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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Punisher
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Raging Wild/Blazing Riled 4

「あとは純粋な実力での勝負ってことですか」


 かつてない分の悪い勝負にエイブラハムは舌打ちをこらえ、迫り来る黄色い装甲を粒子の刃で切り払う。

 ナイトメアズ・シャドウのブレードが粒子の刃であるのに対して、サルファー・エッジのブレードは実体剣。鍔迫り合う事も出来ない両者は刃を振るいながらも回避を1番に心掛けていた。

 粒子の刃はこの世の物を全てを焼き切る事ができ、合金の刃は一振りで建物を倒壊させる威力を持っていた。

 喰らえばおしまい、分かりやすくルールが支配する盤上で黒と黄色の駒は踊り続ける。


 黄色の装甲を粒子の刃が切り裂き、辺りの物を合金の刃が破壊する。

 灰色の大地を粒子の光弾が抉り、影を捕らえる事が出来なかった合金の弾丸は逃げ遅れた人々を蹴散らす。

 この戦いで何人が死んだのだろうか。

 2人がそんな感傷に浸ることはない。

 企業以外の人間に理解が出来る事ではないが、生きる為に殺しを続けてきた企業の者達はそんな物を持ち合わせては居ないのだ。


 そしてアンジェリカは苦痛の中でただ状況を観測し続けていた。

 頭蓋の奥に感じる異物感と苦痛と共に浮かぶ赤み掛かった、エイブラハムに肩車された時以上に高い視点からの視界は粉雪のように舞い散る粒子と、塵芥を吹き飛ばすように荒れ狂う弾丸を写していた。

 生まれて間もない小さな自我はかつてない状況に怯え、そして"声"はゆっくりではあるがエイブラハムは勝利への道をゆっくりとした歩調ではあるが進み続けているとアンジェリカに囁く。


 自らの影が負けるはずがない。


 "声"が囁く言葉はアンジェリカのまだ幼い自我には理解しがたかったが、それでも言わんとしている事は理解できていた。


 代行者(プレイヤー)に敗北はない。


 しかし、と意識の中で問い掛けるアンジェリカに"声"は答えを返さない。

 "声"はいつもそうだった。


 何故、こんな痛いのに耐えなければならないのか? 

 何故、あの人は戦っているのか?

 そして、代行者とは誰の代わりを務めているのか?


 それでも"声"は答えを返さず、ただ告げるのだ。

 自らの影は、代行者(プレイヤー)に敗北はない。


 それでもと追い縋ろうとしたその時、アンジェリカの赤い視界で状況は大きく動き出した。

 光弾をばら撒きながら後ろへ飛ぶナイトメアズ・シャドウの足が大地を抉り、多量の砂を宙空へ巻き上げる。


「いい加減しつけえんだよ、クソが!」


 コルデーロの怒鳴り声と共に繰り出される刃を回避しながら、ナイトメアズ・シャドウは建物の間へ滑るような機動で逃げて行く。

 いつもなら掛けられる声もない現状に、アンジェリカはナイトメアズ・シャドウの機動による慣性に苦しみながら敗北を意識し始めていた。

 しかし、負けたからといってどうなるのだろうか。

 自らをアンジェリカと名付けた男の優秀さをアンジェリカは知っており、ナイトメアズ・シャドウが撃破されたところでその男が逃走する事は容易い事だと理解していた。


 だがその時、自分はどうなってしまうのだろうか。

 前と同じ端子に繋がれたまま生きるのか、それともエイブラハムが自分を守る為に殺した彼らのように死ぬのか。

 それがどうしたと思う反面、感じた事の無い不快感がアンジェリカの胸中を侵食していく。

 だがアンジェリカは理解できないソレを過去に感じていた事があった。


 霞がかる頭の中でそれを探り、思い出す。

 脳裏で投射されたヴィジョンはつい先日の物であり、エイブラハムが自分を置いて行ってしまった時の事だ。


 嫌だ、"声"の導きとは関係なく幼い自我は確かにそう感じていた。

 不快感から逃れるように前のシートに座る男へと小さな手は伸ばされたその時、アンジェリカの脳に掛かる負荷が軽くなり、視界の赤が薄まっていく。

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