異変の双子
ルシエルとレナンの為の、食料調達に向かったカガリ。
そこで、目覚めたばかりのラナンの食料を調達しにきていた、レジスタンスと出くわし……?
「ん…………ん」
「お目覚めですか? ラナ」
「随分と長い眠りだったな、ラナ」
ぼーっとした目つきで、まだ、リオの腹部に頭を乗せて、目をしぱしぱとさせている。日はまだ、真南にも来ていない。朝の十時頃だと思われる。
腹部の傷を含め、すべて治癒されているが、やはり失血量が多すぎたのだろう。眠ることにより、体力を少しでも回復させようと、自然治癒力が働いていたようだ。それでも、失血した血液が戻る訳ではない。すぐにでも、何かを口に入れる必要性があった。
「セア。リオと一緒に街へ行って欲しい。食料調達を……なるべく、胃に優しいものを選んで欲しい」
「俺は?」
「クレは、あまり人目につかないようにするべきだ。此処で待機」
「……分かりました」
クレは黒魔術士であり、レジスタンス。別動隊として動いている「アト」と同じ立場だが、まだ、レジスタンスとして動き出して日が浅い。そして、レイアスの「レイザ」と同郷ということが、厄介だ。顔が割れているだけあり、そう無茶をさせることは出来ない。
魔術のレベルは、見たところ高い。だが、まだ粗削りなところがある。一方、彼の幼馴染であるセアは、金髪であり一見どこかの貴族のような風貌だ。白魔術士である為、リオと一緒に行動させ、リオのサポートにもなるし、旅のことをよく学ぶ良い機会だ。
「それでは、行ってきます。ラナを、お願いしますね? サノ」
「あぁ」
私は、起き上がろうとしないラナに、違和感を覚えながらもリオからラナの身体を預かった。ぐったりとしていて、意識があるようで無いような、おかしな状況だ。
リオとセアを見送ってから、私はクレを見た。私の視線に気づき、クレは言葉を求めてきた。
「ラナ……まだ、どこか悪いんですか?」
「…………レイ、ディアン」
「?」
ラナが手を伸ばす。
空へ向けて、手を伸ばす。
そこで、何かを掴むように拳をつくる。
「解放、してくれ…………レナ、を」
そう、言い残して再びラナは眠りについた。
(気のせいか…………?)
ラナの髪が一瞬、緑に染まったような気がした。
※
「えっと、パンとミルク……」
私は、ケルミットという街へ来ていた。スタリーの隣の隣にある街だ。ルシエル様とレナンが居る地下牢に近い街だ。あまりにも城へ近づくより、牢の傍で調達する方が都合いいと思ったのだ。レイアス総軍でレジスタンス狩りに出ていたが、どうやら警戒はすでに解かれている。すべて、ルシエル様がシナリオを作り、手を打った為だ。
シナリオとはこうだ。
ルシエル様が内乱を起こすために、レイアスに偽の情報を流した。レジスタンス「アース」の本陣が城下町近辺まで迫っていると伝え、レイアスを城の外へ排出し、その隙にルシエル様が国王とレイアス隊長、ジンレートに謀反を起こすという計算を立てた。
しかし、そう見せかけていざ事を運ぶと、「カガリ」つまりは私に、計画がバレてしまい、身柄を確保され、辺境の地にある地下牢へと繋がれた。
と、いうものだ。
(ルシエル様は、どこまでお人好しなんだ……だけど、何を考えてこのようなことをしたのだろう)
決して、無理をする方ではなかった。これまで、国王やジンレートに噛み付いたことは無いに等しい。少しばかりの抵抗を見せたことはあったけれども、それは、じゃれ合いに近しい。
急に、「付き人」を欲したことにも意味があるはずだ。ルシエル様の中で、考え方か、何かが変わろうとしている。或いは、すでに変わったものがある。しかし、私にはそれを知る術がないことに、口惜しさを感じた。
「信頼、されていないのだろうか」
つい、ぽつりと口から不安がこぼれた。
(パン屋は此処か…………)
私は、こじんまりとしたパン屋を見つけると、手のひらサイズの小麦パンを指さした。そして、店主を見る。茶系の髪を短く切りそろえた女性だ。中年の恰幅が良いそのひとは、元気のいい笑みを浮かべる。
「あら、いつもの子だねぇ」
「どうも」
常連というくらい、私は此処をよく利用していた。もちろん、自分の身分や名前は隠している。フロートの「カガリ」という名は、とにかく「悪く」ひとり歩きしてしまっている為、使わないに越したことは無い。
「ルシエルくんは、元気かい?」
「え、えぇ……まぁ」
「彼は、お得意さまだからねぇ。あなたは、ルシエルくんの息子さんだったかい?」
「いえ、違います。ルシエル様の…………その、なんだろう」
「?」
ルシエル様の、「弟子」だけれども。
何故か、もやもやする。
「顔見知りです」
「そりゃあ、そうだろう? 一緒に住んでいるって聞いたけど?」
「? ルシエル様から?」
「ルシエルくんは、あの、最強の魔術士のルシエルと、同一人物なのかい? だとしたら、家はご贔屓にされ、光栄ものだよ」
「…………私からは、なんとも」
ルシエル様が、何を思ってどこまでのことを話しているのか。そういうことが分からないから、私にはとても、考えが及ばない。しどろもどろしてしまう。下手なことを口走って、ルシエル様の立場を悪くするわけにもいかない。
「その、小麦パンを四つ。あと、棒スティックを二つ」
「あいよ」
店主はくすくすと笑いながら、パンを取り出す。それを紙袋へ詰めていく。
「美味しそうですね」
「?」
背後から声が響く。聞き覚えがある声だ。伸びがある、男性の声。しかし、低すぎたりはしない。程よく低い、聞き取りやすい声。
声のした方を振り返ると、銀髪銀目の青年。そして、金髪に青い瞳の少女が立っていた。見覚えもある。
レジスタンスのメンバー。
リオスと、セアラというものだ。
「何故、此処に?」
「食料調達ですよ。それ以外に、無いじゃないですか」
もっともなことを言われ、私はただ頷いた。
「あれから、どうなりましたか? あなた方のサイドは。うまく取り繕えましたか?」
「おかげさまでな。あのときは、すまなかった」
パンを詰められた紙袋を受け取り、お金を払うと、私はこのまま「レジスタンス」と話をしていては悪いと思い、足早に立ち去ろうとした。
しかし、それを阻まれる。
「ラナの調子が悪いんです」
「…………」
リオスに、紙袋を持っていない方の手……左腕を掴まれる。そして、言葉を聞いて私は足を止めた。振り返りはしない。
「ラナの様子、見に来てはいただけませんか?」
「何故、私が…………?」
「ラナは、あなたを慕っているからです」
私はしばし考えた。
もし、レジスタンスと共に居るところを見られることは避けなければいけない。しかし、正直気になる。ラナンは私にとって、目に入れても痛くないほど可愛い存在。
しかし、ルシエル様とレナンがお腹を空かせて待っている。それなら、そちらも大切にしなければいけない。いや、パンは焼きたて。ミルクを買って早くそれを届けることをすべきだと、私は意志を固めた。
「すまない。これを、届けなければいけないんだ」
「…………ラナを襲ったのは、ルシエルさんですよ? 責任を取ったって、いいじゃないですか」
「リオ…………」
金髪の少女、セアが不安げに私とリオスを見つめた。その視線を感じつつ、責任も襲ってくる中で、私はやはりルシエル様とレナンが先決だと首を横に振る。
「すまない」
「…………分かりました」
そう言って、やや怒った感じで目つきを鋭くし、リオスは私の前に出た。パン屋の店主と向き合おうとした、そこで声を続ける。
「このパンと、ミルクを買って届けたら…………戻る。ラナのところへ」
「!」
「約束する」
「わかりました」
そう言って、リオスがふと口元に笑みを浮かべるのを確かめてから、私はミルクを手に入れる為に別の店へ急いだ。




