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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Punisher
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Hear The Silent Scream/Near The Violent Stream 5

「さあ、道は拓けました。足元が良くないので失礼しますよ」


 状況についていけないとばかりにアーモンド型の目を見開いていた少女を抱き上げ、エイブラハムは自らが作り出した入り口を抜けていく。

 巻き上がる埃を吸い込まないように少女の口にさりげなく取り出したハンカチを当て、足元を散らばる合金片に足を取られないように抜けたそこにあったのは、もう1枚の隔壁だった。


 ハンカチをコートのポケットにしまいながら、エイブラハムはどうしたものかと考える。

 白銀の太刀の充電は切れてしまい、残るはスローイングナイフのみ。


 すると胸元で抱きかかえられていた少女は降ろせとばかりにエイブラハムの胸を軽く叩く。

 力を入れたつもりはないが苦しい思いをさせていただろうか。

 そんな事を考えながらエイブラハムが少女をゆっくりと降ろすと、少女は閉ざされた隔壁へ向けて両腕を広げる。


 それは何かを請うようであり、何かを招き入れるようであった。


 瞬間、エイブラハムは隔壁の向こうから聞こえた重厚な音とその直後に訪れた破壊に、少女を抱きかかえるようにして後方へと飛びすさる。

 白銀の太刀で切り裂いた扉の残骸とは比べ物にならない音にエイブラハムは、太刀の柄に手を掛けて警戒するように暗闇の向こうを睨みつけた。

 感じる気配は巨大で凶悪なもの、それこそ自分などでは太刀打ちも出来ないほどの。


 そして暗闇の向こうから現れたのは、1機の機動兵器だった。

 弱い赤い光を灯すマシンアイ、先鋭的なフォルムの黒い8mほどの巨体、それはエイブラハムですら知らない2脚の機動兵器だった。


 エイブハムは唖然としながらも自らが知っている機動兵器とは大きく違うソレを視線でなぞる。

 企業が所有している機動兵器のほとんどは6つ脚、もしくはキャタピラの脚部を持っているもので、2脚は機動兵器の自重に耐え得るレアメタルの枯渇等により机上の空論でしかなかった物だ。量産機はもちろんのこと、クリムゾン・ネイルやAI搭載機のクロム・ヒステリアのようなワンオフ機であっても6つ脚とキャタピラである事がその事実の証明である。


 しかし、その事実を跳ね除けるようにその影はそこに存在した。


「これを探していたんですか?」


 苦しいばかり腕を叩き、降ろせとばかりにもがいていた少女を降ろしながらエイブラハムは問い掛ける。

 少女の特異さに見合う特異的な機動兵器。少女は返事の代わりに流線型の頭部を見詰め、機動兵器をひざまずかせる事で答える。


 決定だ、とエイブラハムは頭を抱えてしまう。


 復讐者(アヴェンジャー)は有色の人間と退色した人間の優劣を提示し、企業はそれに則り色付きの移民を拉致し、ソレを検体としてあらゆる実験をしている。


 少女はその被検体であり、復讐者(アヴェンジャー)に対する切り札なのだ。

 噂でしかなかったソレは演目(プログラム)終末劇(ラストステージ)を知るエイブラハムには噂とは思えなかった。

 少女に同情してないといえば嘘になり、それが深い親愛の情から来る物だといえばソレも嘘になる。しかし、エイブラハムは復讐者(アヴェンジャー)に人生を変えられた少女に同情を禁じえなかった。


 エイブラハムは自らの意思で復讐を諦めたが、色を持っていたが為に拉致されあらゆる処置を施された少女はそんな事すら知らず恨む事も出来やしない。その伽藍堂(がらんどう)が埋まる事は無く、少女は奪われたままその一生を終えるだろう。

 身長が自分の腰にも満たない小さな少女を取り巻く過酷な悲劇にエイブラハムが呆然としていると、当の少女はコートの裾を引きながら機動兵器を指差していた。


 跪いた黒の背部からコンテナのようなコックピットがせり出し淡い光を天井へ放っていた。しかし少女は連れてけとねだるばかりで、機動兵器もそれ以上少女に尽くそうともしなかった。


「あなたを信じますよ」


 エイブラハムは何も分かっていない様子の少女を再度抱き上げ、合金製の膝へと飛び乗り、せり出したコックピットへと伝っていく。

 もしも罠であったのであれば私兵達がついて来なかったのも、機動兵器が1人でに動き出した事に説明がつく。


 しかしそれが誰の罠なのかは説明はつかない。

 エイブラハムがいくら最高の白兵戦戦力といっても殺す方法がない訳ではない。あくまで人間でしかないエイブラハムは簡単な毒でも死ねるのだから。

 コックピットに辿り着いたエイブラハムは見た事もない機動兵器の副座に少女を座らせ、本来コックピットの開放と共に降りてくるはずの絡まったワイヤーを解きながら引き上げる。


 何もかもが知っているものと違うこの状況に思考を走らせながら、エイブラハムはワイヤーを格納する。

 この機動兵器は1人でに動いたのではなく、少女の求めに応じただけ。しかもAI搭載型でありながら、人間が座るための座席を副座という形で搭載していた。

 ただのAI搭載型の機動兵器であれば人間は必要ない。それはクロム・ヒステリアが証明しており、紛れもない事実だ。


 2脚複座式の機動兵器、そしてそれを従える白髪の少女。

 その奇妙な組み合わせに答えを求めるようにエイブラハムはコックピットを見渡す。

 コックピットは前後に並ぶ複座式であり、前部はコンソールや操縦桿等がひしめくいわゆるコックピットだが、後部は何も計器類の1つもなくただシートの後ろから2本の見覚えのある端子が垂れているだけ。

 実働記録が無い機動兵器というじゃじゃ馬を素人が扱えるはずが無く、機動兵器のコックピットに1人で上る事すら出来ない少女がミリセントのような熟練の操縦士とは思えない。


 氷解する様子の無い疑問に頭を抱えていたエイブラハムの耳に、不意に軽い金属同士が触れ合う金属音が届く。銃器に弾丸が装填される音でもなく、刃物が抜かれるような音でもないそれを不審に感じたエイブラハムは背を向けていた少女の方へ振り返るとそこには信じられない光景が広がっていた。

 後部のシートに垂れていたコードは少女の金属製の耳と繋がり、少女は苦悶のと様子すら見せずそれを更に奥へ押し込んでいく。


「何をして――」


 少女のその行為を止めようとエイブラハムが手を伸ばしたその時、状況は更に加速していく。


『インストール開始』


 無機質なマシンボイスと共にディスプレイにインジケーターが表示され、それが高速で数値を変えていき、少女の顔もその数値の上昇と共に顔を苦痛に歪めていく。

 その状況を目の当たりにして、エイブラハムは焦った。

 復讐者に与えられた眼球は膨大な情報量を脳に直接送る為、被験者の脳に深刻なダメージを与えアヴェンジャーを除く被験者達は全員この世を去った。


 そしてこの機動兵器はインストール開始と言った。

 少女がその認証キーでなければ少女の中の情報を機動兵器にインストールしているか、機動兵器の中の情報を少女にインストールしている事になる。

 しかしそれを止める方法をエイブラハムは知らない。

 少女の生体(せいたい)に密接した耳に接続された端子を引き抜けば少女の身が危ない。だがコントロール系はインストール後しか使用できないのか、光すら点っておらず反応すらしないだろう。


 たまらずエイブラハムが苦痛に耐えるように顔を歪めている少女を抱きしめると、少女はその華奢な腕でエイブラハムのコートに必死にしがみついてくる。

 早く終われ、エイブラハムは自らの腹部に顔を押し付ける少女の背に手を回し心からそう願い、それが通じたようにマシンボイスが終了を告げた。

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