Hear The Silent Scream/Near The Violent Stream 7
「分かりました、私があなたを守りましょう」
エイブラハムはそう言い放ち、前部のシートに座る。
「代行者をエイブラハム・イグナイテッドで登録。機体のコントロールを全てエイブラハムに譲渡、ブレードとFCS制御をマニュアルに変更」
『復唱します。代行者をエイブラハム・イグナイテッドで登録。ナイトメアズ・シャドウのコントロールを代行者エイブラハムに譲渡、登録完了後に解放。アンテイムド・メサイア、パーフェクト・レインの制御をマニュアルに変更』
「それと、機体を含めハードウェアの名称を変更。もっと簡潔にしてください」
『全てのハードウェアの名称を音声入力で変更します。どうぞ』
「ナイトメアズ・ソウトをナイトメア。ナイトメアズ・シャドウをシャドウ。"アンテイムド・メサイア"をブレード。"パーフェクト・レイン"をマシンガン。"キッシング・アンフォーギヴンをスラスターに変更」
『未変更のハードウェアがあります。続けてどうぞ』
「え、機体と武装の名称の変更はしたはずですが?」
エイブラハムは訝しげにAIに問い掛ける。
機体のコントロールのみ掌握したエイブラハムは手を加える事は出来ないソフトウェを除けば、確かにエイブラハムは機体名と自身がAIに教えられた武装名の変更を終えていた。
しかし、エイブラハムは1つ大きな勘違いをしていた。
それと相対している自分と、そうあるように設計した企業とでは大きな認識の差異あるというのに。
『ノン、外部媒体シャドウ・ブレインの名称が変更がされていません』
「……彼女の事を言っているのですか?」
ナイトメアズ・ソウトと名乗るAIに提示されたその優美さの欠片も無い名前にエイブラハムは名前を顰める。
『イエス。変更の必要が無ければ同名称で再入力させていただきますが』
「待ってください――あなたの名前は?」
AIに静止を掛けエイブラハムは後ろに座る少女の方を向き尋ねた。
企業が彼女をシャドウ・ブレインと呼ぼうが少女が本当の名を覚えているのなら、せめて自身と会話が成り立つかは分からないがAIだけはその名を呼ぶようにしたいとエイブラハムは思った。
エイブラハムは覚えている。
父と母が死に、ミリセントと出会う前、終焉者とだけ呼ばれ自らが何処にどう立っているのか分からなくなったあの頃を。
自らはミリセントに救われ、少女に導かれたここに居る。
しかし少しでもこの小さな少女に救いをと思うエイブラハムの思いに対し、少女は首を横に振る事により応えた。
「覚えてないのですか?」
少女は首を縦に振り、エイブラハムは少女の余りの不遇さに顔を覆いたくなる。
しかし、少女に同情するのならば嘆くのではなく、彼女が生きていく為に必要な物を与えるべきだ。
エイブラハムは思案し、そして微笑を浮かべ少女に言い放つ。
「……天使のような女の子、アンジェはどうでしょう?」
少女はエイブラハムの言った事を一瞬理解出来ないと言わんばかりに目を丸くする。
「君の名前です、気に入らなければいつでも変えてくれて構いません。とりあえず、今だけでも私のワガママを聞いてくれませんか? 君にあの無粋な名前は似合いはしません」
バリトンの声で告げられた要求に戸惑いながらも少女は頷き、エイブラハムは満足そうに微笑を深める。
「シャドウ・ブレインをアンジェリカ、アンジェに、ナイトメアズ・ソウトをソウに変更。以降は彼女の意思次第で名称を変更を受け入れるように」
『ナイトメアズ・ソウトの名称変更の意図が不明です』
「私なりの気休めですよ。ソフトウェアの名称変更になりますが、どうかよろしくお願いします」
『了承。外部媒体シャドウ・ブレインをアンジェに、ナイトメアズ・ソウトをソウに変更。以降、外部媒体アンジェの名称の変更権は外部媒体アンジェに完全に譲渡します。登録、変更完了。ようこそ、代行者エイブラハム』
マシンボイスが全ての準備を終えた事を告げた瞬間、操縦桿等のコントロール系の全てが赤い光を放つ。待ち受けていたその時が来た事を歓喜するように輝く光を背に、エイブラハムは芝居がかった仕草を交え自らが名を与えた少女に告げる。
「さあ、行きましょうか。アンジェ」




