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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
9/190

She Roll Dice/He Role Vice 3

 ローレライが立てた作戦はこうだ。

 東の部隊は広がりつつ東へ後退、西の部隊も同じく西へ後退、北の部隊は南に。

 そして裏道を警戒していた兵士達は、旧時代の名残である建造物の上からロケットやグレネード等の高威力兵器で狙撃。

 北に配置された戦闘車両は歩兵の壁となりながら、全ての街道が終結する中央まで撤退する。


 私兵集団の機動兵器がコロニーの中央寄りである北に配置されなかったのは、いくら新型の兵器であろうと戦闘車両に装備されたグレネードキャノンを無視する事が出来ないからであろう。

 ローレライはそう考えたのだ。


 戦闘車両には東から進軍してくる機動兵器を破壊、もしくは動けなくなる程度にダメージを与えてもらわなければならない。

 そして擬似的な包囲網を完成させ、各部隊の弾丸の消費に合わせ個別に撤退。


 この作戦の目的は非戦闘員のために死ぬだけではなく、その後の戦闘員達の撤退も含まれているのだから。


「限りなくベターな作戦だね」

「そう言って頂けると気分が楽になりますわ。でも、お兄さんならもっといい作戦をお持ちなのでは?」

「いや、俺はスタンドプレイヤーだからね。人を動かす事なんて出来やしないよ」


 自らの進退さえ決めかねない、ローレライとマコーリー卿の会話にすら口出しをしなかったアドルフが口を開いた。

 その言葉にローレライは驚愕と共に理解した。

 組合に入れば多対多の戦闘を経験することがあったのかもしれない。

 しかしアドルフは組合にも入らず、1人であらゆる依頼をこなしてきた。

 先のBIG-C防衛戦においても防衛部隊が出来るであろう、飽和銃撃を指示しただけで他は全てアドルフの手柄でしかなかった。

 ローレライは自らの依頼ではあるがアドルフの力になれた事を喜ぶ。


 だが戦闘中である事を再認識し、意識を変える。


 ローレライとアドルフの仕事は、愚直が過ぎ撤退のタイミングを見誤った部隊の脱出支援。

 そしてバイクの機動力と、チャールズの置き土産であるアンチマテリアルライフルの狙撃による霍乱だ。


 脱出支援と言えど難しいことは出来ない。

 様子を見て必要ならば「もう脱出しろ」と無線で伝え、追走する私兵集団の部隊にアンチマテリアルライフルに装填された徹甲弾を打ち込むだけだ。

 ローレライも銃火器を装備しようとしたが、仕事に集中して欲しいというアドルフの提案にその考えを捨てた。大事に思ってもらえるのも、認められた事も何もかもが誇らしかった。


 ローレライはもう"お兄さん"を泣いて見送るだけの少女ではないのだと、どこか満足げにアドルフがまたがるバイクの後ろに乗る。


「わたくし達も動き始めるとしましょう。人々を守る、それが我々の義務(ノブレスオブリージュ)ですわ」


 そのローレライの言葉に応えるように、眼帯の男はバイクを走らせる。

 アドルフの右手は、ローレライが運転してスラムまで良く来れたものだと関心するほどに大型のバイクのハンドルが。

 アドルフの左手には、比較的短い銃身のアンチマテリアルライフルが握られていた。


 急を要する処置をしなければならない者達以外を乗せた車両は、そろそろBIG-Cを出た頃だろうか。


 ローレライは出来れば父と母には同じ車両で脱出させたかったが、母は父の姿を取り乱さないはずがないと分かっていた。

 結果、安全のため数台毎にルートを変える車両編成によって2人はバラバラになってしまったがいずれまた会えるのだ。


『狙撃部隊、全員配置につきました』

「了解、始めなさい」


 端末からの報告に応えたローレライは、頭の中で自分がすべき事を反芻する。

 防衛部隊は既に後退を始めており、ダメージの深刻な東の防衛部隊の後退支援をしてから西へ回り込み後退と撤退の支援。

 既に甚大なダメージを負った東の大隊は撤退に躊躇う事はないだろう。

 どちらかと言えば東の惨状を知ってしまい、戦闘車両にも守られていない西の防衛部隊が自棄を起こさないかどうかが不安の種であった。

 しかし全部隊がローレライの指示に従う様に指揮権譲渡を、無線で全部隊に伝えてくれた父の期待に応えなければならない。


 その為にローレライは戦うのだ。


「東の後退する防衛部隊と交戦中の私兵部隊を確認、攻撃を開始する」


 そう言うなり眼帯のアドルフは路地をさらに一本奥の路地へとバイクを滑り込ませ、建物の切れ間に差し掛かる度に徹甲弾を私兵部隊に放つ。

 パワーアシストに守られた反動で腕は微かに動き、セミオートの機構が薬莢を吐き出す。


 真鍮色のそれが落ちる頃には消えるバイクを駆る急襲者達。

 私兵部隊はその影すら掴めはしない。

 派手な効果が期待出来る訳ではなく、BIG-Cの防衛部隊の目には卑怯に映るかもしれないが確実に防衛部隊の援護となる支援。


 もしかしたら「バイクさえあれば同じことが出来る」と言い張る者も居るかも知れない。

 だが眼帯に覆われた左目を持つアドルフが、左側から現れる敵に確実に徹甲弾を当てる姿を見れば皆黙るだろう。


『こちら、東の防衛部隊。目標地点までの撤退がほぼ完了しました。ご支援、感謝します』

「了解しましたわ。あとは自らの判断で迎撃し、撤退なさってくださいまし」


 その言葉を聞いていたのか、2人を乗せたバイクは東側から西側へ行く為に更に大きく回り込む。

 建物の間からはあまりにもアンバランスな巨大な砲身を持つ機動兵器が見えた。


 灰色の装甲、青白い粒子の光が漏れ出す砲口、蜘蛛のような8つ足を持つ脚部。


 あれの撃退は戦闘車両1台の役目となる。

 手助けが出来ない事に悔しさを感じるが、ローレライの仕事はそれではない。

 バイクが数秒程、北の街道を横断する。幸運にも目の前に展開する部隊に夢中になっていた私兵部隊は2人に気付く様子はなかった。

 やはり考え方が違うのだろうと、顔に張り付く自身の金髪を払いながらローレライは考える。

 相手の歩兵は狙撃舞台の活躍により数を減らしている。


 しかし最新装備にフレンドリーファイアをしてもなお余る人員、比べてこちらは大量の非戦闘員を抱え武器と先方は旧来の物。


 気づいてから応戦しても勝てる、そう思われているのだろう。


 パワードスーツの技術力の向上を考えれば、いずれはただのハンドガンなど文字通り豆鉄砲でしかなくなるのかもしれない。

 だがそれでいい、私兵部隊には油断していてもらわなければならない。

 逃げ腰の情けない戦力だと、豆鉄砲とそれを放つしかない脳を持った連中だと、侮ってもらわなければならないのだ。


「西の防衛部隊と交戦する私兵部隊を確認、攻撃を開始する」


 アドルフの報告にローレライはふとそちらへと視線をやる

 西の防衛線はグレネードやロケットの爆発音とあらゆる銃声、防衛部隊の断末魔に溢れていた。

 隊は乱れ、部隊ではなく個人で脱出する人間が出るのも時間の問題だった。

 嫌な予感通りパニックに落ちっていたのは、東ではなく西だった。


「陣形を立て直しますわ。銃撃をしつつ、西部隊の中央に向かっていただけて」

「了解」


 バイクは速度はそこまで上げずに進み、アンチマテリアルライフルから吐き出された弾丸は確実に紙幣と捉えていく。

 男の戦い方は「確実」という物にこだわっているように思えた。

 急にスピードを上げて今までの轟音にエンジン音紛れさせる。

 躍起になって確実に私兵部隊を殺し尽くそうとしたりしない。

 そして最悪の事態を最初に考え、確実な勝利に駒を進める。


 それが逃げる事であっても。


 誰もが望むような結末ばかりではない。


 この時代を象徴するような考え方であった。


「まもなくで西防衛部隊の中央に到達する。話が通るように端末で声を掛けて置いてくれ」


 アドルフの着用するジャケットのパワーアシストがスナイパーライフルの反動を押し殺し、その弾丸は油断していた私兵の体を撃ち抜き殺す。

 ローレライはそんな状況を端に捉えながら、端末を操作して西の防衛部隊に用件を伝える。

 インスタントメールの送信に意識を裂きながらも、ローレライは眼帯の男が使っていたハンドキャノンに恐怖していた。

 アンチマテリアルライフルを無反動のように扱えるパワーアシストを持ってしても、押さえ込めないハンドキャノンの反動。


 そしてローレライの胸中に1つの懸念がわきあがる。


 さきほど考えていたように、もしただのハンドガンが豆鉄砲程度の役割しか果たせなくなるのであれば、自分もあの冗談のような銃を持たなければならないのだろうか。

 しかし脳裏によぎるのは的から大きく外れた所に弾丸を放ち、反動で吹き飛ばされる自分の姿だった。


 無理だ、絶対に無理だ、とローレライは頭をふる。


 ローレライははハンドガンの安全装置の外し方でさえ未だに知らないのだ。

 ハンドキャノンを扱うアドルフですら「冗談のような」と言う形容詞をつけるような銃を、参謀でありながらただの小娘でしかないローレライが扱えるはずがない。

 思考が回らないローレライを乗せたバイクはゆっくりと速度を落とし、やがてその動きを止める

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