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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Punisher
85/190

Bloody Dawn/Maddy Down 5

「請けてもいいですが、報酬は当然として条件がいくつか」

「……言ってみろ、聞くだけは聞いてみよう」


 警戒の色を濃くするイーノスにエイブラハムは肩を竦める。

 受け入れられない事を分かっていても、エイブラハムが提案するのは当然の事なのだ。


「まず1つ、その襲撃にあの機動兵器は使いません」

「ふざけるな――」


 ナイトメアズ・シャドウという分かりやすい切り札を使わないと言ったエイブラハムに、激昂したサミュエルは略奪したばかりのライフルを構える。

 そもそもイーノスはエイブラハム・イグナイテッドという男ではなく、漆黒の機動兵器を求めて勧誘した。1度死を認識させられたからといって退いてしまえば、襲撃の際にStarangerが被害を被るの火を見るより明らかなのだ。


 しかし言葉よりも殺気よりも早く繰り出されたのは、理解不能な速度で煌めいた銀閃だった。


「今回だけは大目にみてあげましょう。もしもう1度この子に銃口をむけるのであれば、殺しますよ?」


 美しい笑みと共に告げられた言葉が切欠のように、鋼繊維の樹脂が織り込まれているはずのスリングが綺麗に両断され、急に掛かった重みにサミュエルは慌ててライフルの引き金から指を離す。

 むざむざと再認識させられてしまったエイブラハムの異常性にサミュエルの背筋に悪寒が走る。

 銃口を向けただけで刃を振るったエイブラハムが、誤射を許せるはずがないとサミュエルは思ったのだ。


「部下がすまない事をした。とりあえず話を続けてくれ、最後まで聞かなければなんとも言えん」


 言葉だけで詫びたイーノスは、サミュエルを制するように痩せ細った左腕を伸ばす。

 エイブラハムがアンジェリカにとってそうであるように、イーノスもレジスタンスの目的を想うあまりに憤ったサミュエルを責める事は出来なかったのだ。


「更に1つ、指定する物資と任期の間この子が安心して眠れる環境を提供すること」


 そう言ってエイブラハムは未だイーノス達を警戒しているアンジェリカの頭をフード越しに撫でてやる。

 コックピット内は決して良い環境とは言えず、成長期であるはずのアンジェリカをそこで寝かせるのは忍びない。企業を飛び出してから数日間その事ばかり考えていたエイブラハムは、襲撃が行われるその日までであったとしてもアンジェリカをきちんとしたベッドで寝かせてやりたかった。


「最後に1つ、何があっても裏切らないこと。もし私達を裏切ったりしたら、あなた方の大切なものを全て燃やします」


 淡々と、それでいて厳かにそう告げたエイブラハムは、さりげなく両断したばかりのスリングに視線をやる。

 今この瞬間に全員を殺すのは容易いが、それをしないのは単に彼らを利用するため。


 死の恐怖と自分の美しさを顕示する事で相手を制するのは、エイブラハムの常套手段だった。


「最初を除けばどれももっともな話だ。だがなぜ機動兵器を使えない?」

「先ほどご覧になった通り、あれはこの子の唯一の自衛手段なんですよ。子供を戦場に出す訳にはいきませんし、屍食者(スカヴェンジャー)くらいなら私で1人で無力化出来る――というよりは1人でやらせてもらった方がスマートに事が進むでしょう」

「ほう、随分自信があるようだな?」

「私は終焉者(クローザー)。彼と同じ企業の切り札の1つ、と言えば格好がつくでしょうか」


 試しに何人か殺してもいいのですが、とエイブラハムは軽く首を傾げる。

 理解してもらわなければならないのだ。

 エイブラハムにとって大事なのはアンジェリカただ1人であり、それ以外は一切の価値がない存在なのだと。


「契約はする、だが最後に聞かせて欲しい。その屍食者(スカヴェンジャー)とやらがその手の技術のエキスパートだとして、終焉者(クローザー)とは何なんだ?」


 漆黒の機動兵器は子供の自衛手段であり、子供の身を守る為に一緒には戦場に出れない。

 それは裏を返せば少女を拠点(ベース)に残していけば、自衛ついでに拠点が守られるという事である。

 最低でも少ない費用で機動兵器を手元に置けるその提案は、Glaswegianグラスヴィージャンで略奪をしてきたイーノス達には安いものだった。

 そしてエイブラハムは自嘲するように肩を竦めた。


「篭絡から鏖殺まで、何でもありの終わりを美しく飾る暗殺者ですよ」


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