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COMRADE ~最強の魔術士の憂鬱~  作者: 小田虹里
第一章 ~目覚めの章~
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弟子に志願

 最強の魔術士「ルシエル」のもとを訪れた、ラバース傭兵の「レナン」は、ルシエルの弟子になりたいと志願する。


 しかし、ルシエルは難色を示す。


 そこには、どんな意味がこめられているのか……。


 アクアリーム。


 港街の「レラノイル」の近くということもあり、「水」をモチーフとしたオブジェなどで賑わっている、フロート領域の街のひとつ。そこで、レナンとラナンは一戦交えていた。小さな黒魔術士を庇っていたこともあり、ラナンは思うように動けず、レナンに敗北を喫したと聞いている。ただし、とどめはさせなかった。それは、レナンの意思がそうさせたのではなく、ラナンの片腕「リオス」によって、阻まれたということも知っている。当時は、まだ仲間の数も少なく、「サノイ」皇子も別行動をしていた為、ラナンの背中を護る存在は、「リオス」だけであったと記憶している。

 一方、レナンは自らが小隊長となり、ラバース兵を率いれていた。それでも、ラナンとリオスを前にしては、歯が立たなかったようだ。


「勝ってなどいない。あれは、あいつが……子どもを庇っていたから、偶々だ」

「偶々も、実力のうちだよ。甘さは、戦の場では命取りとなるからね」

レナンは憮然とした顔をして、面白くなさそうに背もたれに深く腰を掛けて、腕を組んでそっぽを向いた。私の言葉は慰めのつもりなどではなく、本心だったのだが、レナンにはその真意が伝わっていないようである。私は「やれやれ」と言わんばかりに、同じように深く椅子に腰を掛け座りなおした。

「キミはラバースに、魅力を感じているのかい?」

「あんたは俺に、ラバースを辞めて欲しいようだな」

「そういう訳でもないけど、魅力を感じないところに居続けても、キミの為にならないとは思うよ」

レナンが、ラバースに居場所を無くしていることは明白だった。もともと、ラナンがラバースに入ると決めたから、続くように入隊したと聞いている。そのラナンが居なくなってからは、ラナン討伐を自ら買って出て、没頭していたが、その任を外された今、道を見失っている。ラナンを憎んでいるのならば、それこそラバースを辞めてその手で息の根を止めればいい。それをしないところを見ても、レナンはラナンに完全なる敵意を持っていないことも分かる。

「……頼みがある」

「何かな」

レナンが何を言い出そうとしているのか、先読みは出来た。でも、敢えて本人の口から聞きたいと思った。

「俺を、弟子にして欲しい」

「……私の弟子は、カガリと決めているんだ」

「ふたり居たら、駄目なのか? それとも……俺に、素質がないから……」

私は直ぐにかぶりを振った。

「出来れば、キミに師事してあげたいと思う。だけど……ッ!」

私は不意に、胸の奥からこみ上げてくるものを感じた。胸の痛みと共に、その息苦しさから逃れようと強く咳き込んだ。

「ゴホっ、ゴホ……ゴホっ」

腕で口元を隠すようにして、なるべく空気を吸い込みすぎないようにしながら、少しずつ、落ち着きを取り戻そうとした。だが、こういうときに限って発作が治まらない。

「お、おい……大丈夫か? 誰か呼ばないと……」

私は立ち上がるレナンの腕を左手で掴み、咳き込みながらも首を横に振った。こんな姿を見せる訳にはいかないし、まだ、城の誰にも覚られてはいないのだ。この、「病」のことを……。

「だ……ぃ、丈夫……すまない、水を」

「えっ、あ、あぁ……水だな? どこにあるんだ?」

ガタっと立ち上がると、レナンは部屋を見て周り、水入れを見つけると、空のコップに水を入れて私のところに持ってきてくれた。私は、ズボンのポケットから粉末状の薬を取り出すと、それを口にし、すぐに水を飲んだ。しばらくは息苦しさが残り、嫌な滲み汗もかいた。その様子を、レナンは黙って見守っていた。私が倒れないようにするためか、椅子には座らず、私の隣で膝たちをし、いつ私が倒れてもいいように、控えている。

 私の力が弱まったせいで、魔術の効果が切れた。室内を明るく照らしていた光の球は消え、温もりを保っていた火の魔術も消えた。そのために、急に身体が冷えてきた。

「暗くなったな。明るかったのは、やっぱりあんたの魔術の力か……それが保てなくなるっていうくらい、今のあんたは弱っているってことだろう?」

レナンは私の腕を掴むと、自分の首に回し、小さな背丈で私を何とか背負おうと、力を入れてきた。脱力している大人を立たせることは、至難の業だ。それも、体格差が非常にある。私は、レナンよりも頭二つ分ほどは背が高い。痩せ型だが、レナンはそんな私以上に華奢だ。肉付きがまったくと言っていいほど無い。

「無理、しなくて……いい」

「無理をしているのはお前だろう。いいから喋るな。ベッドにいくぞ」

レナンは腰を入れてグッと踏ん張った。私も何とか力を入れようと、足腰に力を入れた。口元を押さえていた袖には、赤い染みが出来ている。

 見た目の割りには、レナンは力強かった。私を何とかベッドまで運ぶと、私は靴を履いたまま、横になった。いつ、召集がかかってもいいように、私は靴を脱いで寝たりはしない。いや、この世界では、靴を脱いで寝る習慣は殆ど無い。


 西暦七一二〇年。


 今、この星は「地球」という名で呼ばれてはいない。


 ディヴァイン。


 「セルヴィア」という女神によって再構築された世界として、歴史を刻んでいる。


「寒くはないか?」

「……少し」

そう言うと、レナンは自分の着ていた隊服を脱ぎ、私の上に被せた布団の上に、さらに掛けてくれた。

「気休め程度にしかならないだろうが、無いよりマシだろう?」

「すまない。とても、あたたかいよ」

私は内心で驚いていた。

(この子が、こんなにも優しい子だったなんて……)

レナンは、ラナンとは違って、冷淡な面を持っていると思っていた。しかし、この様子を見ていると、とてもテキパキとした対応で、冷淡どころか、真逆で優しいではないか。

 この子は、少し歪んでしまっただけなんだ。「ラナン」という「革命者」の双子の兄の影で、比較され、居場所を無くして来たのだろう。

「……そういうことなのか」

「……?」

私は、声は出さなかった。出すと、また咳き込みそうだったからだ。

「胸を病んでいるんだな、あんた」

「……」

「だから、弟子はもう取れない……そういうことなんだろう?」


 半分当たり。


 半分外れ。


 でも、正直に言う必要は無い。


 私は静かに頷いた。


「……医者にはかかっているようだな。世界最強の魔術士が、病なんかで死ぬなよ」

「……」

「死」については、昔からよく考えていた。ただ、こうして誰かに「死ぬな」なんて言われるのは、久しぶりのことだ。それこそ、「彼女」くらいなものだった。この世界を護るために、「人柱」となった、私が……唯一愛した、女性。




 アリシア。



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