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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
70/190

Until You Wake/Until You Break 1

 復讐劇は幕を閉じ、世界には混迷が訪れた。

 メモリーインダストリーが消え、記憶の販売は衰退の一途をたどり、企業という枷を失った私兵達は野盗(バンディット)と成り果てた。

 住まう者達の安寧を謳っていた、Glaswegian(グラスヴィージャン)を初めとした企業の影響下にあったコロニーは遺された者達の復讐と略奪の対象となってしまう。


 企業という揺り篭の揺り手を失ったコロニーは庇護者を求め、トニー・ルーサム等の防衛部隊経験のある者達、あるいは大規模なレジスタンスの者達が乱立させた民間軍事企業達がその任に就いた。

 そしてコロニーOdeonに従者等と共に渡ったローズマリー・アロースミスは、義理の妹であるメアリー・アロースミスの協力を得て交渉屋アロースミスを開業。コロニー同士が争う前に交渉で解決しようと尽力した。


 だがそれでも軍需工業はあるコロニーは略奪の対象とされ、挙句の果てにバンディットの根城と化してしまう事もあった。

 世界は企業が現れる前の混沌とした物に戻りつつあった。

 大きな力に支配されながら生きるのか、ただ自らの力で混迷する世の中を生きていくのが正しいかは誰にも分かりはしない。


 ただその日を生きるという意思、それは世界が企業を失う前も後も変わらず世界を動かしていた。

 それでも移民達はその身の価値が消える事は無く、野盗(バンディット)と人買いはと組み移民を襲い、移民はソレを恐れその身を寄せ合う他無く、抵抗する手段を持たぬ者達から何もかも奪われていった。

 しかし世界に自浄作用があるように、野盗に対する最強の戦力が生まれた。1度戦いが始まれば敵対者を殺しつくし、決して安いとは言えないギャランティで大地を赤く染め上げる最強の傭兵。


 その新たに掲げた民間軍事企業の名は多目的傭兵屋アヴェンジャー、旧リヴァプールのスラムに住まう白黒の髪の男の傭兵と金髪の女の参謀の2人組みだ。


 ●


 肩に感じる心地良い重みと暖かさに、ソファで転寝(うたたね)をしてしまっていたウィリアムは目を覚ます。

 遮るものが無い右目でその正体を探れば、そこには自分に体を預けて眠っているローレライ・ロスチャイルド――伴侶となった参謀の少女が居た。


 ローレライはあの復讐劇の後、傷だらけのウィリアムに素早く救急用ナノマシンを投与し、バイクで旧リヴァプールのスラムまで運んだ。

 瀕死の体をナノマシンで誤魔化して運べばウィリアムの体に負担を掛ける事になるとローレライは理解していたが、誰かを巻き込む訳には行かないとローレライはウィリアムと共にスラムに身を隠したのだ。

 幸いにもウィリアムの口座を開かなくても2人で暮らせるレベルの資金はチャールズが遺しており、ローレライは清貧に務めてその資金をウィリアムの治療へと当てた。


 そして2週間ほど経った頃、ウィリアムが目を覚ます。

 体の調子を取り戻しながら状況を確認したウィリアムは、情報を得た後に再度寝込んでしまった。


 目を覚ましたそこが病院でも何でもなく、暖かみと気品が同居する内装で飾られた家であった事。

 あの戦いのためにアロースミスと縁を切らせてしまった事。

 そしてなし崩し的にローレライの姓がロスチャイルドになっていた事。

 死ぬ覚悟こそ容易く出来たウィリアムであっても、それらの事実を簡単に受け入れられるほどの大人物ではないのだ。


 それでもローレライの事を思えばこそ、ウィリアムは退く事は出来ないと説得を続行した。

 トレーシー・クレネルは自らと関わったせいで殺され、コロニーCrossingもそのついでに空爆に晒された。もう守ってやる事は難しいかもしれない、必要ならばバイクも持って行って構わない。


 ウィリアムは自らの持つ精一杯の誠意を持ってそう話した。

 怒るかもしれない、見限られるかもしれない。だが、それ以上に目の前の少女がこれ以上傷ついてしまう事がウィリアムはただ恐かったのだ。

 最後に受けたあの襲撃でさえ、ローレライを守るという目的が無ければもう戦えなかっただろう。それほどまでに大きくなってまった少女の存在を危険に晒すなど。ウィリアムには出来なかった。


 しかし当のローレライは怒ったりする事もなく、いつも柔和な笑みを浮かべこう言い放った。


「知りませんわ、そんな事」


 その言葉を切欠に、ウィリアムは更に3日ほど寝込んだ。

 日に日に逞しくなっていくローレライにウィリアムはアロースミスの女傑の影を感じながらも、ろくに体が動かないウィリアムはローレライに頼らざるを得なかった。


 それからというものローレライは何も聞かずにウィリアムに尽くし、ウィリアムのソレに応えるように回復していった。

 かつて薄汚い影と罵られた黒髪は左目に多用によって白に侵食され、左目はよほどの事がなければ使う事がないように黒い布で覆われている。

 決して五体満足とは言い難い姿であっても、瀕死にまで至ったウィリアムにはそれすらも奇跡に感じていた。

 ソファで少し凝ってしまった体をほぐしたいが、自らに体を預け眠っているローレライを起こすのは忍びない。


 しかしついてしまったため息が悪かったのが、ローレライはゆっくりと透き通るような碧眼を開いていく。

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