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COMRADE ~最強の魔術士の憂鬱~  作者: 小田虹里
第一章 ~目覚めの章~
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訪問者

「……今夜は、夜風が冷たいな」

白のローブを身にまといながら、ゆっくりと廊下を歩いていく。城内とは、松明で照らされるものが一般的だが、用心深いフロート現国王、「ザレス」は、放火を恐れ、廊下から松明を取り払ってしまった。そのため、明かりは小さな窓からの月明かりのみとなっている。今日は満月だから、それなりの光量だが、新月のときなど、とても暗くて慣れない兵士は歩くことを拒む。

 もっとも、城生活の長い私は身体が城の構造を覚えているし、何より、夜目も利くのだ。暗くても、文字は読めなくとも歩くことは何の困難でもない。

「……」

私は中庭に出る為の扉を開けて、立ち止まった。先客が居るのだ。それも、とても珍しい客人だった。

 ここを心地よいと思っているものは、城の中にはふたりだけ。私とカガリだ。そのため、はじめは人影が木のもとで揺らいだときに、「カガリがいる」と思った。だが、それにしては背丈が低いし、月明かりに照らされる髪の毛の色も、黄金色で違っているのだ。

 その少年は、城のものではなかった。フロートの人間ではあるが、城に席を置くレイアスや門番などの兵士ではない。

「どうしたんだい? こんなところで……こんな時間に」

声をかけられるとは、思っていなかったのだろう。少年は驚いた顔をして、私を見た。

「……あんたは?」

少年の声は、まだ声変わりをしていない。耳には、青色の石のピアスをしていて、服装はラバースで支給される、隊服を着ている。紺色の正装だ。瞳は青。

「私は、ルシエル」

「……!?」

少年は、さらに驚いた顔をしてみせた。私の名は、自分で言うのもおかしいが、世界で知らないものは居ないと自負出来るほど、知れ渡っていた。

「世界……最強の魔術士」

「そう、呼ばれているね……一応」

もっとも、世界大会などがあるわけではないのだから、私以上の使い手が居るのかもしれない。手合わせをしたことがない、それこそ「サノイ」皇子なんて、もしかすると私の上をいく切れ者かもしれない。何より彼はまだ若いし、有望だと思っている。

「あんたが、何故ここに」

「ここはフロート城だよ? レイアスの人間である私がここに居るのは、至極当然のことだと思う。それよりも私は、ラバースの兵士であるキミが、ここに居ることの方が不思議に思うよ」

「……確かにな」

少年は、大きな瞳をかげらせた。何かを隠しているのは、すぐに見て分かった。

 それにしても、この木には何か、「力」が宿っているのだろうか。訳ありの人物が、集まってくる。

「話くらい、私でよければ聞くよ? レナン」

「俺の名前を知っているのか?」

「キミのお兄さんが、あまりにも有名だからね」

「……ラナンのおまけか、やはり」

私は、失言をしたと内心で反省した。彼にとって、そのことはコンプレックスのようだった。


 レナン。


 彼は、ラナンの双子の弟だった。


 だが、一卵性の双子だというのに、瞳の色がラナンは緑を……レナンは青い光を宿していた。一卵性の双子というものは、胚の第二分裂期に分裂するため、遺伝子情報は同じものを持っているはずなのだ。瞳の色が変わることなど、有り得ないこと。そのため幼き頃、ラナンは虐めにあっていたと聞く。可愛がられていたのはむしろ、レナンの方であった。

 ただし、それがラナンにとっては結果的に幸いしたようだ。孤児院に居たラナンとレナンだが、可愛がられていたレナンとは対称的に、独りで居たラナンには独学する時間が与えられたのだ。その時間を有効的に使い、運よく出会った当時少年だった私の教え子「カガリ」から、生きる術を更に受け継ぎ、ひとり、黙々と鍛錬を積んだのだ。その為、ラナンとレナンが十五歳になり、孤児院にラバースの使いが「兵士候補生」選びに行ったときに、ラナンはラバースの養成組織を経ずに最下位クラスではあったが、いきなり兵士としての素質を買われた。しかし、それまで剣など持ったことの無かったレナンは、当然経験値が無いため、養成組織へと振り分けられたのだ。

 「ラナン」への対応がイレギュラーなのだ。本当の順序を辿っているのは、「レナン」の方……。しかし、レナンは非常に強く、劣等感を抱いてしまっているようであった。双子であり、ずっと隣に居たと思っていた兄は、気づけば先を、先を……歩いているのだ。頼もしいと思う一方、妬みというものも生まれてくるのが世の常というものか。

 ラナンがラバースを抜けた後も、レナンはラバースに席を置き続けた。いや、過去形ではない。今もなお、ラバースに居る。それは、ラナンが在籍していた「最下位クラス隊長」の座を塗り替えるかのごとく、レナンは昇級していき、今では最高位クラスの一般兵として、活動をしていると聞く。

 ラナンには、「カガリ」という師匠が居た。だが、レナンには「師匠」と呼べる者はいない。それで、ここまで来たのだ。持っている素質は、確かなものだと評価したい。


「非礼を詫びる。レナン。私は、キミをラナンのおまけとしては見ていないよ」

「別に構わない。慣れている」

(信じてはくれないか……)

そう思われても仕方が無い。私の発言が招いたことだ。

 冷たい風が吹く。夜風は身体に良くないと、医者にも言われているし、最近は自覚するほど体調が思わしくない。だが、このままレナンを放って部屋に帰る訳にもいかず、私はしばし考えた。

「私の部屋に来るかい?」

「は?」

出した答えはこれだ。外がまずいのならば、部屋に入ればいい。それも、自室ならば私の都合のいいように魔術で加工を施している。炎の魔術の応用編で、室内温度も上げているし、この時代には「電気」というものが無いため、これもまた炎の魔術で光の球をつくりあげ、古代で言う「電球」まがいのものを作り出し、夜でも昼間のような空間を部屋に広げることが出来るのだ。

(魔術もあまり使うなと言われているが……これくらいの魔術なら、疲れも感じないし大丈夫だろう)

私は、レナンの手を掴んだ。とても冷えている。長い時間、外に居たことがうかがい知れる。何をそう、長いこと考えこんでいたのだろうかと、私の興味はそちらに移っていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 大きなサーガの一部、という感覚が確かにありますが、ここから読み始めても大丈夫なようフォローされていますね。 個性的なキャラクターのセリフ回しも生き生きしていますし、数奇な生まれの双子魔術…
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