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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Punisher
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Devil Side/Evil Hide 2

「どういう、事ですか?」


 聞き覚えのある女の声にエイブラハムが慌てて振り向くと、そこには呆然としたメリッサが居た。


「……聞いていたんですか」

「リーダー、アタシは元企業の精鋭の監視役じゃなかったんですか?」


 苦虫を噛み潰し、辛酸を飲み干したように顔を歪めるエイブラハムを余所に、メリッサは未だエイブラハムを恐れているイーノスへと問い掛ける。

 確かにエイブラハムがどこかへ行ってしまわないように見張れとは言われていた。

 だがエイブラハムを篭絡しろなどとは、アンジェリカを裏切れとは一言も言われていなかった。


 しかしイーノスは開き直ったように吐き捨てる。


「だとして、何が問題だと言うんだ。お前のような小娘になにが出来る、精々体を使ってでもコイツを繋ぎとめられれば上等なもんだろうが」

「ふざけないで下さい!」

「ふざけてるのはお前だ小娘。瓦礫に潰され感覚のなくなっていく両足、生かす価値を計られる日々、家族と同胞に死を強要されるのではないかと怯えた日々を何も知らぬ小娘に理解が出来るというのか。全て企業に与えられた苦痛だ。あんな物がなければ俺のこの足は飾りに成り下がる事はなかった、その恨みを晴らすために誰かを利用するくらいなんだと言うんだ」


 信頼を寄せていたイーノスの当然のような言葉に、メリッサは思わず言葉を失ってしまう。

 確かにイーノスは企業の襲撃によって脊髄を損傷し、歩けなくなっていた。

 その苦痛は確かにメリッサに理解できるものではない。だが理解できないからこそメリッサは思ってしまう。


 イーノスの思惑通りに進んでいた場合の自分の苦しみは、誰が理解してくれたのだろうか。

 もしハニートラップとしてあてがわれたのがエイブラハムでなかったのなら、自分はどうなっていたのだろうか、と。


「企業の男に絆されるとは、大した娘を持ったじゃないかサミュエル」

「……申し訳ありません」

「と、父さんはアタシは――」

「最初に言ったはずだぞ。これからは復讐と使命のために生きる、と。役に立たないのであればお前はもう不要だ」


 メリッサは得体の知れない恐怖から震えだした手を、イーノスへ詫びるように頭を下げる父へと伸ばす。

 企業の襲撃によってサミュエルは妻を、メリッサは母を失った。

 だからこそサミュエルは妻の復讐のためにイーノスに忠誠を誓い、メリッサはそんな父を支えるために臨時医療員と今回の任務を引き受けたのだ。

 そこには確かな信頼があると、確かな親子の情愛があるとメリッサは信じていた。

 たとえ父と顔を合わす事がなくなっても、父が母の娘である自分にしか興味を持っていなくても。


 しかし、その信頼は誰でもない父に裏切られてしまった。


「そういう事だ。勘違いするなよ、メリッサ・セガール。規模で言えば中規模、略奪で手に入れた戦闘車両だけが決め手のレジスタンス。そんな俺達はどうやったら生き残れると思う? 全てを利用するしかないだろうが」


 唾を飛ばしながらイーノスは嫌味たらしい言葉をまくし立てる。

 大規模なレジスタンスやコロニーは傭兵を雇い入れて防衛の要としていたが、レジスタンスStrangerはそのような資産を持ち合わせてはおらず、むしろ男達を傭兵として送り出すほどに困窮していた。


「大体、お前もそう言った犠牲の上で生きてるんだろうが。今更何を言っている」


 返す言葉もなく俯いたメリッサにイーノスは追い討ちを掛けるように続けた。


「レジスタンスの非戦闘員を生かす為に俺達が何をしているか知っているだろう? 企業の影響力の強いコロニーを襲撃し、略奪で得た物で食料と武器を手に入れている。お前のようなか弱い女に男達が何もしないのはそう言った物の副産物だ。この意味、分からない訳じゃないだろう?」


 力を持たない女達は秩序のない世の中では奪われるだけの存在。

 稀に傭兵として開花する女も居はしたが、ほとんどの女達はただ何も出来ず奪われていった。

 物資、純潔、命。

 レジスタンスという平穏とは程遠い環境で、何かを盗まれる事も、男達に乱暴される事も、先日の襲撃まで命の危機を感じる事もなかったメリッサの世界は略奪によって守られていた。

 その矛先が知らない誰かに向いていただけで、レジスタンスの男達は欲望のままに誰かを蹂躙していた。


 その事実を理解させられてしまったメリッサは救いを求めるように父の顔を見上げるが、父の目は興味もないと言わんばかりに冷め切った目を実の娘に向ける事もなく状況を静観していた。


「ここに居たければせいぜい利口に生きる事だ、と言いたいところだが役に立たない人間をただ置いておく理由はない。この意味、よく考えておく事だ。その為にお前は生かされていたんだから――」


 瞬間、空気を切り裂く音がイーノスの言葉を掻き消した。

 全員が認識出来たのはただ1つ、振りぬかれた白銀の太刀だけだった。

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