Raging Wild/Blazing Riled 1
「ソウ、戦闘システムを立ち上げ、その後に索敵を開始」
『戦闘システム、スタンバイ。ようこそ、代行者エイブラハム』
コックピットに飛び乗ったエイブラハムは、シートに腰掛ける間も惜しむかのようにAIに指示を飛ばした。
企業のワンオフ機、復讐者級の戦力に先手を取られてしまえば、文字通り命の保障はない。
アンジェリカの身の安全の確保、敵性戦力の殲滅。
それらを確実に遂行しなければならない以上、エイブラハムには一分一秒が惜しかった。
『索敵終了』
AIの無機質なマシンボイスがそう告げ、ディスプレイに詳細なレーダー表示が投影される。
妙に多い敵性戦力を示すマーカーに当たりをつけ、エイブラハムは溜息を漏らした。
「レジスタンスの車両のマーカーの色を変更、所属不明はそのままで構いません」
『イエス・サー』
無機質な返事の後にディスプレイ投影されたマーカーの表示が変わる。
所属不明の機動兵器、あるいは車両を示す赤いマーカーが4つ、動く様子を見せないレジスタンスの車両を示す黄色いマーカーが3つ。
よく目立つ所にナイトメアズ・シャドウを置いていた上で襲撃を掛けてきた以上、敵も機動兵器を所有していると考えるのがベターである。
そしてエイブラハムは所属不明の内の1つを機動兵器運搬用の車両と仮定し、状況を開始する。
「レジスタンスは動かない、というよりはシャドウの起動でそれどころじゃないでしょう。戦力を持った固体を各個撃破し、リーダー機をこちらに引きつけます」
『交戦開始。幸運を、代行者』
マシンボイスが告げる全武装使用許可を聞き終える前に、ナイトメアズ・シャドウはスラスターから炎を吐き出し滑るように走り出す。
大きなひし形を形成するように配置された敵部隊はおそらく正面が機動兵器、その後ろに運搬車両。そして左右には展開されるのは戦闘車両か量産機の機動兵器。
潰せる戦力から確実に潰していく。
Strangerの戦闘車両は動く事が出来ない以上、エイブラハムは時間を掛けずに撃破出来る敵の戦闘車両を先に片付ける事にした。
かつて整然性を持って建っていた建物の影から飛び出したシャドウは、猛禽の名を冠したレーザーマシンガンの光弾を予想通りに配置されていた戦闘車両に吐き出させる。
いくら距離があると言っても爆炎と轟音を上げ戦闘車両の撃破に所属不明が気付かないはずがないが、手を打たれる前に打てばいいだけの話。
「アンジェ、スピードを上げます。辛かったら教えてください」
小さな白い頭が縦に動くのを感じた後、エイブラハムはスラスターの出力を上げナイトメアズ・シャドウの機動を高速機動へ移行する。
ナイトメアズ・シャドウの赤いマシンアイが運搬車両を捉え、エイブラハムの眼前に広がるディスプレイに車両の構成が投影された。
エイブラハムが搭乗した経験があるソレは装甲に覆われてはいるが、所詮は物質が劣化し始めた時代の産物でありナイトメアズ・シャドウに断てぬ物ではない。
130kmに達した弾丸のように推進するナイトメアズ・シャドウは右腕に装備されたレーザーブレードを車両の表面に突き刺し、そのまま車両の外周をなぞるように旋回する。
加速度の重圧にアンジェリカを捉えられたまま居させる訳にはいかないエイブラハムは、慣性を殺すことなく撃破した車両とその事実を置き去ってその場から飛び去っていく。
『敵機、残り2機』
「時間は掛けられません、すぐに終わらせ――」
戦場と化したスラムを照らす爆炎を背景に、高速接近してくるナイトメアズ・シャドウを迎え撃たれた戦闘車両の弾丸を軌道を大きく変えて回避する。
まるでいつかのミッションじゃないか。
建物の影にシャドウを隠し、エイブラハムはそう胸中で呟く。
ある時は影に潜み、ある時は影となり、そして最後には殺した。
何も代わりはしない、ただ殺すだけだ。
過程や動機という装飾を殺しに施すのはエイブラハムの矜持が許さない。
昼間であっても薄暗い世界を電磁刃やマズルフラッシュで照らし、灰色に退色した大地を同じく退色した人々の赤い血で染めていく。
エイブラハムはただミリセントの傍に居る為に殺し続けた。
その渇望に無駄な装飾は必要なかった。
機動兵器級の火器の銃声とレジスタンス達の怒声と悲鳴が遠くに聞こえる。
司令塔であったのであろう運搬車両を潰され、半数となった敵影の動きが乱れ始めるのをエイブラハムはレーダー上で観測する。
「いきますか」
エイブラハムはそう呟き、ナイトメアズ・シャドウは建物の影から飛び出した。
ワンテンポ遅れて吐き出された戦闘車両のロケットをマシンガンの光弾で撃ち落とし、爆発に巻き込まれないように大きく旋回しながら光弾をばら撒き続ける。
戦闘車両、それもグレネードキャノン等の高威力兵器を積んでいる物であれば機動兵器に匹敵することは可能であるという定説はナイトメアズ・シャドウには当てはまらない。
レーザーマシンガンは戦闘車両に一方的な陵辱を加え、やがてそれを爆散させた。
しかし感傷に浸る間もなく、AIが事態の変化を告げる。
『機動兵器級の敵影接近。約20秒後遭遇します』
「向かってきましたか、機体の特定は?」
『ノン。視界内に入るまで特定は不可能です』
「そうですか。何度も言いますが、あまり時間は掛けられません。機体情報などは分かり次第全て教えてください」
『イエス・サー』
AIとの会話を終えエイブラハムは操縦桿を握りなおす。
後部座席に座るアンジェリカの表情は既に青くなっており、戦闘の継続はアンジェリカの命に関わる可能性がある。
脳に直接接続する端子を1つだけ知っており、それを使用された人間がどうなるか見てきたエイブラハムには現状を楽観する事は出来なかった。
そしてAIはエイブラハムに、かつての顔見知りが駆る機動兵器の名を告げた。
『敵影補足。特攻格闘戦特化型機動兵器、サルファー・エッジと確定』




