表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
COMRADE ~最強の魔術士の憂鬱~  作者: 小田虹里
第二章 ~選ばれし者の章~
PR
71/285

危険信号

エリオスの皇子の説得にあたるサノイ。

一方、謎の地に送り込まれたレナンは、精霊長と再会。

そこで、「シード」という、右眼のみが緑の青年と出会う。

シードは、「草」の在処までレナンを案内し……?

「兄様」


 神妙な面持ちで、ジンフィールは立ち尽くしていた。ジンフィールは眉間にしわを寄せ、オレンジという不思議な瞳の色をギラつかせている。

 ジンフィールと私は、同い年。数ヶ月、私の方が先に生まれているだけであり、ほとんど人生の経験値は同じと言える。

 ジンフィールは、エリオスの第十四皇子。リークこと、リークハルトは第十二皇子である。私が第十三皇子ということで、此処に居る三人はエリオスの末っ子集団だった。


「サノイ。兄様はもう、昔のようには戦えない」

「視力のことを言っているのか?」

「そうだ。兄様はサノイのように、魔術士でもないんだ。剣でどう立ち向かえっていうんだ」

「ジンフィール。私は……」

「それとも、何か? サノイは兄様を死なせたいのか!?」

「…………ジンフィール」


 私は言葉を止め、首をゆっくりと横へ振った。それでも、ジンフィールは納得しないであろう。

 ジンフィールは、二十四という年にしては、小柄だった。落城の影響があると考える方が、自然だろう。ストレスのせいで、成長ホルモンが出なかったのかもしれない。ただ、ラナやレナよりは、背丈がある。ラナとレナの双子は、おなごのように小さく、華奢だったが、ジンフィールは筋肉はほどよくつき、女性には見えなかった。


「仇討ちを、したくはないか?」

「興味ない」

「では、世界を変えたいとは思わないか?」

「俺は、此処で兄様と一緒に住めればそれでいい」


 その瞳には、覚悟の色が浮かんでいる。本当に、戦うつもりはないらしい。正直、「勿体ない」と思った。

 ふたりとも、エリートとして育てられた軍人でもあるからだ。一般市民よりも、剣の扱いには長けているし、敵兵と戦う心得があるはず。こんな偏狭の大陸で埋もれさせているには、惜しい人材だと、率直に思った。

 だが、視力をほとんど失くした「兄」を、危険にさらしたくはないという弟の気持ちが、分からない私でもなかった。正直、迷いが生じている。

 私は、ふと息を吐くと再びリークの方に視線を移した。変わらずに、優しい笑みを浮かべている。


「サノイ。僕は、戦っても構わないよ」

「! 何を言うのですか、兄様!」


 それに最も驚いたのは、弟のジンフィールだった。慌てて止めに入るように、こちらに足を向け、駆け出す。そして、私とリークの間に割って入って来た。そんなジンフィールの頭を優しく撫でるリークは、自分の中でケジメはもうつけているように見えた。


「ジンフィールが何と言おうと、僕はサノイに力を貸すよ。こんな身体で、何ができるかは分からないけど……出来ることを、全力でしたいと思う」

「此処……ミスト大陸から出るということですか?」

「そうなるのかもしれないね。それは、サノイたちの判断によると思うよ。どうなんだい? サノイ」

「作戦を練っているのは、リーダーのラナこと、ラナンだ。ラナからまだ、詳しい話は聞いていない。ただ、エリオスの血を引くふたりを、仲間として迎え入れたいということだけは、明白な方針なんだ」

「何で…………何でだよ! 俺たちはもう、血を見たくない。あんな、恐ろしい光景……もう、見たくない!」

「誰かがやらなければ、多くの犠牲は続く。このミスト大陸も、安全ではないんだ」


 私は、敢えてジンフィールを不安がらせたかった訳ではなかった。それでも、覚悟を決めて欲しいとは思っていた。ジンフィールの剣の腕はまだ、計り知れない。ただ、炎の中。攻め落とされたエリオスから、失明した兄を連れ、逃げ延びた実績がある。それなりの「運」は、持ち合わせているとみていい。


 人生、最終的には「運」で決まることも少なくない。


「この手で、犠牲者を減らせるなら……助かる命を増やせるなら、尽力を注ぎたいとは思わないのか? エリオスの皇子は」


 私はゆっくりとジンフィールのオレンジに染まる瞳を見つめた。


「クライアント第三皇子の私は、戦う。クライアントの名に、恥じぬ生き様を民に見せたい。志半ばで亡くなった、兄上の分まで、戦う…………そう、決めた」

「…………サノイ」


 ジンフィールは、しばらく黙った。


 まだ、リオもラナも来ていない。時間ならある。少しくらい、考える時間があってもよいと考え、私はふたりの答えを待った。



「片目が……緑って、何で」


 シードと言われた少年、或いは青年は、無表情のまま再び前髪で隠れた右眼に手を当て、俺の顔を見た。

 その容貌、誰かに似ていると思ったが、すぐには結びつかなかった。


「俺は、半端な人間。生まれ落ちたその日から、風に育てられた」

「風って…………なんだよ。名前?」

「風は、風」


 そのとき、ぶわっと砂埃を巻き起こし、俺の目の前に耳が尖って、瞳が色素のかなり薄い青、というより水色に近い色の少年が現れた。ひと目で、「人間」ではないということは分かった。


「もしかして…………風?」

「そうだよ。僕は、風。風の精霊のひとり、ウィル」

「ウィル…………精霊なのに、姿が透けていない。なんでだ?」

「僕たちは実体化することだって、出来るんだよ。まぁ、限られた人間にしか、その姿は見せないけれども? 見せたって、驚くだけでしょう? 力の無駄遣い」

「風。この人間は、敵じゃないということか?」


 シードの瞳は、どこか冷めていた。鋭い光を放っている訳でもなく、「意思」がこめられている訳でもない。ただ単に、冷めている。操られていたルシエルの瞳の輝きに、似ているところがあった。


(まさか、精霊に操られているのか……?)


 そんな仮説が頭をよぎる。俺は、このシードという青年から距離を取ろうと、左足を半歩下げた。そして、低姿勢になる。臨戦態勢だ。しかし、今持ち合わせているのは、ラバースの支給品である剣ではない。粗末なナイフしかなかった。護身用に持っていた、小型ナイフだ。切れ味もよくない。

 俺の様子を見て、精霊長は再び俺の脳を揺さぶってきた。実体化できるのならば、そうして話して欲しいものだと、悪態をつきたくなる。


『シードもウィルも、お主の敵ではない』

「それは、俺が決めることだ。アンタの指図は受けない」


 そのとき、ザワザワと幾つもの生命体を感じた。それらは、実体化していない「精霊」だということに、直ぐ気づいた。


「脅してくるのか? アンタたちのやり方にはもう、うんざりだ。ひとを勝手に、水の長の生まれ変わりだと決めつけたり。何でもかんでも、推しつけ過ぎなんだよ!」


 そこまで一気に吐き出しても、まだ、俺は満足しなかったらしい。次から次へと沸き起こる不満を、ぶちまけた。

 空気は綺麗だ。あの、あまったるい香りで支配されていた、ミスト大陸なんかよりも、ずっと居心地はいい。けれども、長居したいとは、思えなかった。


 きっと、俺はナチュラルな人間なんだろうと、確信できた。


「俺は、ルシエルに悪影響を与えた草……何かの薬物について、知りたい。それだけだ! アンタらは、ルシエルを使って何をしようとしている!? アイツを、これ以上苦しめるな。これ以上、アイツを壊すな!」

『お主は、ルシエルの加担をするのか?』

「アイツは、人間だ。魔術士の前に、ひとりの人間だ」

『アイツは、契約者だ。ただの人間とは異なる』

「? 契約者?」


 また、俺の知らないアイツの顔があるのかと、俺は嘆息した。謎が多すぎる。それでも、俺はアイツを嫌いにはなれなかった。


 孤独と戦っていると、知ってしまったから……。


 独りで、何でもかんでも背負わせるのは、嫌だと思った。


「契約の話は後から聞く。何なら、別に教えてもらわなくても結構だ。俺が知りたいのは、薬物について。それの正体、成分を知っているのなら教えろ!」

「精霊長に対する礼儀が、まるでなっていない坊やだなぁ」

「部外者は黙ってろ」


 俺は、「風」という存在に厳しい目つきでけん制した。ただの人間の睨みで、動けなくなるような精霊は居ないと思ったけれども、案外効果はあったらしい。風や、ざわつきは静かになった。


『シード。案内してやれ』

「…………」


 左の青い目を薄く光らせると、そのままシードは木々の中へと入っていく。ついて来い、ということなのだろう。風もシードの後ろにぴったりつけて、歩いている。白いタンクトップのような、ゆるい服を身にまとった、人間には到底思えない美貌をもった実体だった。

 俺は、ふたりの後ろ……五メートルほど開けたところをマークし、森の中に入った。

一キロくらい真っすぐに歩くと、その先には湿原があった。そして、一面に赤色の葉を広げた植物が生えている。野生というよりは、此処で育成されているように見えた。


「名もなき草」

「?」

「それが、毒草の正体」


 シードは短く告げると、毒草に背を向けて俺の方を見た。


「この草で、世界を終わらせる」


 俺はそのとき、自分の身ではなく、世界に危険信号が灯っていることを察した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ