二人の強者
-side 千夜 真−
夜八時ごろ暗い路地裏で、真は電話を片手に誰かとはなしていた。真の服装は黒を基調とした上着と長ズボンで、所々改造されたあとがある。履いている靴は軍用のブーツのように頑丈そうな作りをしている。マスクを被っており顔が見えないようになっている。真が『仕事』のときのおもな格好だ。
「・・・わかった。金は指定の口座に振り込んでおく。」
坂崎刑事から依頼を受けた後、知り合いの情報屋に板羽洋一をリーダーとした組織の情報を集めてもらった。坂崎からもらった資料にあったものとついさっき情報屋から得た情報を整理し、どう動くか考えておく。
「組織の構成人数は七人、特徴は黒の翼のタトゥーが入っていること。四日前に八咫島いり、表から支援している者あり。支援している者の詳細は不明。狙いは良家の子供とくに法魔士の家系が中心。活動拠点はここ、第五エリア。構成員の戦闘力は平均でBクラス。あと、その他もろもの。」
警察からもらった情報の裏付けもとれ、それプラス、警察が入手していなかった情報があらたにでてきた。
「・・全く、頼んでからたったの二時間だぞ、相変わらずすごいな。」
以前会った、顔に似合わず優秀な情報屋のことを思い浮かべ苦笑する。
(さて、思ったより情報が集まったな。これからどうするかな。狙われる確率の高い奴を見張って待ち伏せするのは、・・厳しいな、行動範囲がわからないし警察も監視してる。・・だったら俺が取れる、選択肢は拠点を見つけて叩く、ぐらいか)
「そうと決まればさっさと動きますかね。」
‐side 皇城 美姫‐
一方、父親から警告を受けとっていた美姫は島にいる友人に協力を頼んだ後、マンションへの帰路についていた。その後ろを男三人がつけていく。街灯に照らされた襟元には黒い翼のタツゥーが入っている。
(尾行されてる。もうくるのか、予想よりもはやいな。ま、それでもやることは変わらないんだけどね)
心の中でそうつぶやきながら、不自然に思われないように自然に人通りの少ないほうに歩いていく。そして、まるで自然のように人がいなくなった場所に行き着いたとき、前から一人、後ろから二人の男が進みでてきた。
「こんばんは、担当直入で悪いのですが、一緒に来て頂けないでしょうか?」
前にいる五十代ぐらいの男が手に棍棒型の呪具を右手にもちながら、訪ねてくる。後ろの二人の手にも同様の棍棒が握られていた。
一対三という、数的不利の中、皇城美姫は一切の動揺なく、むしろ余裕の表情で
「あら、武器を片手にお誘いですか?とんだ紳士がいたものですね。武器を持たないと小娘一人誘えないとは、呆れたものです。」
そんな挑発の言葉を言い放つ。挑発された男達のうち後ろの二人は殺気立ち、前の男はやれやれといった表情で、体の前に棍棒を構えながら、再度問いかけてくる。
「では、断ると?・・その場合、力ずくでおつれすることになりますが?」
「やれるものなら」
美姫がそう言い放つと同時に男達は襲い掛かってきた。
まず、他の後ろの二人より比較的近くにいた男がいち早く、美姫を棍棒の間合いに捕え、顔に向けて振り下ろす。対して美姫は、防御の体制をとらず、逆に踏み込んで、相手の棍棒を持っている手にむけて迎撃するように右手で掌底を放った。男はまさか防御も回避もせずに迎撃してくるとは思わず、動揺しながらも右手ごと粉砕してやろうとそのまま棍棒を振り下ろす。
ガギン!!
しかし、男の予想とははずれ肉を叩いたような鈍いおとはせず、金属を打ち合わせたかのような甲高い音が鳴る。それだけではなく、棍棒を持っていた右手に強い衝撃が襲い、棍棒が弾き飛ばされると同時に右腕を大きく後ろに吹っ飛ばされた。そして美姫がガラ空きになった男の胴体に向けて、左手の掌底を叩き込む。男はその場から動かず、まるで糸がきれたかのように、その場に崩れ落ちた。白目をむき完全に気絶している。
後は後ろにいた男二人だけだが、二人とも一歩たりともその場からうごいていなかった。
男二人の体には地面から出ている蛇の形をした木が巻き付いており、男達はどうにか抜け出そうともがいているが、全く効果がなく、逆に締め付けられ苦悶の声をあげた。
美姫は気絶している男を縛りあげた後、身動きができない二人に近づいていく。そして、男達の前に辿り着き、懐から霊符を取り出し、男の前にチラつかせながら
「知っている情報全部はきなさい」
そう言い放つのだった。
‐side 千夜 真‐
美姫が襲撃を受けていたころ
真は高いビルの上に立ち、目を瞑り、耳をすましていた。
『ええ〜、ちょっ、ありえない〜』
『ねぇねぇ、彼女一人?だったら・・・』
『てめぇ!ふざけんなよ!おれが誰だか・・・』
などの会話が夜の騒音の中でも聞こえてくる。そして
『こちら、二班、対象を確保した。』
その言葉が聞こえたのと同時に真は声のした方向に向けて、凄い速さでビルを駆け抜けていく。
(もう、動いてるのか。バックについた表のやつってのは相当な大物の可能性があるな)
聞こえてくる会話の内容からそう推測をたてる。
本来なら表の勢力が協力したとしても準備が整うまで最短であと二日はかかるはずだった。しかし今現在、予想よりもかなり速く板羽達は動きだしている。よって、後ろにいるのは相当な力を有していると考えたのだ。
(タイミングがよかったな)
今回、真が≪鬼門術≫を用いて、声で目的の人物を探す方法は何も対象が動きだすとこを狙って網を張っていたというわけではない。ただ、情報屋がどうやって入手したのか、板羽達の声の音声データを使って、その声に該当する人物を手当たり次第に探していたのだ。
そんな中、彼らは誘拐をしてしまったのだ。会話の内容と声の二つから特定することができた。
そして、目的の人物を見つける。会話から予想していたとうりツーマンセルで行動していたようだ。手にはバッグが握られている。おそらくあの中に誘拐された人が入っているのだろう。ターゲットを尾行するため現在進行形で誘拐されている人に今は助けられないことを心の中で詫びながら男達の後を追う。
尾行を続けること、五分、ようやく拠点もしくは集合地点の廃工場に辿り着いた。そこにはもう二人の男性がおり、傍に気絶している少女がいる。どうやら、すでに一人誘拐されているらしい。そして持っていたバッグを開け、中から攫ってきた子供を出す。服装から判断するとどうやら女性のようだ。男は少女を引きずり、誘拐した少女二人を一か所に集めた。
真は敵を一網打尽にするべく、耳をすませ機会を伺う。
「こちらは無事完了した。」
「そうですか。では後残っているのは一班だけですね。」
「おい、あそこには三人いたはずだろ、この時間までに戻らないのはおかしくないか?」
「別におかしくはないでしょう。相手はあの皇城家のご令嬢、少し手間取ってもおかしくありません。」
「もしかして、返り討ちにあってるんじゃあ。」
「それはありえません。たとえ皇城家のご令嬢だとしても所詮子供、心配いらないでしょう。」
実際は返り討ちどころか瞬殺されているのだが。
そんな会話を続けていると、気絶していた少女の一人が目を覚ました。
「・・ンー!!・・ン~!!!」
少女はそんな唸り声を上げながら眼鏡をかけている男−板羽洋一‐を睨みつける。それを見た板羽はいやらしい笑みを浮かべながら、少女の顔を掴み、顔を近づけた。
「ハハハ、無様ですね。どうですか悔しいですか悔しかったら殴りかかってきたらどうですか?」
嘲笑を浮かべ、板羽は挑発する。少女はさらに板羽を睨みつけたが、しばらくすると目線をしたに向けうなだれた。その態度に満足したのか板羽は少女の顔を掴んでいた手を離す。
すると、狙っていたのか、すぐさま少女は顔をあげ、板羽のかおに頭突きをくらわした。
板羽の口からはグハッっと吐き出すような声があがる。不意をつかれたのもあるだろうが、相当な威力だったのだろう、板羽は顔を仰け反らせ、数歩下がった。鼻からは血が出ている。
(今だ!!)
板羽が数歩下がったことにより、誘拐された二人の少女との距離が開き、また他の男三人も頭突きをくらわした少女の行動が以外だったのか、意識に少しの空白がうまれた。そのチャンスを逃がさず、真は隠れていた天井から飛び降りた。
真は天井から板羽に向けて飛び降りる。板羽は見下した相手から攻撃を受けたことに、激昂し顔を赤くしていて、今にも少女を殴りかかりそうだ。そんな状態だったからだろうか、上から降りてくる真に全く気付かず、そのまま真に床に叩きつけられる。
「・・ガァハ!!」
床に叩付けられたことによりドンと大きな音が工場内に響き渡る。板羽はその衝撃に耐えられず、空気をはきだし気絶した。
少女二人と男三人は突然現れた真に驚き、茫然とした。その隙に真は二人の少女を掴み離脱する。
「クソッ!!」
「テメー!!」
真が抱えていた二人を下すと同時に男達は我にかえった。
男達は怒りの声をあげるとともに、体から湯気のようなものが立ち昇る。
(≪鬼門術≫か、見たところ身体能力強化しか使っていないな)
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≪鬼門術≫とは鬼力を用いて行使する術あり、身体能力の強化、人払いの結界などの補助的な術がおもな用途である
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「おい!!テメーさっさとそいつらを渡せ!」
男の一人が大声をあげて脅してくる。真はそれに鬼門術で二人を囲むように結界をはることで返答した。真が鬼門術を使ったのを見て
「くそ!お前『鬼士』か!?」
男はそう吠えるが、答えるつもりはないとばかりに真は男三人に向けて飛び出した。
真が飛び出したことに反応して男達は構えをとり、一人が抑えるうちに取り囲んでしまおうと考えるが、真と男達では速度が違いすぎた。
真は一番前にいた男が構えをとり終わる前に懐に飛び込み、男の顎めがけて右手の拳を放つ。アッパー気味に放たれた拳は見事に決まり、男は何をされたのかわからぬまま、崩れ落ちた。その速度に目が付いていかず、真の姿を見失ったのだ。残りの男二人は一瞬で仲間の一人が倒されたことに動揺しながらも左右から拳を放ったあとの真に襲い掛かるが、二人が放った拳は真の体に届く前に虚空で何かに阻まれたかのようにピタリと止まった。
≪鬼甲≫と呼ばれる≪鬼門術≫の一種で体の周りに鬼力を壁のように展開し防御膜のようなものを創り出す。本来は精々、威力を和らげるなど保険の意味合いが強く、よっぽどの鬼力の差と技術がないと完全には防ぎきることはできない。
それを理解したのだろう。男の瞳には絶望の色が濃くうつる。比嘉の実力差を把握し逃げようと足に力を入れるが、動かす前に真が足払いをかけ男二人を転ばす。あまりにも速かったため男達はいきなり足場が無くなったように思えただろう。真はすぐさま後頭部に蹴りを叩き込み気絶させた。
板羽含めた男四人を縛り上げ、すぐに見つからないように隠したあと、誘拐されてきた少女二人の縄を解こうとする。
しかし突如、自分の顔目がけて水の槍が飛んできた。真は体沈み込ませ後方に倒れこむようにして後方にさがる。新手か!?そう思い槍がとんできた方向をむくとそこには霊符をかまえた皇城美姫が佇んでいた。