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体育大会 Ⅱ


 

「キャ―――――ッ!!古庄先生ッ!!」


「古庄先生、頑張って―――っ!!」




 同時に、古庄の登場に女子生徒たちが沸く。

 その声が耳に入っているのか、古庄は声援に応えることなく、他の担任と共ににこやかにバトンを受け取り、スタートの準備をしている。



 担任の8人は、大体真琴や古庄と同じ年代。バトンはそのまま生徒に引き継がれるので、クラスの順位にも関わってくる。


 初めから勝負を諦めている小太りの戸部や女性教師を除いて、担任同士のメンツをかけた勝負が始まろうとしていた。



 スタートのピストルが鳴り、数秒もしないうちに、真琴は古庄に抜かされた。

 過去のこととはいえラグビーで培った能力は、さすがに群を抜いている。



「キャ―――――ッ!!!」


「古庄先生っ。カッコいいっっ!!!」



 と、ますます黄色い声が飛ぶ。



 古庄のクラスの男子生徒たちも、



「いいぞ!古庄ちゃん!!頑張れ―――っ!!!」



 と、エキサイトして檄を飛ばした。



 すると、今度は団子状態になった他の担任たちが、真琴に追いついてきた。


 無理に抜かそうとした一人と、真琴が接触する。そのあまりの勢いに、真琴はバランスを崩し……そのまま激しく転倒してしまった。



「ああっ!!賀川先生っ!!!」



 真琴のクラスの生徒たちが、悲痛な叫びをあげる。


 と同時に、



「…古庄ちゃん、何やってんだ……」



 古庄のクラスの生徒たちが呆気にとられる。



 真琴の転倒に気が付いた古庄は、コースの半分以上を引き返して、真琴のもとへと駆けつけた。


 倒れて立ち上がろうとしていた真琴に手を貸し、



「大丈夫か?」



 と、真琴の顔を覗き込む。



 これに驚いて顔を真っ赤にし、ますます焦りを募らせたのは真琴の方だ。



「…だ、大丈夫です。何やってるんですか!早く走ってください!!」



 そう言うや否や、真琴自身も急いで走り始める。

 古庄もそう言われて、心配そうに真琴を振り返りながら、再び前を向いて走り始めた。



 古庄は全力で疾走して、前の走者、もう一人の女性教師に追いつきそうになるまで迫った。



 それから生徒たちのレースは、デットヒート。


 古庄のクラスはずいぶん挽回して、最終的に8組中2着という結果で終わった。

 真琴のクラスは、真琴の転倒が響いて、最後までどのクラスも抜かすことはできなかった。




「ごめんなさいっ…!」



 真琴は、自分のクラスの生徒と、古庄のクラスの生徒の前で頭を下げた。


 自分さえ転ばなければ、古庄のクラスはダントツで1着だっただろうし、自分のクラスだってビリではなかったかもしれない…。


 自分の失敗で、こんな結果になってしまったのが、真琴は本当に申し訳なかった。



「まあ、気にすることないよ。先生」


「みんな頑張ったんだから、それでいいんじゃないの?」



 女子も男子も、そう言って慰めてくれた。

 本当にいい子たちだから、真琴は心が癒されて、そう言う意味で泣きたくなってくる。



「文化祭じゃ、ずいぶん賀川先生のお世話になったし」


「だいたい先生がコケたのと、古庄ちゃんが戻った意志は関係ないよ。古庄ちゃんは、他の先生みたいにそのまま走ることもできたんだから」


「賀川先生を助けに行った古庄先生、見直したわ~…。ますますステキ…♡」



 古庄のクラスの生徒たちも、別にこだわった風はあまりなく、真琴はホッと胸をなで下ろした。



「……大丈夫か?」



 古庄が再び、心配そうに声をかけてくる。

 その視線の先は、擦りむいて血が出ている真琴の膝小僧だった。



「はい…。救護テントで絆創膏もらってきます」


「先に、水道水できれいに洗っておいた方がいいよ!」



 古庄は、更に気遣う言葉を真琴の背中に投げかけてくれたが、……真琴は再び、古庄の目をなかなか直視できなくなった。



 もともと女性に対して、無関心状態だった古庄だ。


 全校生徒の前であんなことをされた上に、こんな風に優しくされている場面がたびたび目につくようになると、結婚しているのがバレるのではないかと、気が気ではなくなる。


「結婚」までは露見しないにしても、自分たちの仲を訝られるようになるだろう。



 素直な性分の古庄は、気持ちのままに行動し、真琴への愛情も躊躇することなく表現してくれる。

 あの優しい眼差しに応えたいとは、もちろん思っていても、不器用な真琴はうまい具合にそれが出来なかった。


 この状態が春の異動まで、あと半年間続くのかと思うと……。


 真琴は、膝小僧の傷に絆創膏を貼りながら、深い溜息を吐いた。






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