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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
62/190

May Storm/Flay Scorn 5

 脳が軋みを上げる。

 意識に罅が入る。

 何かが自分を犯す不快感に吐き気が込みあげる。


 だが痛みだけがウィリアムに生を感じさせていた。


 巨大な砲身とシアングリーンのデュアルアイから逃れるように、ウィリアムはバイクを高速で走らせていた

 砲口から吐き出された巨大な弾丸は背後の壁を吹き飛ばし、死が間近に迫っているその間にも左目はウィリアムに情報を送り続ける。


 敵性戦力/高機動高火力特化型2脚機動兵器

 装備/大型特殊格闘兵器、大型バトルライフル

 ウィークポイント/バックブースター


 背後も見ずアンチマテリアルライフルの引き金を引き、徹甲弾が装甲を叩く鈍い金属音を聞きながらウィリアムは送られて来た情報を考察する。


 まずは高機動高火力特化型という、赤い機動兵器とは全く違う特徴。

 高火力というのはアンバランスなほどに大きい鉄柱とライフル、高機動というのは同じくアンバランスなほどに大きいバックブースターによるものだと推察できる。


 問題はなぜその2つか両立するか、という点に尽きる。


 そもそも企業の機動兵器がキャタピラタイプと6脚のタイプに分かれるのか、それは自重に耐える事が出来ないという根本的な問題によるものだった。

 だがその白い機動兵器は確かに2本の足でコロッセオの床を蹴り、クリムゾン・ネイルでさえ旋回する事でしか対応出来なかったバイクの速度に追い縋っている。


 左目の情報に誤りがあるのかもしれない、むしろ合っているのかもしれない。もしくはあの機動兵器にジャミングの機能が搭載されていて、それによる影響を受けているのかもしれない。

 しかし、と首を傾げることで飛来する瓦礫を回避したウィリアムは眉を顰める。


 アロースミスのバイクに左目を使用してみたところ、緑色の瞳はそのバイクのウィークポイントをエンジンと搭乗者としていた。

 確かにアロースミスによって改良と管理されていたバイクは、カウル1つもへこまずにウィリアムの戦闘を支援していた。それでも常時搭載されているエンジンと搭乗者が一緒くたになっている事を、そのまま受け取るほどウィリアムは能天気にはなれなかった。1人で考察を進められるほど優秀でもないのも事実だったが。


 そんなウィリアムに代わってローレライが出した結論は、左目が叩き出した情報はウィリアム自身の嗜好を介し、ウィリアムに最適化されているというものだった。バイクを走らせながら狙撃を行えるウィリアムの精密射撃の精度は限りなく高く、左目の機能はウィリアムを後押しするものだったのだから。


 車両の破壊と奪取を同時に考える拝金主義の考え方、その為の労力を極力使わない弱点(ウィークポイント)を探す傭兵の考え方。

 アドルフ・レッドフィールドと名乗っていたあの頃、エフレーモフから車両を奪おうとしていたウィリアムはその仮説に頷かざるを得なかった。

 つまりその左目は人の手で作られたものであると同時に、ウィリアムの思考を汲めるある種有機的な兵器である。何もかもが完璧というわけではないだろう。


「たとえば、こんな風にな」


 ウィリアムはそう言うなり、後輪を滑らせるようにブレーキを掛け、その上でバイクの車体を限りなく水平にする事で白い機動兵器の視界から外れる。

 死角を取られた白い機動兵器はなす術もなく、ウィリアムの頭上を通過して行き、ウィリアムは左目に浮かぶシアングリーンの弾道をなぞるようにアンチマテリアルライフルの引き金を引く。

 銃口から吐き出された徹甲弾は、いくつものブースターから吐き出される暴風を切り裂いて排気口の奥へと喰らいつく。破裂する熱量に白銀の装甲がボコボコと膨らみ、やがて装甲を吹き飛ばすように破裂する。


 背部に暴力的な運動エネルギーを背負わされた白い機動兵器は地面へと叩きつけられ、その軌跡を刻みつけながら派手に横転していく。

 合金片を混じらせる爆発に生まれた更なる暴風に髪をムチャクチャにされながらも、ウィリアムはチャンスだとばかりに続けざまに引き金を引く。


 放たれた弾丸は装甲の隙間を掻い潜り、ブースターのいくつかを地面へと落とす。

 放たれた弾丸はウィリアムの方を向こうとした機動兵器の顔を、無理矢理に反対側へと向けさせる。

 放たれた弾丸は真っ直ぐ向けられたライフルの銃口を捕らえ、更なる爆発を生み出す。


「どういうことだ?」


 一方的に機動兵器を蹂躙しているその光景に、意味が分からないとばかりにウィリアムは呟く。

 緑の瞳の左目がジャミングを受けていない、確かな情報を使用者に与えいると仮定して、そこから導かれるのは確率の高いもの以外の考察の秘匿である。

 多くの情報が与えられる事による脳へのダメージの軽減が目的ではない事は確実であり、左目を露出する事により作動するというスイッチを入れるプロセスはあるが左目を出してしまえばパッシブに移行する為、ウィリアムが制御しきれないという事でもない。


 つまり、その目を与えた人間には何か思惑がありそういうセーブを掛けたという事になる。

 あの赤い機動兵器のセンターシャフトの破損を考察から見抜き、結果勝利へ導いたのは確かに緑の瞳の目。だが自分の体であって自分の体ではない、何者かにコントロールされている可能性が捨てられないソレにウィリアムは気味悪さを感じてしまう。


 しかし複数あるブースターの1つがアンチマテリアルライフルの徹甲弾で簡単に破壊できた事が信頼を加速させる。


 自分は大きな思い違いをしているのではないか、ウィリアムは眉を訝しげに顰める。

 ロールアウトされていない最新鋭の機体をワンオフ機を戦闘車両を使わずに撃破した人間を使用してのデータ採取、ウィリアムはそう考えてたがその考えすら疑わしくなってきていた。


 答えではなくヒントを1つだけ与えられているのは何故?

 勝てる状況を整えられたのは何故?

 たかだか復讐者のために舞台を整えたのは何故?


「……ふざけやがって、クソッタレが」


 得体の知れない何かに理解の出来ない何かへ誘導されているような、ただただ気味の悪さを感じながら導かれる答えにウィリアムは沸々と溜まる苛立ちをスラングという形で吐き捨てる。

 視界の端で花弁のように乱れ裂けたライフルが放られるのを捉えたウィリアムは、咄嗟にクラッチを蹴り飛ばしてバイクを走らせることでソレを回避する。

 残弾を全て吐き出したマガジンが地面に落ち、吹き飛ばされた遮蔽物の残骸と共に塵芥の1部となっていく。


 一瞬でも気が緩めばその猥雑さと助長する事になる死線の中でウィリアムはシニカルに口角を歪める。

 鈍痛に苛まれる頭で導き出された答えは単純なものだった。


 この戦いの結末までもが決められた物だと、ウィリアムが自らその命を絶たない限り企業の手のひらで踊り続けるのだと。

 そして脳裏をよぎる最悪のヴィジョンはどちらへ進もうと再び全てを失わずにいるのは困難だと告げる。


 それを裏付けるように白い機動兵器がバックブースターを切り離し、左腕の鉄柱を振り抜けるように引いて臨戦態勢を整える。


 今までの戦闘がお遊びだったとは思わない。だがその機動兵器は今まで以上の殺意を発するように鉄柱を構えていた。

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