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COMRADE ~最強の魔術士の憂鬱~  作者: 小田虹里
第五章 ~隠された真実の章~
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アリシアの言動

アリシアの導きで、聖域へ来たレナン。

クリスタルから読み取った記録には、エリオス城での惨劇が記されていた。

ルシエルを復活させたいレナン。

しかし、アリシアは……?

 聖域。

 少しだけ、寂れたように思えた。


 主を失くした。

 まさに、そんな感じだ。


「アリシア。アンタは一体、何者なんだ。ハースのところに居たんじゃないのか?」

『今、レナンくんが見ている私は、ただの思念体。幽霊だとか、魂だとか。ハッキリと実体のないものなの』

「……死人、なのか?」

『私の身体は、此処。聖域の御神木……クリスタルと共にあるわ』

「このクリスタルの役目は?」


 今は、もう深夜の二時や三時あたりだろう。夜もすっかり更け、寒いくらいの風が吹いている。雪こそ降らない地域なのだろうが、それでも朝になれば、霜くらいは下りそうなほど、空気は冷えている。

 身体の透けているアリシアは、確かに幽霊などといった、曖昧な存在なんだと思う。それでも、どうしてだろう。此処に存在していると思える。いや、それだけではない。何故だろうか、心の奥底をくすぶるような……あたたかい気持ちが芽生えて来る。ルシエルからも、こんな温もりを感じることがよくあった。


『このクリスタルは、記憶をして、記録をしているの。この世界を、ずっとずっと見守って来た座標とも呼べるもの』

「世界史の正体?」

『私には、世界史のことは分からない。それは、ルシエルの役目だから』

「アリシアは、今。クリスタルと一体となっているんだろう? それなら、アリシアが座標となったんじゃないのか?」

『私も、一応は魔術士だよ。魔力を持ってる。でも、私だけではこのクリスタルを支えることも、代わることも出来ない。役不足なの』

「…………それで? 不完全なクリスタルの記録を、俺は見ることが出来るのか?」


 アリシアは、自身とも言えるクリスタルに手を触れた。すると、そこに淡い青の輝きが生まれる。そして、少しずつだがそこに映像が生まれ始めた。真っ暗な世界に、三つの人影がある。


 ラナン、ルシエル……ザイール。


「……」


 胸が、痛くなる。

 消えてしまったルシエルの、動いている姿。


 とても、久しぶりに見た。



「消えろ」

「…………させない」



「キミの痛みは、これ以上続かない。キミはもう、解放されるべきなんだ。世界史も、神も、精霊も、毒草も、レジスタンスも……もう、関係ない。キミは、キミの人生を生きて欲しい」

「念仏か?」

「どうか、キミに…………」



「至福のときを」


 ぱぁぁぁぁぁん!



「…………消えた」

『これが、あのとき。エリオス城の地下で起きた惨劇』

「…………ルシエルは、完全に消え去っている。銃、グレイスで撃ち抜かれて。赤い欠片となって、散っている」

『…………うん』

「だから、ラナンは……赤をやけに怖がるようになったんだな」

『ラナンくんの記憶も痛みも……きっと、ルシエルが持って行ったんだと思う』

「どうやって?」

『ルシエルは、昔から不思議な力を持っていたわ』

「…………(ルシエルは、人間なのか?)」


 俺の中で、ひとつの疑問が浮かんだ。


 本当に、ルシエルは特別な男だった。あまりにも強く、あまりにも完璧で、あまりにも……優しかった。神仏などよりも、きっと。慈悲深く、そして腰が低くてあたたかい。こんな人間、どうやったら生まれるんだと思うくらいに、ルシエルは他を寄せ付けずに逸脱していた。

 ルシエルにだって、青い時期があってもいいはずだ。若かりし頃には、失敗だってしてもいいはずだ。でも、ルシエルのことをまだ、完全には理解していない状況とはいえ、俺の知るルシエル像。そして、この世界で生きる民たちからの、ルシエルへの評価はとても高いものである。信頼だってされている。ルシエルには、「敵国」など無いかの如く……人々は、ルシエルに対して優しかった。


 ルシエルが優しいから、まわりも優しくなれる。

 プラスの相乗効果が、顕著に表れていた。


 俺の魔力は、人間の持つそれよりも、深いものがあるらしい。

 ルシエルを超える……かもしれないとも、言われた。


 だけど、俺はきっと。

 ルシエルを超えることなんて、到底出来ないだろう。


「アリシア」

『なぁに?』

「ルシエルは、人間…………なんだよな?」

『え?』

「俺は、水の精霊長。レイディアンの生まれ変わりだと言われた。はじめは、そんな未知の世界の話を言われたところで、ピンとは来なかった。でも、今はそうだと思っている」

『ルシエルは……人間だよ』

「それなら、どうしてこんなにも……すべてにおいて、抜きんでた力を持ち、複雑な運命の星に居るんだよ」

『それは……』


 アリシアは、困って眉をひそめた。辺りが真っ暗だというのに、不思議とアリシアの顔の表情は、手に取るように読み取れた。アリシア自身が、軽く発光でもしているかのような感覚だ。実体がないということで、透けてはいる。しかし、光っても見えるとは……不思議なことばかりが、ルシエルの周りでは起きるものだと、内心で思った。


『ルシエルは、選ばれた人間種族。アスグレイの後継者だよ』

「俺みたいに、過去が精霊だとか……そういう類の話は?」

『…………私は、聞いたことがないよ。でも』

「でも?」

『ルシエルは、きっと。誰よりも人間だと思うの』


 誰よりも人間。

 その言葉の意味を、俺は後に知ることになる。


「オリジンのことを、ハースは何か掴んでいたか?」

『ううん、まだ。謎の多い子どもみたい』

「子ども、なのか?」

『うん。カガリくんが、接触している』

「それは、さっき家で聞いた。今頃、もうカガリは夢の家にたどり着いているだろうか」

『夢の家…………か』

「?」


 アリシアは、どことなく寂しげな顔をしていた。遠くを見つめ、何かを懐かしむかのように。そして、噛みしめるかのように、口をきゅっと結んでいた。

 それを見て、俺は何か言葉をかけようとした。けれども、言葉が出てこない。何を言葉がけしてみたところで、アリシアには届かない。慰めにはならない。そんな気がしたんだ。


 アリシアとルシエルは、繋がっている。


 アリシアにとってのルシエル。

 ルシエルにとってのアリシア。


 ふたりは、強い絆で結ばれ……そして、契りを交わしている。

 それは、聞かなくとも手に取るように分かる。


「アリシア。俺は、ラナンを取り戻したい」

『ラナンくんに、もし、記憶が戻ったとしたならば……新たなる災い。災厄が訪れるかもしれない』

「誰にとっての、災厄なんだ?」

『ラナンくん自身。そして、世界にとって……』

「それじゃあ、ラナンはこのままが良いってことなのか?」

『ルシエルは、それが一番の選択だと考え、こうして散ったのだと思う』


 バン!


 俺は、クリスタルを手で叩きつけた。右手で思い切り叩くと、手が擦りむけて軽く血が出た。唐突の俺のその行動に、アリシアは驚き目を見開いていた。パチパチと目を閉じたり開けたりし、俺を見ている。


「俺は、そうは思わない」

『…………レナンくん』

「ルシエルは、まだ生きなきゃダメだ。これは、このときに取らざるを得なかった苦肉の策。そうとしか、考えられない」

『ルシエルを、買いかぶりすぎじゃないかな』

「アリシアは、信じてあげないのか?」


 アリシアの言動に、俺は違和感を覚えていた。

 アリシアは、ルシエルに絶対的な信頼を置いているものだと思っていた。そして、ルシエルの味方である……と。ルシエルが生きる意味を、一番に理解しているとも、思っていた。それなのに、どうだろう。アリシアは、ルシエルがこのまま散った状態であることを、望んでいるように見える。

 もし、そうだとしたならば……どうして俺は、アリシアに此処、聖域へ来るよう言われたのだろう。真実を知る必要性など、ないのではないか。


「アリシア。アンタは、ルシエルに死んでいて欲しいのか?」

『まさか…………でも、ね』

「?」


 アリシアは、ふっと息を吐いた。

 その重い息を、俺はなんとなく受け止めた。


『ルシエルは、無理をし過ぎていた。だから、もう……ゆっくりして欲しいとも、思えてしまうの』

「あぁ、そうか…………」


 これも、ひとつの愛し方なのかもしれない。

 走りすぎていた大切なひとを、休ませたい。


 それは、俺も同じだ。


 ラナン。


 もう、レジスタンスになんか戻したくない。

 ゆっくりと、ふたりで夢の家で暮らしていたい。


 でも。

 記憶は、取り戻したい。

 ラナンが、ラナンらしくあるように……それを願いたい。


 相反する考えだけれども、どちらもそのひとを想ってのこと。

 そのことに、俺は気づくことが出来た。


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