があったのか、彼らの中には話を聞いて泣く者もいた。
「そ、そうだったのですか。しかし、何故そこまでして村を護ろうと?」
「そりゃあ、これも仕事の内だ。まずは交渉相手の信用を取らにゃらんからなぁ」
また、亜人鬼達が首を縦に振る。
「その事については、こちらも後でお礼の品を用意しましょう。あの、ヒトミ様…」
「ヒ・ト・ミ、で結構で御座います」
そこまで下役に拘るか。挙げ句の果てにダイゴは恐縮するあまりで、逆に立場が逆転している気がする。
「あっ…はい…。では、ヒトミさん」
「まあそれならば構いませんか。何でしょうか?」
「その、ジャバウォックというモンスターは、対処が難しい魔物なのでしょうか?」
どうやら、やっと本題に入れたらしい。流石にこの話はミツバ達も無関係ではないので、真剣に耳を傾ける。
「本来、ジャバウォックは初心者の冒険者なら苦戦するような相手で、熟練の戦士であれば討伐は容易です」
そう、童話に出てくるような竜種なら―――
「ですが――これは私の憶測ではありますが、恐らくあの竜は魔石を大量に食した者と思われます」
「魔石?あの、キラキラ光る魔力の入った石だか?」
マスルは素っ頓狂な顔をして、ヒトミに問いかけた。
「はい。魔石はモンスターの産まれる、言わば卵の様な物でもあります。それを体内に取り込んだモンスターは、力を倍増させ、規定よりも上位のステータスを得る事が出来るのです」
因みに、それが出来るのは魔物としての存在だけなので、マスルのような善の亜人には食べてもお腹を壊すだけらしい。
「で、では、貴女方だけでは対処は難しいと?」
「現状では。ですが心配には御座いませんし、ダンナ様にお手を煩わせる様な事態には及びませんとも」
それを聞いて、ダイゴはほっとため息をつく。先程はは油断していたが、彼女達も本気を出せば、あの程度の雑竜は取るに足らない。
そうして、戦略を練っていた彼女達の元に村人から伝令が届いた。
「た、大変だ!村の近くに魔物が出たぞ!しかも、人を乗せてる!死神だ!」
「し、しに…がみ…!?」
それを聞いた村人達が、一斉に震え上がった
「お、お願いです、ヒトミ様…!ど、どどどうか村人達を助けて下さい!」
ダイゴも例外出はなく、ヒトミにしがみ付くようにして頼み込んだ。
「ど、どうされたのですかダイゴ様!?お気を確かにして下さい!」
ヒトミの呼び掛けにも答えず、彼はただヒトミにすがり付いていた。「村人達を護ってくれ」と、何度も言って。
とにかく、事態は急を要するに事を理解した三姉妹は、魔物が現れた場所に向かう事に。状況は掴めていないが自分達も力を貸そうと、マスルら使節団も参加してくれた。
現場に向かうと、そこ居たのは先程のジャバウォックだった。しかも、その背中には確かに誰か――恐らくは人間――が騎乗していた。漆黒のフードを被っているため、後ろからでは性別が判断できない。
あのジャバウォックが異常な強さを持っていたのは、あれが使役された者だったからだろうか?となると、背中に乗っている者の職業は召喚使か調教師、或いは騎乗士の何れかになる。
「おめぇさん、何もんだ!オラ達の商売を邪魔すると、取って食ってやるど!」
この人達は、どんな状況でもブレ無さそうだ。―――いろんな意味で。
マスルの呼び掛けでようやくこちらに気づいたのか、ジャバウォックと共にゆっくりと向き直る。
相手が正面を向いた瞬間、三姉妹、特にフミナが大きく動揺を起こした。滞空するジャバウォックの両前足と口には、人が提げられていた。あの時絡まれ、そしてフミナが力の差を見せつけた、あの不良冒険者の三人だ。
「あ~ら、誰かと思ったら、人間の村に半人半精と亜人鬼?鬼もいるじゃない。アンタ、こんなザコにやられて帰ってきたの?」
発せられたのは、女声。それもまだ幼さの残る、恐らくは少女の声。少女と思わしきその人物は、フードだけでなく仮面をつけて全身と顔を隠していた為、年齢も正確に把握出来ない。
叱咤されるジャバウォックは、グレイを咥えたまま頭を少しさげ、小さく唸りを上げた。どうやら、主従関係があるのは間違いない様だ。
「あなた!その人達は何処で!?」
フミナには仮面の少女よりも、捕まっている不良達しか目に入っていないようだった。
「何処って、適当にここまで来る時に見つけただけよ。だって、こんな辺鄙な場所で気絶してるんだもん。丁度良いから、この子の餌にでもしようと思って」
「―――――!」
自分のせいだ。と、フミナは深く後悔した。あの後すぐ怯えて逃げ帰ったかと思っていたが、まさか気絶していたとは。幾らなんでもやり過ぎたんだ。
「ふ~ん。ねえ、あなた達名前は?」
突然、仮面の少女は質問をしてきた。この状況で名を尋ねたのだ。
「私はヒトミ。この子がフミナ。こっちがミツバです。―――そちらのお名前を伺っても?」
「その前に、あなた達は何処のギルドに入ってるの?自慢じゃ無いけど、この子、結構強い方だよ。撃退されて戻ってくるなんて初めてなんじゃないかなぁ。ねえ、教えてよ。何処の強い人?」
問いに問いを返す少女に、所属を教えるか一瞬迷ったが、ギルドの名前事態は広く知れ渡っている。だとすれば、何処かで聴いた事があるだろう。なら、隠しても仕方がないかもしれない。
「所属は《モンスター・ファミリア》です。名前ぐらいは、ご存じでは?」
「…そう、《モンスター・ファミリア》ね。―――あなた達がそうなのね!」
仮面の下でよく分からなかったが、声は笑っていた。それが嘲笑なのか、それとも感嘆から来たものかは読み取れなかったが。
「わたしは…そうねぇ、なんと言ったら良いかしら。とりあえず、《死神》とだけ言っておくわ」
―――《死神》。村の人間はその名を聞いて怯えていた。彼女はかつてこの村に訪れた事があるのだろうか。
「んなら、次はオラ達の―――」
「黙れ」
次は自分達の番だと名乗ろうとしたマスルに、少女はその仮面の下から殺気を飛ばした。その殺気に、亜人鬼達は怖じ気づいて行く。マスルも、ついに膝をついてしまう。
「ただの亜人風情が、お前達なんかに興味はない」
気色を変えた少女はそう吐き捨て、再び三姉妹に目を向ける。彼女達も同時に身構えた。
この殺気は人間技ではない。なら、何者なのか。しかしそれも黒いフードと仮面が隠してしまっている。
「あなたがここに来た目的は何?」
ミツバの問いに死神は。
「まあ、ちょっとした実検かな」
「実験…?」
「ええ、魔石を使った実験でね…」
と、彼女が良いかけた時。
〈そこまでにしてくれないかねぇ、死神サン〉
何処からともなく、声が聞こえた。何処となく爽やかで、それでいて落ち着いた声が。
「誰!?」
フミナが叫んだ。
〈おいおい、そこまで怒るなって。ちゃんとここにいますよっと〉
突然、何も無いところから青年が現れた。まるで絵具が浮き出るように、スゥっと。
その光景にヒトミは心底驚いた。自身の耳は人の数倍の聴覚があり、数メートル先の足音を聞き取る事が出来るはずだ。妹達がもいるため、普段なら気づかないはすがないのだが…。
現れた青年が緑を記帳とした盗賊服を身につけている事から、恐らく高度な特技を持った盗賊か暗殺者だろう。
「ったく、こちらの情報を勝手に流さないでもらえますかねぇ、死神サン」
「あら、彼女達なら別に良いんじゃないの?」
「良くねぇっすよ。あんたも仕事でやってんなら真面目にしてくだせぇ」
何の話しかさっぱりだが、その“実験”というのが気になる。一体、何が目的なのか。
「では、もう少し詳しく教えて頂けませんか、その実験というものを」
キラリ、とヒトミの眼鏡が光った。
「…まあ、仕方ないか。それならあんた達のボスにも伝えとけ。僕らは今、魔石による効力が何処までの物かを研究している。そういう組織の者だ。ここに来たのも、あくまで実験。このジャバウォックを使って、データを集めているだけだよ」
魔石の研究?組織?伏せている部分が多すぎて話に付いて行けないが、彼らが危険なら存在だという事は理解出来た。
「で、その人間は何なの?」
青年は突然に話題を変え、死神に不良達について尋ねる。
その言葉を聞いてか、フミナは叫んだ。
「その人達を放しなさい!さもないと…」
「さもないと?」
少女は叫んだフミナに先の様に殺気を飛ばす。
「―――っ!」
「あ、そうだ。ねえ、あなた達、私達と勝負しない?」
「勝負…?」
「そう、私達が何処かに隠れるから、あなた達はそれを見つけて、ジャバウォックを殺して見せて。ただし、私の気分でこの人間を一人づつ殺しちゃうかもしれないから、気をつけてね」
先程からコロコロと気色を変える死神が、今度は勝負を仕掛けて来た。しかも、自身の気分で人質を殺していくと言う。
「で、僕も付き合わなきゃいけないわけ?」
「もちろんよ。強い奴と戦わせた方が、当初の目的も達成出来るでしょう?」
「はぁ、アンタは本当に我が儘な人だねぇ」
「当然。だって私は強欲な女ですもの。やりたい事は全部やるし、欲しいものは全部欲しいわ。うふふ…」
仮面の下より不適に笑って見せる少女に、青年は肩を落とした。
「それじゃ、私達はもう行くわね。乗りなさい、アル」
ひょいっと、青年は死神の後ろに乗り込み、ジャバウォックは人質をつれたまま上昇し始めた。
「まてっ!」
追いかけようとするフミナだが、突風が邪魔をする。
「かくれんぼは明日から始めましょ。それまでは殺さないで待ってあげる。それまでに見つけられたら、全員無事よ。でもその後は―――ふふ…」
風が止むと、荒れ地の景色だけが視界に映った。
ジャバウォックもあの緑の青年も、そして《死神》を名乗る少女も不良達も。全てが幻だったかのように、痕跡もなく消えてしまっていた。
ダイゴ 種族:人間
マオの実の父親。ライム村という、村の一村長でもある。ハルキへ一種の忠誠心を持っているようで、村で採れた農作物や家畜の肉等が豊作になると彼に贈ることがある。普段は妻であるモカには尻に敷かれているが、村と家族の事を第一に考えている。
モカ 種族:人間
ダイゴの妻、マオの母親。気の強い性格から、夫であるダイゴを尻に敷いている。パスクム家の女性は生れつき怪力の持ち主として産まれるらしく、マオもその影響。当然モカも怪力を持ってはいるが、マオの方が強いとの事。実家を離れた彼女の事を深く心配している。




