表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
71/190

Until You Wake/Until You Break 2

「……ん」

「ああ、ごめん。起こしちゃったかい?」

「構いませんわ、ソファに座ったらついうとうとしてしまっただけですの」


 そう言いながらローレライはウィリアムの腰に腕を回し、ウィリアムはそんなローレライの頭を撫でる。

 かつては触れることすら恐れてしまった違う色、救うために遠ざけようとした愛しい色。

 代えようのない安堵を与えてくれるその色が後押ししたのか、ウィリアムはポツリと呟いた。


「夢を見ていたんだ。俺とローラが再会した頃の」

「あの頃は大変でしたわね。婚約されると聞いた時は相手次第ではウィルを誘拐して逃げようと思いましたもの」

「それは犯罪だよ。まったく、何がそこまで君を焚きつけるんだかね」

「ウィルへの留まる事を知らない愛情ですわ。責任を取っていただけなくて?」


 呆れたとばかりに肩を竦めるウィリアムを余所に、ローレライは楽しげにウィリアムの右目を覗き込むようにして問い掛ける。

 だが酷使された脳とのナノマシンで何度も無理矢理再生した体は、より早く朽ち果てるだろう。もしかたしたらそれよりも早く、ローレライはウィリアムに愛想をつかして出て行ってしまうかもしれない。


「聞かせてくれ、俺は誰だ?」


 何度も繰り返した問い掛けをウィリアムは口にする。

 今でも時折感じるのだ。

 アドルフに変わっていくような、左目に征服されていくような暖かな不快感を。

 勝手だというのは分かっている。それでもウィリアムは自分で居たかった。


 アドルフに拾われ、ローレライと出会えたウィリアム・ロスチャイルドで居たかった。

 そうでなければ自分の命に価値を持てなかった。

 そうでなければ何も知らないまま死んで行くだけだった。


 2人と出会えた自分で居たかった。


「あなたはウィリアム・ロスチャイルド、わたくしの傍らに骨をうずめるウィルですわ」


 毎回のように優しい声色で答えたローレライは、ウィリアムの胸元に顔を寄せてその鼓動を聞く。

 アドルフが理由を与え、ローレライが繋ぎとめた命。

 ローレライはそれを愛しく想い、ウィリアムはそれが続く限り戦い続ける。


 そう。ウィリアムはどれだけローレライに止められても、戦う事をやめられなかったのだ。

 確固たる理由も、戦う為の矜持も何もない。

 どうして戦いを終えて利用する価値を失った自分に、何もかもを失わされてしまった少女が寄り添っているのかも分からない。

 それでも戦いはウィリアムを戦場へと誘い、ウィリアムは全てを守る為に銃を手にするしかなかったのだ。


 だからこそ、ウィリアムは自分が変えてしまった少女が望む限り誓い続ける。


 いつだって、君を守ると。


 ローレライが自分を不要とし、別離が訪れるその時まで。


「また、俺は何もかも忘れてしまうかもしれない。だからその前に言っておきたい事があるんだ」


 サラサラとした金糸のような髪を梳いていた手を白磁のように真っ白な頬に添え、ウィリアムは見る度に心を奪われてきた碧眼を見詰める。


 左目に犯された脳はいつ機能を停止するか分からない。

 優性遺伝子の結晶であったとしても、傷つき続けた体がいつその動きを止めてしまうかは分からない。

 ポズウェルという少年がどうなったのか、2人の関係がどういったものなのか。

 何もかも分からないからこそ、ウィリアムが口にするのは、願うことも望んでもいけなかった自分の願望。


 口に出す事すら出来なかった唯一の言葉だった。


「ローラ、君を誰よりも愛してる」

「わたくしもですわ、ウィル。忘れても何度でも思い出させて差し上げましょう」


 当然だと、ウィリアムの浅黒い頬に手を添え返したローレライ・ロスチャイルドは、美しい笑みを浮かべて言った。


「御覚悟を。もう、2度と離したりなんてしてあげませんわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ