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COMRADE ~最強の魔術士の憂鬱~  作者: 小田虹里
第二章 ~選ばれし者の章~
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不自然なもの

異教徒の大陸へ、任務で向かったカガリ。

そこで、ある人物が待ち受けており……?


一方、宿ではラナンが熟睡をしていた。

それを見守るレナンは、ラナンの身体の傷について思い出す。

 ハース信仰。


 それが確認されているのは此処、「ミスト大陸」だけだ。魔術士は居ても、白魔術士しか居ないという、不思議な地。「攻撃魔術」を一切扱えない白魔術士たちが募る地ならば、此処が「聖地」だと言われると、それを否定する要素がないように思われる。ただし、何故「不吉」と称される「黒」を基調としたローブを身にまとう習慣になっているのかが、未だに不思議だ。


 私は、とうとうフロートのある「セリアス大陸」から離れ、異教徒の地へと再び戻ってしまった。


(ルシエル様は、無事だろうか。レナンと共に、どこへ行かれたのだろう)


「しばらく、休暇を取る」とも言っていたけれども、今、城は緊迫した空気に呑まれていた。レジスタンスが近くまで来ていたという噂が、レイアスだけではなく、門番にまで伝わるほど、騒ぎとなった。結局は、ルシエル様が「戯言」としてまとめようとしていたのだが、そんな中で、当のルシエル様が暢気に「休暇」なんて取るだろうか。あまりにも不自然で仕方がない。第一、あの国王とジンレートが、消えたルシエル様を、知らないで通しているところがまた、不自然すぎるのだ。


 この、黒くて「白」の魔術士たちを見る異様さに、それは似ているものがあった。

 

 私は、白いコートを着ている。そのため、余計にこの大陸では浮いて見えてしまった。それでも、他に私服がある訳でもなく、フロートから支給される軍服を身にまとう気にもなれないため、そこを気にしすぎていても、先には進めない。


(そうだ。ルシエル様が気になるなら、早く此処での仕事を終わらせ、城へ戻ろう)


 私は思いなおすと同時、ふと、大ボケをかましていることに気づいた。


「私は此処で、何をするんだ……?」


 異教徒の前で佇みながら、私は風に掻き消されるほど小さな声で、間抜けなことを呟いていた。



 朝。


 目を覚ますと、隣のベッドには自分に瓜二つである小柄な青年がまるくなって眠っていた。朝の陽ざしを浴びて、髪の毛がより、黄金色に輝いている。どこを取ってみても線が細くて、色白。肩幅もない。背丈もない。閉じていても分かるほどの、大きな目。自分のことを棚に置いて、「女みたい」と率直に思った。


 兄は、こんなにも小さかっただろうか。


(くたびれていたんだな…………ラナン)


 気配ですぐに飛び起きるほど、神経質なラナンが、俺がこうして目を覚まして観察しているというのに、まるでその気配がない。すやすやと、安心しきった寝息を立てて、目を閉じている。


(言わなくていいとは言ったけど……誰と会ってたんだろ、ラナン。なんか、すごい取り乱していたから、聞けなかった)


 此処まで熟睡していれば、起き上がってみてもラナンは気づかないんじゃないかとも思った。俺が実際、深夜はラナンが起きたことに気づかなくて、ラナンが大きな声を出すまでベッドで完全に眠っていたからだ。今はまさに、ラナンがそんな感じがするほど、意識を手放しているように見える。俺に気を許しているのか、何か、安心できたのか……やはり、酷く疲れていたのか。

 一緒に風呂に入ったときに、ラナンは身体を俺には見せないようにしていた。男同士、それも、双子の兄弟だというのに、何を恥ずかしがっているのかと思ったら、そうじゃなかった。ラナンは、傷だらけの身体を、俺には見られたくなかったというのが分かった。

 別に、無理やり裸にさせた訳じゃない。たまたま、魔術の「透過」によって、裸が見えてしまっただけだ。


 そう、事故だ。


 火傷には、身に覚えもあって辛かった。ラナンがレジスタンスに、新しく黒魔術士の子どもを仲間に加えたときだ。確か、「アト」と呼ばれていた。あのとき俺は、村に火を放っている。そのときに、火傷を負ったものかもしれない。

 当然。当時は「魔術」を俺は持っていなかった。「当時」どころじゃない。つい最近まで、俺は単なる剣士のひとりだった。


「…………」


 魔術士になってみて、世界観は変わったのか。まだ、よく分からない。ルシエルは、俺に自分の魔術をすべて継がせると言っていた。でも、結局中途半端なところで投げ出されてしまった。聖域から、ここがどれだけ離れているのかも分からない。ルシエルが、どこへ消えたのかも全くもって分からない。


(あんなにも酷い傷で、病まであるんだ……城で養生出来ていればいいけど)


 ルシエルがひとりで、城へ戻った可能性はゼロじゃない。それなら、それを望みたい。他にも、隠れ家のようなものを持っていそうだったけど、その場所を俺は知らない。これからルシエルにコンタクトを取ることはきっと、俺からは無理だと思った。


 俺が、レジスタンスの一員となったからだ。


 窓は閉まっている。しかし、皮膚を冷たい風が撫でていく。暑かった季節を過ぎ、少しずつ涼しい季節がやってきたのだと、実感する。日が昇っている時間も、次第に短くなる。活動時間が、それだけ短くなるということだ。ただし、「冬」が来てもこの大陸では、滅多に「雪」は降らなかった。

 ちなみに、サノイの故郷「クライアント」がある「オズノ大陸」では、一年のほとんどが「雪」に覆われている地域だ。その為か、サノイの肌は雪国特有とでも言えるほど、肌が白い。俺やラナンも色白だが、サノイの白さはまた、別のものがあった。


「…………」

「?」


 寝返りをうったラナンは、何かを呟いたような気がした。しかし、聞き取れない。もう一度くらい、喋らないかと思って注意深く耳を傾けてみたけれども、無駄な努力だった。


 太陽の位置が、三十度ほどさらに高くなる。その頃になると、隣の部屋からも気配を感じ取った。リオスとサノイが起きて、小声で何かを話しているのが、空気のほんの少しの振動で読み取れた。ただし、中身までは悟れない。こんな能力が身に着いたのも、魔術士となり、ルシエルのところで少し学んだ結果だった。空気の振動で、ここまで読み取ることは凡人な剣士だった俺には、想像も出来なかった。

 時折、ルシエルは風に語り掛けていた。それは、こういう原理を使って、誰かとコンタクトを取っている証だったのかもしれない。


「…………!」

「ラナン?」


 突然、ラナンが目を開けると同時。ガバっと布団をどかして飛び起きた。それを見て、少し驚きながらも、俺はとりあえず挨拶をした。


「おはよ、ラナン」

「…………」

「?」


 違和感を、覚えた。


「ラナン? おい、どこ見てるんだよ。嫌な夢でも見たのか?」


 焦点が定まっていないラナンの身体を、揺さぶる。それでも、ラナンは依然として、どこを見ているのか分からないところを、見続けている。まるで、そこに何かがあるかのように……だから、俺もそっちの方を向いてみた。


 ただの、木目が荒いこげ茶色の壁があるだけだった。


「レナ…………どこから、来たと言っていた?」

「は? 急に何の話だ?」

「俺たちのもとに、どうやって…………どこから!」

「せ…………聖域から、転移の魔術で」

「…………」


 ラナンはそれっきり、しばらく口を閉ざした。



 行く当てがない。


 理由もよく、知らされずに派遣された大陸。


「神」なんて、信仰していない。


 そんな私に、この「ディヴァイン」では圧倒的な支持を得ている神「セルヴィア」でもない、マイナー……なんて表現をしたら、怒られそうだが、「ハース」という神を崇める団体に送りこませて、何の意味があるのだろうか。


「今更、どうなる? 私に何を望んでいるんだ?」

「ザレス国王に、確認しなかったんですか?」

「にやついているだけで、詳しいことは…………って、え?」

「遅い到着ですね」


 私を出迎えたのは、あまりにも此処では浮いてしまう容姿。


 長く外にハネた金髪の髪に、青い瞳。


 白を基調とした、ゆったりとしたローブ。


「ソウシ!? 何故、此処に…………?」

「頼まれごとをされて、派遣されました。さぁ、行きましょう?」


 岩に腰かけていた男は、ソウシ。ラバースSクラス時代に、共に戦った仲間。私の数少ない友人だった。


「頼まれごととは……ザレス国王から?」

「さぁ、どうでしょう」

「?」


 相変わらず、謎が多い男だと思った。


 それでも、何をすればいいのか分からない私にとって、ソウシの登場は救いだった。



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