May Storm/Flay Scorn 2
しかし戦場は良くも悪くも状況を変え続けていく。
急造の普通車両にロケットランチャー等の兵器を無理矢理付けただけの戦闘車両が予想外の働きを見せ、それによって起きた混乱により私兵達にフレンドリーファイアを誘発させる事に成功した。
傭兵と違い、最高級のパワードスーツで守られた私兵達はその数を減らす事は余り無く、人数の多さ故に戦闘経験が足らず簡単にパニックを起こす。そしてそれはウィリアムの対私兵戦での常套手段であり、戦力と物資の数で劣っている元BIG-C防衛部隊とレジスタンス達には何よりも有効な手であった。
勝ち過ぎると言う事はないだろうが、もし撤退され企業の社屋に篭城などされてしまえば今度は社屋に侵入しているウィリアムの身が危ない。
だからローラはあえて暴徒と化した味方を制御せずただ怒りに任せて襲撃をしてるかのように見せ、なお且つ無視出来ない程度の戦力を展開したのだ。
そして元BIG-C防衛部隊やレジスタンス達の勝利条件は復讐の成就だが、ローレライにとっての勝利条件はウィリアムの復讐の成就と生還であり、他の者達の生還は含んではいない。
さあ、どう出る。
敵味方問わず、暴力を撒き散らす全てにローレライは胸中で問い掛ける。
このまま死に逝くか、打って出て英雄となるか。それはどちらにとっても有り得る可能性で、双方の希望であり絶望であった。
その時、地図を表示していた端末が音を立てて受信を告げ、ローレライはそれに応答した。
『アロースミス司令! 社屋の巨大なシャッターが開き始めました! 奴等まだ何かを隠していたんでしょうか!?』
「判明していない事柄を推察するには情報が足りませんわ。映像を送っていただいてもよろしくて?」
端末越しにローレライの要求に防衛部隊の若者が端末のカメラ機能を使う事によって応える。
口ではまだ何も分かっていないと言ってはいるが、未確認のソレを戦況を引っ繰り返さんと企業の数ある内の1枚の切り札だとローレライは理解していた。
愛しき復讐者との逢瀬を待ち望んでいた敵対者が、煩わしい自分達を放っておく理由はないのだから。
巨大なシャッターが音を立ててゆっくりと開いていき、やがてその全貌を顕わにした。
鉄色の装甲を身に纏った人型の胴体のようなソレを無理矢理キャタピラに組み込んだ機動兵器というには余りも無骨なソレ。コロニーCrossingで視認したあの赤い機動兵器のような流麗さもなければ、量産期と思われた同じくコロニーCrossingで視認した対人用機動兵器のようなアンバランスな気味悪さもなくただ無骨。
同じ機動兵器よりも装甲車に近いようなそのルックスの機動兵器のマシンアイにオレンジの光が点り、まだ明けぬ夜闇を切り裂く。
「全部隊に告げます、敵未確認機動兵器が出現。重装甲高火力型のものと思われまず。敵未確認機動兵器の移動手段はキャタピラで高速移動は不可能かと。ですので無理に交戦せず、足止めに――」
ローレライの指示を掻き消すかのように鉄色の機動兵器の人間で言えば腕の部分に当たる大口径の粒子砲は、何の躊躇いも無いかのように眩い閃光を吐き出す。その超高熱の殺意は、暴徒と化した元BIG-C防衛部隊と自らの味方である私兵部隊の人間達ごとコロニーの建物を吹き飛ばした。
「全部隊に繰り返します、敵未確認機動兵器が出現。重装甲高火力型のものと思われまず。敵未確認機動兵器の移動手段はキャタピラで高速移動は不可能かと思われますので、無理に交戦せず指定したポイントまでの撤退に集中なさって下さい。策さえ噛み合えば勝てない訳ではありません。策は随時お知らせ致します。皆様方のご健闘を」
無責任とも言える指示を出してからローレライは口角を上げて戦場という場にはそぐわない、恍惚とした妖艶な微笑を浮かべる。
相手も自分と同じなのだ。
自ら定めた勝利条件の為には手段を選ばない。その結果、何かを犠牲にするとしても。
大儀も結果も手に入れる事が出来るのは勝利者のみ。そして自らが最高の参謀であり、ウィリアムの傍らに自らが居る事を邪魔する存在を許す訳にはいかない。
ローレライは改めて地図をコールし、小隊ごとにマーカーを付けて各小隊長にそれを送る。
おそらくあの機動兵器の装甲では歩兵の扱う徹甲弾はもはや役に立たず、そしてレジスタンスの戦闘車両に応援要請を出す事も出来ない上でローレライ達、元BIG-C防衛部隊はあの機動兵器の相手を引き受けなければならない。
だが負けるわけにはいかず、負ける理由もない。
相手がそうであるように、そしてそれ以上に、ローレライは緑色の瞳をもつ復讐者に焦がれているのだから。
彼と共に在り続けるために踏破する茨の道としては、その試練はあまりにも容易すぎた。
あの装甲とあの粒子砲は歩兵でなくても脅威となりえるが、同時にそれだけでしかない。
ローレライはただ駒を進めるだけだ。
1つの狂いも許されない数式のように、それでいて答えに辿り着くのが必然であるように。
行うのはただ1つ、自分が思い描く勝利に向けて駒を進める事だけ。




