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COMRADE ~最強の魔術士の憂鬱~  作者: 小田虹里
第六章 ~起源の章~
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サノイの茶柱

レナンが消え、倒れたカガリはそのままミスト大陸に居る。

不自然さを感じながら、ひとり黙考していたサノイ。

そこへ現れたのは、教祖であるハース。

サノイはハースに関して、少なからずの嫌悪を抱き……?

 静かに注がれた茶の水面に、茶柱が立つ。

 珍しいものだと、単純にそれに眺める。


「吉兆の表れだといいのだが」


 ふと、背後から声がした。振り返るまでもない。声の主はこの教会の教祖のものだった。

 若干の声変わりはしているが、まだ幼い。少年の声に過ぎないそれは、心から茶柱に思いを馳せている訳ではなさそうだ。私もまた、こんな迷信じみたところに希望は持てない。

 それほど、世界は混沌としていた。


「ラナンは、また外へ出ているのか?」

「そうらしい。思うことが、色々あるのだろう」

「……それを、否定はしない。外へ出るなとも言わないが、無駄な時間だと俺は思う。……いいか?」

「どうぞ」


 何が、とは問う必要もない。この、長い食卓テーブルには幾つもの椅子が設置されている。私の隣に座ろうとしたのだろう。他に信者も居ない中、敢えて教祖は私の隣を選び、椅子を引いた。そのまま腰を下ろすと、備え付けとして置かれている急須からお湯を注ぎ、茶を煎れる。香ばしい匂いが舞った。


「どうにも、良い軌道に乗れないな。全てが後手に回っている。フロート側に主導権を握られたままでは、俺たちに勝ち目はない」

「……この現実から抜け出す道を、模索はしている」

「見つからなければ、意味がない」


 もっともだ。

 努力している、努力をした……それを、幾ら並べたところで、どうなるのだろう。教祖が言う通り、意味がないのだ。大切なのは『結果』だ。全ては、『結果』にかかっている。

 過程を大事というのは、また、別次元で別の話。緊迫した世界、この地上の平和を願う中での戦いに於いては、過程や手段は選んでいられない。


「サノイ。キミは、どう思う?」

「……何について?」

「最近のラナンは、どこか、変ではないか?」

「…………」


 レナが、誰にも何も告げずに姿を消した。

 それが、少なからずラナにとってはダメージとなっただろうし、ラナを混乱させる要因となっていることは、理解出来た。二人は、双子だ。その割に、どちらかが相手を出し抜く。相談することもなく、先へ行く。置いていかれることの孤独を分かっているはず……それなのに、二人は求めては離れ、離れては戻り。それを繰り返す道を辿っている。

 もちろん、相手を傷つけるためにそうしている訳では無かろう。だが、世界が二人に厳しく当たっているようにしか思えない。二人には、別々の道が用意され、その先が交錯することを赦されていないようだ。

 人の道とは、各々違う。双子だからといって、一生を共に出来るはずは無かろう。私のような孤児が、エリオスの皇子として拾われ、その後にクライアントの皇子として養子入りするということも、誰が予想していただろうか。全ては偶然の産物とも呼べよう。

 この教会には、あまり『窓』というものが設けられていない。気持ちばかりに、高い天井部分についてはいる。換気が目的だろう。外の景色を楽しむための窓は、設置されていないようだ。何故かは、不明。訊ねる気にも、なれない。


「たとえ変だと指摘して、何か変わるのか? 私には、それをしてもラナにとってマイナスにしかならないと思うがな」

「ほぅ、冷静な皇子らしい見解だな」


 嫌味にも聞こえるそれは、単純に口にしただけの言葉なのだろうと脳内処理した。いちいち食って掛かったところで、それこそ意味を成さない。

 目の前に居るハース教会教祖、ハースという人間は、未だ子どもの姿を保つオリジンと共に、この世界の大魔術士として君臨する『ルシエル』に等しい存在だと聞いた。正確には、同等……というのではなく、『要素』というものらしいが、とにかく、あの魔術士の力に近いものを秘めているということだ。少なくとも、ただの魔術士である私では見ることの出来ない世界を、彼らは見ているのだろう。

 レナもまた、そうだ。レナは、魔術士ではなかった。魔力を持たない人間が、突如魔術士として覚醒した例はない。おそらくは、レナだけであろう。レナにも、私たちでは分かり知れない何かを掴み、このミスト大陸を離れたものだと考えられる。


「レナの後を、つけようとは思わないのか?」

「俺が、か?」

「アンタには、この教会を守る義務があるというのであれば、オリジンを向かわせてはどうなんだ。この、混沌とした世界は、アンタたち一部の限られた魔術士による策略だと思えて仕方ないんだ」

「……限られた魔術士、か」

「違うのか?」


 飽きれ顔でもなかったと思う。それでも、相手にとってはあまり良い意味合いでは取れなかったらしい。眉を顰め、右手に握った湯呑を持ち上げ、一口、茶をすする。私が入れたお湯だ。既に、それなりの温度にまで冷めている。それは、気にならなかったらしく、息を吐く。


「ルシエルが、何を思って今、世界から身を隠しているのか。カガリを薬付けにし、放置しているフロート側の考え。全ては俺たちの手から離れたところにある」

「それで? 関与することさえ、放棄するというのか?」


 意識せずとも、口調が強くなり、そこには怒りも込められた。気持ちの制御も出来ず、こうも表に出ることは珍しい。

 自分の手では、どうにも出来ないところに問題が置き去りにされている。それを突きつけられ、また、自分自身でもそれを理解しているからこそ、余計に腹が立つのだ。まだまだ、未熟者だと私は肩を落とした。その様子を横目で確認し、それからハースは言葉を探した。私を傷つけないようにと配慮でもしたのか。残念ながら、それがあからさま過ぎて、私はかえって自尊心を傷つけられた。そこに、ハースが気づいているのかどうかは、微妙なラインだ。


「レナンを追うことも、正直俺たちには難しい」

「何故?」

「レナンは、俺よりも、オリジンよりもルシエルに近しいレベルに達している」

「……つまり?」

「どうにも手が打てない。そういうことだ」

「…………」


 これ以上、話を進めたところで意味はなさないだろう。私は軽く息を吐き、椅子を下げて立ち上がった。こんな重々しい空気の中、茶柱を見て喜べる心境にもなれなくなった。むしろ、虚しく浮かぶひとつの茶柱が、憐れにすら感じた。


「…………人柱というものがある」

「……?」

「聖域には、一つの大木……クリスタルが存立している。そこにあるのは、清き魔術士の魂。そこに封じられた魂は、転生を赦されない。そこに留まり続け、魔力の寿命が尽きるそのときまで、留まり続ける」

「誰の、何の話をしているんだ?」


 ハースは、厳しい瞳で私を見た。いや、そこにあるのは『怒り』ではないだろう。淡々と事実を述べたかったのだと思う。だが、私にそれを伝えて何になるのだろうか。そこが理解できない為、とりあえずは私は耳を傾ける。


「その人柱となった人間は、アリシアだ」

「ルシエルの妻、という存在?」

「あぁ、そうだ」

「それが、何か関係でもあるのか? 今、この時……この話に、何か関わりでも?」


 ハースは、私の後を追うかのように席から立ち上がった。背丈が低い。見た目としては、十五歳か、それ以下か……子どもの容姿でしかない彼だが、秘めた能力値が高いのは感じる。


「カガリの眠りと、アリシアの封印。何か、関係があるのかもしれない」

「……なぜ?」

「アリシアを、最近見なくなった」

「…………彼女は、死んだ人間なのだろう? 見えないのが普通ではないのか?」

「霊体として存在する彼女は、転生することが出来ず、俺たちと共に居た。フロートに支配されるこの世界を覆すために、助力してくれる存在」

「魔力が尽きた……という説では、片付かないのか?」

「彼女の波動は、まだ、感じている」


 私は、あからさまに嫌そうな顔でため息を吐いた。

 ルシエルと、アリシア。


 私たちはこの夫婦に、どれだけ振り回されているのだろうか。


「レナンは、それを追って行ったのかもしれない」

「…………」


 ハッキリ言って、ルシエルとアリシアがどうなろうと興味はなかった。

 だが、ラナとレナ。

 双子に関しては、そうではない。


 私には、双子……特に、ラナには借りがある。


「レナを追えば、何かが掴める。それが、ハース……アンタ達の見解になるのだな?」


 ハースの頷きを見ると、私は彼に背を向けた。

 そのままこの広間を後にし、海岸へと向かう。


 色素の薄いブロンドの髪の少年。

 銀色に光る、固そうな髪質の青年。


 その二人の後ろまで歩けば、私は足を止めた。


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