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105話IF 取り合いになった

活動報告に載せていた105話IFです。二人で取り合いのパターンを二つ。

【取り合いになった(パターンA)】

「……やっぱり、もうお前に任せるのは止める」

「は?」

「ジルに任せると不安要素が残る。だったら俺が守った方が手っ取り早いし効率的だ」


 確信を持った言葉と共にセシル君が、ジルから私を奪うように引き寄せて来ます。力が入らない身では抵抗なんか出来なくて、そのままセシル君が私を持ち上げるのを為す術もなく見守るしかありませんでした。

 私を抱えてそのままジルから遠ざかるようにベッドの縁に座られて、これは一体どういう状況なんだと混乱してはセシル君の胸に凭れ掛かります。……自分じゃ移動出来ないので、私の命運はセシル君に握られているのですよ。


「リズ、そろそろお前もジルに無防備にするの止めろよ。いつか襲われるぞ」

「それはあなたにも言える事では?」

「お前と一緒にするな、そもそも俺にそんな度胸あると思ってるのか」


 セシル君、それ自分で言ってて悲しくないですか。いや確かにセシル君ってそういう感情とかあんまり激しくなさそうですし、理性で押さえ付けるタイプっぽそう。それに、私に欲情とかないでしょう。


「俺はお前と違って、手出しは一切してないからな。そもそも従者が主に手出しなんて知れたら大問題だぞ」

「私がいつ手出しをしたと」

「聞いた限り口にキスしてるし顔へのキスなんてざらにあるだろお前」

「ご名答ですセシル君。でも口は一回だけですよ……?」

「その時点でアウトだろ」


 家族以外で伴侶以外に口は駄目だろ、と結構お堅いセシル君。まあ、流石にマウストゥマウスは駄目な気がしますけど、あの時は仕方なかったというか。


「……あ、二回してた」

「拒めよお前も」


 二回連続でされたのは仕方なかったですし、そもそも拒んだらジルがおかしくなりそうだったから拒める筈もありません。

 セシル君が微妙に呆れたように頬をぐにぐに引っ張って来るので、いひゃいーと抗議したら少しだけ悪戯っぽく微笑まれました。ぎゅ、とジルに渡すまいと抱き締められて、頭をなでなで。……とても子供扱いされている気分です。


「セシル様、そろそろリズ様を離して頂けませんか」

「お前に任せるとロクな事にならないと分かってるのにか」

「セシル様は私の評価低くありませんか?」

「能力の評価は高いが、リズの身の安全という観念ではだめだめだな。お前自身が獣だし」

「私は本人が嫌がるなら引きますよ」

「どうだか。そもそも認められない立場なのに迫る事自体に問題があるとは思わないのか?」


 あ、あれ、なんかどんどん雰囲気が険悪に。


 私が居るにも関わらず、私の存在を無視して口論がヒートアップしています。というか何でこんな事になってるんですかね、ただ守ってあげるとかその辺のお話だった筈だったのですが。

 もう何か「嫁入り前の女に手を出す常識を疑う」とか「手出しはしませんし正面から貰ってから手出しします」とか明らかに脱線した言い争いになってました。……なんで私の将来について言及されているのでしょうか。というか私ジルに貰われる事になって……あれ、行き手がなかったらでしたよね。


「お前にやるくらいなら俺が貰う」

「小さい頃から想い続けた私の方が信頼度は上かと」

「小さい頃から狙っていた時点でアウトだろ。あと歳と立場考えろ、俺の方がリズも家も安泰だろ」


 ……な、何かセシル君にまで求婚されているような気がするのですけど、これは私の気のせいなのでしょうか。確かに、シュタインベルトから婚約の申し出とか来てましたけど。……セシル君自身の意思で、求められてる?


 そう考えたら今の状況は物凄い危ない状況な気がして、でも逃れようがないし大人しくするしかありません。セシル君もジルも、何でこんな私なんかに……とか凄くもやもやしてしまいつつ、嬉しいけど申し訳なくてどうして良いのか分からないです。


 恥ずかしさに頬が熱くなって、頭も更にぼーっとしてしまって。

 元から熱があるのに、二人が余計に熱くする事言い出すから、もう私死にそう。くらくらして、どきどきして、ふわふわしてしまうのです。……ああもう、ばか。


 もう考えるのも辛くて、私はセシル君の胸に顔を埋めたまま瞳を閉じました。


 考える時間も必要だし、起きた時に舌戦が終わってなかったら叱って、二人とも出入り禁止にしてやるんですから。







【取り合いになった(パターンB)】

「お前が護りきれないなら、俺がお前の場所に代わるからな。絶対に、護りきれよ」

「え、セシル君が従者になるんですか?」

「……ああ、それでも良いぞ、お前が望むなら」


 え?

 ぽかん、とまさかの返答に呆気に取られてしまった私は、次の瞬間に起こって事に反応出来ませんでした。

 ジルとは別の位置で背中に手を回されて、引き寄せられます。結構強引に、でも優しく引っ張られたから、ぱふ、とセシル君の胸に顔が埋まるくらいの衝撃で済みました。心の衝撃はかなり大きいのですけど。


「ジルに任せておくとロクな事にならない。翼竜から守るくらい俺にも出来る」

「え、ええっと……セシル君?」

「リズだって俺が翼竜殺せないとは思わないだろ」


 急激に話を振られて困るのですが、セシル君でもまあ翼竜は倒せると思います。というか一撃の重さでは恐らくセシル君が上です、こればっかりは体質的なものなのですけど。

 取り敢えずこくこくと頷いて、それからこの状況をどうしたら良いのかと固い胸に顔を埋めて考えてみたり。セシル君の心配ゲージがカンストしたのだけは分かりました。


「……セシル様より、私の方が強いのでは? 守るには私の方が相応しいですよ」

「そうだな、魔術面で言ったらそうだろう。でも総合的に見れば、俺の方がリズを守ってやれる。つーかお前だと守るじゃなくて手を出すんだよ」


 え、ええっと……物凄く、修羅場?

 いや冗談はさておき、何でこんな言い争いになってるんですかね。まるで私を争って取り合いになってるみたいな。此処は「私の為に争わないで」なんて茶番な台詞の一つでも言った方が良いのですか。

 ……そんな台詞なんかドン引きしますから言わないにしても、何でこんなに言い争いに。私が危なっかしく思われてるのだけはよく分かりましたけど。


「あ、あの、自分の身くらい自分で、」

「リズは黙ってろ」

「これは二人の問題です」


 当事者の意見はスルーの方向らしいです。


「前々から言っていたよな、お前立場そろそろ考えろって」

「考えた上で行動しています」

「はっ、何処がだよ。お前ヴェルフの前でいつもリズにしてる事出来るのか?」


 珍しく、セシル君が押してます。というかジルがちゃんと反論出来ていない、気がします。ジル、父様には弱いですよね、というか下手に逆らうと色々あるから逆らえないのですけど。


「立場を盾にして奪うつもりもなかったし静観するつもりだった、けど気が変わった。弱ってる所に付け入る奴に任せられるか」

「私はそんなつもりありませんし、そんな事をした覚えはありません」

「だったら今までしてきた事全部俺やヴェルフの前で言ってみろ。俺はリズから粗方相談を受けて知ってるし、その度に頭を抱えていた。立場弁えろよ」


 悪意はない、ただ毅然とした態度でジルを見据えているセシル君に、ジルがとうとう押し黙ってしまいました。唇を噛み締めて、とても悔しそうにしています。

 ……昔セシル君が忠告した事を、思い出しました。ジルは、従者としては駄目だって。……確かに、立場を考えたら、そうですけど。


「俺はきちんとした関係になるまで手出しするつもりはない。正式な手順も踏むつもりだし、何ならヴェルフに頭下げに行っても良い。俺ならこいつを多方面から守れる」


 ぎゅ、と抱き締められて、何か訳が分からなくて頭が爆発しそうでした。

 セシル君は、兎に角私を大切に思ってくれてるのは分かります。心配性だな、と切って捨てるには、セシル君は真剣過ぎて。

 言っている事も噛み砕いてそれとなく理解してしまって、頭がぐるぐるして恥ずかしくなって来ました。


 切なさともどかしさ、羞恥に困惑。全部が混じって頭がぐちゃぐちゃに掻き乱されています。あう、と喘いだら、少しだけセシル君が視線を落として、困ったように微笑みました。

 でも、そっと抱き寄せられて、離す気がないと思い知らされて。


「……リズ、行くぞ」

「へっ?」


 きゅうっと心臓が引き絞られるような、でも不愉快ではない感覚に戸惑う私を更に戸惑わせたのがセシル君。

 背中と膝裏に手を回して軽々と持ち上げてしまって、所謂お姫様抱っこの形を取らされます。


「……え、ええっと、セシル君、何処に?」

「ルビィの部屋。ベッド広いしルビィが一緒に寝ても問題ないだろ、ルビィも寂しがってたし」


 何故移動するんですか、と視線で問うと、セシル君はすーっとジルに視線を移しては鼻で笑いました。


「悪いが一人にしておくと狼が襲うんでな。寂しがりの兎に付け入る悪い狼も居たもんだな」

「……っ、」

「ヴェルフには暫く部屋移動するとの旨は伝えておく」


 それだけ吐き捨てて、セシル君は私を抱えてお部屋から出ていきます。私の意思が汲み取られていない気がするんですけど、もう何か今更だったので諦めました。

 いつの間にか、セシル君大きくなってる。私を抱えて余裕でうろつけるくらいに。よく考えればジルと同じくらいに背丈があるのですよね、そりゃあ簡単に持ち上げられますよね。


「勝手だと怒るか?」


 廊下を歩くセシル君は、ふと私に声をかけます。


「……色々と付いていけない事態が多発していて困ってますが、もうなるようになれ状態です」

「悪い」


 そこは素直に謝ってくれる辺り、私の意見を聞かなかった事を申し訳なく思っているらしいです。


「……リズ、流石にそろそろ理解しているよな、俺がどういう事考えているかくらい」

「……は、はい」

「それについては返事は当分先で良いし、急かすつもりはない。あと、改めて後で言わせて貰う」


 ……あ、後で言わせて貰うって、……直接、言われるんですよね。セシル君の口から? あのツンデレさんなセシル君が、お兄ちゃん気質なセシル君が、私に?

 そう考えると恥ずかしくてぽわぽわしてしまって、視線がセシル君からあちこちに逸れてしまいます。


 熱のせいなのかセシル君のそういう事を言うシーンを想像したからなのか、胸が熱くてもぞもぞする。セシル君もどうやら宣言だけでも恥ずかしかったらしくて、私を見てはうっすら頬を赤らめていました。


「……る、ルビィ、開けてくれ」


 耐えきれなくなったらしく、丁度部屋まで到着したのでこれ幸いと外から声をかけます。両手が塞がってるので、開かないですもんね。私の部屋はちょこっと開いてたから、少しお行儀悪く脚で開けてましたけど。


「あー、兄さまだ、姉さまも! どうしたの?」

「お前の姉さんは今日から暫く此方で寝かせてやってくれ、ルビィと一緒に居たいんだと」

「ほんと? 姉さまと一緒に寝ても良いの?」


 最近は母様は安静状態を強いられていますし、父様は忙しいから寂しかったらしく、きらきらとした眼差しが突き刺さります。ルビィと寝る事に何ら問題は感じないから良いものの、他の問題がある気がするのですよ。


 喜ぶルビィに招き入れられてお部屋に入った私達、セシル君はルビィのベッドに私を下ろしては背中を支えてくれました。


「ルビィ、ジルがリズを襲いに来たら撃退してやってくれ」

「いや襲いには来ないでしょう」

「じゃあ言い換えるが、ジルにべたべたされるのは俺的に不愉快だから、ルビィが守ってくれ」


 何かさらりとセシル君の私情が入った気がするのですよ。

 ……あ、あれですね、セシル君も、その……やきもちとか、焼くんですかね? というか、やきもちっていう解釈で良いのですか?


 ルビィはにこにことして、セシル君の言い付けに頷いています。ああ、ルビィはセシル君大好きだから、セシル君が……その、私とくっつけば良いとか思ってるのでしょうね。本物のお兄ちゃんになって欲しい、って言ってますから。


「分かった、でも兄さまはべたべたしてても良いよ」

「良くない!」

「あまりするつもりはないぞ、そういうのはちゃんと正式な関係になってからするべきだし」


 ……非常に真面目なお考えなのですが、その正式な関係になるつもりはきっかりあるという事ですよね。ええと、正式な関係……って事は、貴族として、つまり……許嫁とか、め、夫婦になってから、という事で。

 そこまで想われていたのだと思い知らされて、頭を抱えたくなりました。体が動かないから羞恥に頬を染めるくらいしか出来ないのですけど。


 うう、と唸った私にルビィは首を傾げていましたが、何かに気付いたらしくセシル君を見てはにこにこ。それから「ぼく水持ってくるね!」と子供とは思えない気の効かせ方というか察し方でお部屋を出ていってしまいました。

 待って、今二人になると色々問題が。心の準備とか全く出来てないのですけど。


「……リズ」

「ひゃい……っ」


 後で、が今に回ってきたのを感じて、堪らず裏返った声で返事。緊張しているのはばればれだったらしく、セシル君もちょっと苦笑してました。ただ、私の困惑を見て逆に落ち着いているみたいです。


「……あー、何だ、……ちゃんと、守るから。ジルよりも、ヴェルフよりも、お前を守るから。お前がゆっくりで良いから俺を見てくれるまで、待つから。……俺の事、男として見てくれ」


 真摯な眼差しでみつめられて言葉を失った私に、ゆっくりと、額に口付けを落とすセシル君。

 言葉の端々から本気さが伝わってきて、それだけ私を想ってくれているのだと感じると余計に恥ずかしくなって、ぽふっとセシル君の胸に倒れ込みました。当然受け止めて、そっと抱き締めてくれるからふわふわどきどきしてしまって訳が分からなくなりそう。地に脚が着かないような、背中からふわふわ浮いてしまうような、そんな感覚。


「……待ってるから」


 聞いた事のない、酷く甘くて優しい囁きを落とされて、もう我慢の限界だと顔を埋めたまま瞳を閉じてはおやすみの一言もなく意識を無理矢理眠りの海に落としました。



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