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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Punisher
99/190

Devil Side/Evil Hide 4

 ――幸せになりなさいエイブ


 浮かべられた人好きのする微笑み、よく好んで着けていた赤いネイル。

 一房だけを三つ編みにした灰髪の女のヴィジョンに、エイブラハムは意識が一気に鋭敏になるのを感じている。

 だが体はエイブラハムの意思に逆らうように動こうとしない。

 手を伸ばせば届くのに、抱き締める事が出来たのなら2度と離しはしないのに。


「私は自分の命の使い道を見つけたわ。だからあなたも――」


 待ってくれ、たったその一言すら言えずにエイブラハムは意識の覚醒を迎える。


 ピジョンブラッドの双眸を開いたエイブラハムは、夢との差異を確かめるように体を起こして手を握ったり開いたりする。もちろん、夢のように体が言う事を聞かないと言う事はない。それどころか、無意識下の肉体操作のおかげがろうか。

 いつのまにかベッドに潜り込んでいたアンジェリカに、寝汗などで不愉快な思いをさせずに済んだのは。

 苦笑を浮かべるエイブラハムはアンジェリカの白銀の髪を指で梳き、右側の側頭部に三つ編みを一房だけ作っていく。


 自分にとってミリセントがそうであったように、少女達にとって自分がそうあれたのなら。

 それがエイブラハムにとっての命の使い道であり、命の答えだった。

 サラサラとした白銀の三つ編みを手首につけていたヘアゴムで纏めたエイブラハムは、アンジェリカを起こさないようにゆっくりとベッドから降りる。


 その懸念を余所に穏やかな寝息を立てるアンジェリカを背にして、エイブラハムは申し訳程度に用意されたクローゼットから衣服を取り出して着替え始める。

 露わになる真っ白な肌には目立った傷痕はなく、エイブラハムの任務の性質とその有能さを表すようだった。

 有機的とは言い難い白をシャツとデニムの無機的な黒で覆い、寝室を後にしたエイブラハムは扉1枚で隔てられたリビングへ。

 クローゼットと同じく、申し訳程度のキッチンでは新たな同居人が忙しく働いていた。


「おはようございます」

「おはよう、もしかして起こしちゃった?」

「そういう訳ではないんですが……」


 そう言って苦笑するエイブラハムに、メリッサはどこかおかしそうに苦笑する。


「あの子、アタシが起きた時に一緒に起きちゃったみたいで。まだ早いから寝ててもらおうと思ったんだけど、ぐずったから」


 それでエイブラハムと一緒に寝ていてもらった、と言外に付け足しながらメリッサはマフィンをオーブンに入れる。


 あの日から、メリッサはエイブラハム達と共に暮らし始めていた。

 少ない荷物を纏め、任務の放棄を明示し、Strangerでの立場を捨てて。

 その際に積み重なるほどに贈られたマーマイトが全て消えていたが、エイブラハムは自分達には関係ないと考えるのをやめた。バケツ数杯分のマーマイトがどこでどうなっていようと、自分達にはもう関係ないのだから。

 そして新たな同居人を迎え入れたエイブラハムは、使っていなかった寝室をアンジェリカとメリッサのものとした。


 サルファー・エッジ撃破後、甲斐甲斐しく看護を続けたメリッサにアンジェリカは懐き、アンジェリカを保護対象として考えていたメリッサが受け入れるのに時間が掛からなかった。


「髪、似合ってますよ」


 キッチンのカウンターに身を預けたエイブラハムは、背を向けるメリッサの一房だけ編まれた髪を指先で撫でるように梳く。

 髪型1つで築いてきた関係が変わるとは思わないが、自分に合わせようとするメリッサの不器用な在り方がエイブラハムにはどこか愛しかった。


「……そう」


 顔を赤らめたメリッサはやんわりとその手を払って朝食の用意に戻る。

 触れられる事が嫌な訳ではないが、嫌味のないその仕草は男を知らない上にエイブラハムという存在を深く認識してしまったメリッサには刺激的過ぎた。

 エイブラハムが乱暴な事をしないと分かっていても、照れといったメリッサの感情は話が別だった。


「ねえ、今度の作戦について確認しておきたいんだけど」

「基本的には変更は無しです。彼らの協力は得られないかもしれませんが」


 照れを誤魔化すように話題を振ってきたメリッサに、エイブラハムはそれは問題ないと苦笑する。

 元々エイブラハムは単独で動く事を想定された暗殺者であり、白銀の太刀さえあれば敵地であっても武器の調達は容易い。

 その為にエイブラハムはステーキナイフから機動兵器までの扱う技術と、最適を選び続ける思考力を与えられたのだから。



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