蛇と犬
ジャック(ベテラン)
NY殺人課のベテラン刑事。軍隊上がりで体力ともに頭脳明晰。名前で呼ばれるのを嫌う
バミューダ・シュタイン(ルーキー)
最近ジャックの殺人課に来たばかりのルーキー。頭脳体力ともに平凡だが、運転技術は元レーサーの親父を引き継ぎ相当な腕前。
ウィティカー
鑑識課の班長。
フレッグ・キラウェイ
ニューヨーク管轄部のFBI捜査官。
ブライアン・スミス
麻薬常習者
カール・アンダーソン
被害者
ローワン・バーキンス
被害者の友人
タレック・デギンズ
麻薬王
ブラッドキャット
犯人
ジョージ・シモンズ
DEA捜査官
~ロングアイランド~
『ローワン・バーキンスさん?』
『えぇ、そうです……』
『ニューヨーク市警のジャックです。実は、一昨日の夜カールさんが殺害されました』
『そんな……。なぜ?』
『現在調査中です。カールさんが何か人間関係で悩んでたり、誰かと会う約束をしてませんでしたか?』
『いえ……。一週間前にご飯を食べましたが、そんなことは……。そんなカールが……』
『お悔やみ申し上げます……。いきなりで恐縮ですが、カールさんに酒に詳しい友人はいませんか?』
『酒?ですか。いえ、心当たりは……』
『そうですか……』
『あの、どこで?』
『イーストヴィレッジの路地裏で。射殺されました』
『場所だけに物盗りでは?』
『いえ、金目の物は取られてませんので怨恨の方で捜査を進めております』
『そうですか……』
『誠に心中お察しします。何か情報がありましたら後一報を』ジャックは名刺を渡す
『はい……。ありがとうございます』
『はぁ、こういうのは慣れないな』
『お疲れ様です。わざわざロングアイランドまできましたが、収穫無しですか』
『そんなもんさ。そこで飯でも食ってくか』
『そうですね』
二人はバーに入る。
『派手に殺しときながら未だに手がかりゼロですか……』
『なんせ証拠がないからな。奴はトイレで踏ん張ってる時も手袋をしてるのか?よくもまぁ、指紋が残らんもんだ』
『マスター!テキーラをくれ。ショットガンで頼む』
『ん?』二人の横に座った男が注文する。服装は黒のジャンパーにサングラスをかけていた。
『あの、すいません』
『はい?』
『今テキーラをショットガンで頼みましたね。お酒に詳しいのですか?』
『えぇ、まぁ。失礼ですが』
『あぁ、申し遅れました!フィリップス株式不動産のスタンリーと申します。こっちはフィクサー。実は今、ニュージャージーにあるワイン畑を買い取ってくれる方を探していまして。そこで、お宅様にどうかと。今は高値でも数年後には買価の5倍の値に釣り上がるようなワインがですね』
男はテキーラを飲み干す
『結構です!』立ち上がる
『いや、でも今買っていただくと』ベテランも立ち上がる。すると、グラスに手があたり男の手袋をした手にラムが零れる。
『おっと!これは失礼』すかさずハンカチで手袋を外して拭く。
『大丈夫です!』手袋を奪い取る『私は帰ります!客なら他を』
『あ!タバコ忘れてますよ!』ルーキーが渡す。
『あぁ、ありがとう。……これは俺のじゃない!』テーブルに叩きつける。
『あー、これはどうも』
男はそのまま車に乗り去ってしまった。
『奴の目を見たか?』
『はい。サングラスの隙間から。オッドアイでしたね』
『タバコは?』
『ここに』ルーキーは奴が叩きつけたタバコを証拠品袋に入れていた。
『よし、署に帰って車のナンバー照会だ』二人が車に乗ろうとした瞬間、男たちに取り押さえられた。
『おい!なんだお前ら!』
『やれやれ。首輪を繋げとけと言ったのに』
『お前……』
『さて、なんでお前たちがここにいるんだ?』
そこには悠然たる趣で腕を組み、仁王立ちするシモンズ捜査官がいた。
ドン!
二人は屈強な捜査官に取り押さえられ、車に押さえつけられる。
『ちょっと!離してください!私達はニューヨーク市警だ!』
『あぁ、知ってるぜー』
『おいシモンズ!捜査妨害だぞ!』
『ふん。偉そうに、捜査妨害だ?それはこっちのセリフだよスネークボーイ』
『あ?俺たちがいつオタクらの邪魔をした』
『さっきお前らが話しかけた男。奴は麻薬の常習犯。加えて、バイヤーだ。奴は下っ端だが、ニューヨークの麻薬シンジケートを潰す突破口にもなる』
『あいつがバイヤーですって?』
『あの純真無垢な顔立ちのか。職業がら、言うことでもないが。この前逮捕した聡明で真面目な好青年も、KKKの一員ときた!はー、人は見かけによらないねー』ベテランが薄ら笑いで話す。
シモンズはタバコを口から離し、近づく。
『俺たちは3年の捜査でようやくデギンズを逮捕した。奴の逮捕でキューバからの麻薬密輸ルートを消すことができた。だが、どっかのサイコ野郎が奴を殺し、奴の手下のキューバ人と、ニューヨークを牛耳る麻薬組織アナーキーが一触即発な状況だ。どんな小さな糸でもすがりたいね』
『それで他所の部署の事件にまで首を突っ込んで手柄を得たいのか?DEAは暇な仕事だなー』
『なんだと!』取り押さえている捜査官の力が強くなる。
『おい!よせ』
『あぁ、やめた方がいいぜ?下手なことして捜査を外されちゃ元も子もないからな』
『ちっ!』
捜査官が手を離し、ベテランはネクタイを直す。そして、次はシモンズに歩み寄る。
『おい、連邦捜査局だからって調子乗ってんじゃねーぞ。いいか、これは殺人だ。オタクらがドラッグを嗅ぎ回ろうが好きにすりゃあいい。だが、この事件は俺たちのだ。勝手なことはさせねぇ』
『……スネークが。どこまでもしつこい蛇め』シモンズはルーキーから証拠品を取る。
『だが、こいつは俺たちのヤマだ。言う通り好きにさせてもらう。さぁ、とっととデカイ巣に帰んな』
『……ちっ、』二人は車に乗りこむ。
『直に戦争になるぞ。キューバ人共は親殺しはアナーキーの仕業と考えてる。犯人もろとも消すかもな。犯人も馬鹿じゃなきゃ、麻薬王に手を出したのを後悔しつつ、神に祈るだろうよ。まぁ、被疑者不明で送検するのも悪くはないだろう?』
『そうさせないのがお前らDEAの仕事だろ?』
車は土煙をあげながらその場を去った。
『帰していいんですか?なんなら強制的に捕まえても良かったのに』
『奴は海軍上がり、しかもあのフレッグをも凌ぐ格闘戦のプロだ。お前なんかすぐひねり潰されるぞ』
『は、はい……』
『まぁいいさ。ドラッグを追う犬でも頭はある。利用出来るものは何でも利用する』と、タバコを投げ捨てる。
ブライアンハンス、またの名をブラッドキャットは金に困っていた。そして彼は転機を伺っていた。いや、懇願していた。だが、その転機が遂に来たのだ。追われようとも、この仕事はやり遂げなければならない。