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COMRADE ~最強の魔術士の憂鬱~  作者: 小田虹里
第一章 ~目覚めの章~
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ルシエルの部屋

フロート城にラバース兵のレナンが訪れていた。

庭でレナンを見つけたルシエルは、自室にレナンを招き入れ……。

「俺が、刺客だったらどうするつもりなんだ」

「刺客? ラバースの服をまとった刺客かい? あり得なくはないな」

私は笑った。別に、馬鹿にしているわけではない。お気楽な性格のラナンとは違い、レナンは注意深く、何事も慎重のようだ。

「キミはキミ。レナン、だろう? ラナンに拘りすぎているのは、案外キミの方なのかもしれない」

「……」

レナンは、一瞬止まった。目を見開き、棒立ちしている。此処まで無防備な刺客が、どこに居るのかと、内心では思ったが、敢えて口にはしなかった。ただ、私は優しく微笑みかけた。

「……お節介な奴だ」

「よく言われるよ」

どこか、照れた様子のレナンは、私の腕を振り払おうとはしなかった。その為、私はそのままレナンの手を引いて、自室に向かって歩き出した。

 暗い廊下の中、レナンは私に声を掛けることは無かった。無断で城に来たのだろうか……。何か、ラバースからの伝達事項でもあり、国王に用事があったのだと思っていたが、どうもそういう訳でもないようだ。気配を消すように歩いているところから察するに、此処に居ることが、私以外のものに知られてはいけない境遇に居ることはうかがい知れる。

 それにしても、手を引いているとはいえ、ほぼ真っ暗と言って過言ではないこの迷路のような廊下を、ぶつかることもなく歩けることは、流石だ。

「着いたよ」

迷路のような城内を歩いて行き着いた私の部屋の前で、足を止めた。扉は木で出来ている。鍵はつけられていないのだが、私が魔術で施錠している。私が許可したものだけしか、中に入れないようにするためだ。もっとも、そんなことをしなくても、私の部屋を訪ねてくるものは、カガリくらいなものなのだが……。念には念をというものだ。

 部屋に、自由に入られたくないのには理由が勿論ある。ひとつは、私の「病」を覚られたくないということ。もうひとつは、「カガリ」との関係性を、他に覚られないようにするためだ。


 一応、他にも理由はあるが此処では語らない。


「解」

短く告げると、レナンは何のことかと私の顔を見た。魔術に普段触れていないものからしたら、私が何をしているのか、まったく分からないことなのであろう。

これは、魔術を発動したのだ。魔術を発動するには、いくつかの順序がある。まずは、想像すること。どのような魔術であり、どのような効果をもたらすのかを頭の中で構築する。そして、それを自然界にある「要素」というものに伝える。そのために、私たち魔術士は「呪文」を唱えるのだ。だが、大概その呪文の中身は発動する魔術に関連した言葉を発するのだが、実際は頭の中で構築がきちんと出来てさえすれば、言葉の内容は問わないのだ。ただし、声にして空気を振動させないことには、いくら想像しても、その魔術は発動されない。

 ちなみに、「魔力」を持たない人間は、幾ら想像してみたところで、幾ら声を発したところで、「魔術」が発動することは無い。あり得ないのだ。「魔力」は生まれながらの素質であり、持っていなければ、途中で開化するということもない。ただし、黒魔術士にいたっては、黒髪黒目で生まれてくる場合が多いため、生まれた瞬間で「魔術士」と区別されることも多い。

だが、生まれたときには「力」が上手く発動されず、少年期を迎えてから上手く扱えるようになるという例も、報告されている。また、「黒魔術士」だと思われていたが、しばらくしてから「白魔術」も扱える「神子魔術士」であるということが、判明することもあるらしい。それは極、稀なことである。

 黒魔術士は、「悪魔」と呼ばれる為、その「力」が分かり次第、迫害されてしまう。悲しい現実を、何とかできないものかと常日頃思うのだが、なかなか思うようには事が運ばない。私は、「神子魔術士」である自分を恥じていた。同じ「魔術士」を助けることも出来ないようで、何が神の子か……と。

「どうぞ。中には誰も居ないから、安心してくれていい」

先に私は扉を開けて中に入った。炎の魔術の効果で、室温はローブを脱がなければ暑いほど、高い。そのことに驚きを感じているのは、はじめて此処を訪れた、レナンだった。扉を閉めるなり、不思議そうな顔でキョロキョロと辺りを見渡していた。

「どうなっているんだ……この室温。まるで、夏じゃないか」

「そんなに暑いかい? 私の体感温度が、おかしいのかな。風でも起こしておくかい?」

話しながら、私は次なる魔術を考えていた。人差し指を立て、ふっと空を切るように振ると、そよ風が巡回するようになった。

「……魔術って、こんなことも出来るのか?」

「こういう使い方をするひとは、たぶんだけど……あまり居ないよ」

ローブを脱ぐと、私は白のシャツ姿になった。やわらかな生地のそのシャツは、保温性のあるものだった。

「それで、何を悩んでいるんだい?」

私は本題に切り出した。

「……悩んでなんか」

「それじゃあ、何をしにここに来たんだい? 本当に、謀反を起こしに来た訳ではないだろうに……こんな時間に城に来ていては、疑われても仕方が無いよ?」

「……」

レナンはまた、黙った。次の言葉を考えているという訳でもなさそうだ。ただ、ぐうの音も出なくなってしまったようで、俯いていた。よほど、切羽詰まったことでもあるのだろうか。「風」の便りでも、レナンの動きまではそこまで監視していなかった。もっと、レナンのことも、関心を持って見守ってあげるべきだったと、私は反省した。


 私には、私の役目がある。


 「魔術士」としての私の役目。


 そして、この世界の「先導者」としての役目。



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