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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Punisher
95/190

Raging Wild/Blazing Riled 5

最適化(パーソナライズ)終了。出力上昇を許可。発光弾(フラッシュロケット)、"ブライトネス・イデア"使用許可。同時に名称を発光弾(フラッシュロケット)に変更』

「……ご親切にどうも」


 マシンボイスの告げる要領を得ない言葉とディスプレイに表示された発光弾の残弾数に顔を顰め、エイブラハムは呻くように言葉を返す。

 騙されていたと決め付けるのは早計だが、許可を出されないと使えない武装があったというのは知らされていなかった。


 試されていたのだろうか。

 もしそうだとしたら何に誰が試されていたのだろうか。

 庇護者であるエイブラハムをアンジェリカが試したのだとしても、武装や出力のリミッターは自らの命に直結する物である以上有り得ない。


 ならばAIか、と浮かんだ考えをエイブラハムはすぐさま破棄する。

 エイブラハムが知っている優秀と言われていたAI、クロム・ヒステリアでさえ自発行動は移動、索敵、攻撃しか出来なかったのだ。


 これ以上纏わり付く悪夢の(ナイトメアズ)(シャドウ)に関わらせるべきではない。

 自らが操作する得体の知れない機動兵器に気味の悪さを感じながら、エイブラハムは建築物群の狭間をナイトメアズ・シャドウに進ませていく。


「クソが! クソが! クソが!」


 合金の刃を振り回し、建築物を破壊しながら追い縋ってくるサルファー・エッジをマシンアイで捉えながら、エイブラハムは一度失ってしまった反撃の機会を窺い続ける。

 次のチャンスを失ってしまえばおそらくもう勝つ事は不可能だろう。

 このまま戦域から離脱してしまえば外に待機しているかもしれないコルデーロの仲間達と戦闘になってしまう恐れがあり、衰弱の兆候を見せ始めたアンジェリカにそんな負担は掛けられない。


「今度こそ終わりにさせてもらいますよ」


 正面遠くにあるナイトメアズ・シャドウの行く手を阻むように聳え立つ建物を見ながら、エイブラハムはあくまで不自然に思われないように出力とスピードを落としていく。


「終わりだクソ野郎! 自分の無能さをあの世で悔やみやがれ!」


 左右正面は建物に阻まれ、逃げ場はもうない。

 コルデーロは突進用に追加装備させたスラスターを全力で吹かし、乗っている人間と同じく華奢な作りの機動兵器へ突進を掛ける。

 それを確認したエイブラハムはこの行き止りを作り出した建物に背を向け、スラスターで後退しながらサルファー・エッジへ発光弾を放つ。


 それでも止まる様子のない黄色の装甲へ背を向けるようにナイトメアズ・シャドウは進行方向へ機体を反転させ、眼前に聳え立つ建物に蹴りを入れて そのままスラスターをフルブーストさせその建物に突進をかますサルファー・エッジの眼下に見下ろす。

 本来機動兵器は脚部が脆く3次元機動など出来はしないが、脚部にレアメタルを含有した特殊合金を使用されたナイトメアズ・シャドウならば話は別だ。


「トレンツ・コルデーロ――」


 発光弾によりマシンアイを殺され、左腕の実体剣を建物に差し込んだサルファー・エッジを見やりながら、エイブラハムは流儀に則った殺しの手順を踏む。

 企業がアンジェにした事を忘れたわけではないが、ミリセントに引き合わせてくれたこの流儀を憎む事はエイブラハムには出来なかった。

 そして粒子の刃を展開し、終焉者(クローザー)は終わりを告げる。


「――さようなら」


 重力に導かれるように降下しながら頭部から徐々に青白い粒子の刃がサルファー・エッジを切り裂いていく。

 そしてナイトメアズ・シャドウが着陸しシャドウがその場を離脱した瞬間、黄色い装甲の破片を含む爆炎が灰色の空へと上っていく。


 まるで最後の任務のようだ、とエイブラハムは深いため息をつく。

 違う事といえばナイトメアズ・シャドウと衰弱しつつある少女の存在だけだった。


「……すみません、アンジェ」


 アンジェは顔を青くし、震えから歯をガチガチと鳴らす少女。

 金属製の耳とナイトメアズ・シャドウを接続する端子から開放した華奢な体躯を抱きしめ、エイブラハムはアンジェリカに詫び続けた。

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