Hear The Silent Scream/Near The Violent Stream 1
何もかもが枯れ果てた荒野で、炎は理不尽なほどのその身を躍らせていた。
完膚なきまでに破壊された車両が、片目を潰された死体達が炎に陵辱されていく。
地獄というには穏やかで、戦場というには一方的なその惨状の最中で、チャールズ・アロースミは頭から血を流しながら蹲っていた。
ありえないとチャールズは薄れ行く意識の中で思うも、現実は最悪な形での帰結を迎えてしまった。
誰も彼もが死んだ。ローレライと言い争っていたマコーリーも、かつてはローレライと席を同じくしていた兵も、チャールズを慕う若者達も、誰も彼もが。
脱出部隊は企業の襲撃を受け、先行させた部隊を除いてほぼ壊滅させられてしまったのだ。
車両に搭載されたレーダーが敵影を捉えた頃には既に手遅れだった。まるで悪い冗談のようだが、レーダーが敵影を捉えた瞬間に全てが終わっていたのだ。
「あなたが、チャールズ・アロースミスですね」
チャールズは突如掛けられたバリトンボイスに導かれるように顔を上げる。
一房だけ編みこまれた白のミドルヘア、白磁のように真っ白な肌に際立つピジョンブラッドの瞳。退色した灰色とも自身らと同じ色でもない先天性色素欠乏症、男とも女ともつかない不気味なほどに美しい顔。
ロングコートとシャツは白で統一され、残されたボトムスやブーツは黒で統一された物。
全てが一目で上等な物と分かるそれらを纏う長身痩躯の男は、立体的なヴァインの装飾が施された白銀の太刀を構えてチャールズを見下ろしていた。
何故、と思う反面でチャールズは最後が訪れたのを確信していた。
圧倒的な死という終焉、それが美しい男の形で現れたのだと。
「さようなら」
瞬間、銀閃が走り、肉が叩き付けられる鈍い音がする。
チャールズは首と命を落とされ、白の髪の男は太刀を振る払う事で血を払いながら空を見上げる。
荒野に黒煙が昇り、やがて灰色の空に溶けて行く。まるで世界に争いが組み込まれ、溶け込んでいくように。




