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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
57/190

Hunting High And Low/Shunting Die And Grow 6

「期待し過ぎだっての」


 毒づきながらウィリアムは乗り慣れたバイクよりは多少小さいバイクのシートに跨り、アクセルを回しバイクを走らせる。


 ふと、ウィリアムの思考は"いつから自分は見張られていたのだろうか"という点に戻る。

 コロニーCrossingへ向かう途中に出会った奇形生物達は、BIG-C撤退戦で機動兵器に搭載されていたトランスミッターと同じ働きをしていたと考えられる。奇形生物はCrossingへの襲撃のタイミングを、機動兵器に搭載されていたトランスミッターは空爆のタイミングを決定付けるための。


 そこから導き出される答えは、ウィリアムは勝てる勝負で泳がされ、その上で手の内を知られたという事。それが事実であればバイクが用意されていた理由も説明がつくだろう。


 ウィリアム1人の為にどれだけの資金が動いたか考えると眉唾な話と思えるが、最悪なコンディションで機動兵器破壊できたという事実は逃げ遂せた人間達を殺す為だけに出兵したという事実よりも説得力があった。


 しかしあの赤い機動兵器のようにあからさまなワンオフ機が、データ取りの為だけに使われるのだろうか。

 人という労働力こそ有り余っているもののその他の資源や技術は安いと言えるものではない。その貴重さ故にどんなに優秀な兵器があろうと戦場の主役は未だに歩兵であり、あの赤い機動兵器のように貴重なワンオフ機がデータ取りの為に使われるとは思い難く、ウィリアムには検討もつかなかったが別の目的があるように思えた。


 時間と金と貴重なワンオフ機やそれを扱える貴重な人材、それらを使ってでもウィリアムをここまで誘き寄せる目的。


 きっとろくなものではないが、知った事でもない。


 ウィリアムは肩を竦める。

 たとえウィリアムが目的を達成しようが、ここで息絶えようが、それを外に居るローレライ達に伝える手段はない。

 その後の予定から言えばウィリアムにとっては都合が良いがもしウィリアムが死亡した場合、撤退のタイミングは予定とは変わり、中の状況を知らないローレライやレジスタンスリーダー達の判断に任す事となるだけが気掛かりだった。


「今更何言ってんだか」


 声にならない程の声でウィリアムは自嘲するように呟く。


 あれだけ守ると口にしてたローレライを復讐の足掛かりとして利用している自分、そんな自分がローレライを気に掛けるなど自分勝手すぎる。


 何より、アドルフが今の自分を見たらきっと許しはしないだろう。

 防衛戦力としても、ウィリアム・レッドフィールドとしても期待ハズレだった薄汚い孤児。それがついに人まで利用するようになったとなれば失望どころの話ではない。


 一筋の白が混じる黒髪が風になびくのを視界の端に捉えながら、ウィリアムは正面に入り口のフレームが発光しているフロアへと突入する。幸いにも社屋内に厳戒態勢が取られている様子はなく、ウィリアムも外の部隊も発見されていない、あるいは脅威とされていないという事なのだろう。


 その先にはバイクと左目を使わなければならない状況が待ち構えているだろう。

 ウィリアムは真新しいライダースジャケットのパワーアシストをアクティブにして、肩に提げていたアンチマテリアルライフルを手に取る。

 最初こそ企業私兵のパワードスーツを強奪する算段もあったが、奪うには私兵を殺す必要があり、私兵を殺すにはパワードスーツを破壊しなければならないため計画は実行される前に頓挫した。


 つまりウィリアムに残されたアドバンテージは左目だけと言う事になる。

 もし白く退色した髪を脳への負担とするのなら、その左目は文字通りウィリアムの命を削り続けるだろう。

 それでも復讐者を迎え入れた敵対者達はウィリアムが舞台を途中で降りるのを許さず、復讐者としての役を押し付けられたウィリアムもまた逃げ出すことも出来ない。


 戦う事でしかローレライに報いる事が出来ず、戦う事でしか答えに辿り着く事は出来ないのだから。

 そして通路を抜けたウィリアムが辿り着いたのは、ランダムな壁が並ぶコロッセオ状の巨大で真っ白な空間だった。


「なるほど、そういう事か」


 コロッセオ中央に立つ巨大な存在にウィリアムは口角を歪める。

 角ばった白銀の装甲を纏う巨体、光を失ったバイザーアイ、合金製の両手にそれぞれ持たれた柱のような鉄塊とライフル。

 それが機動兵器だという事も、その存在が異様なものである事も、自分がなぜここまで招き入れられたのかも理解は出来た。

 キャタピラ型の脚部、あるいは6本足でしか自重を支える事が出来ない機動兵器。


 だが、そこに居たのは2本の足で直立不動となっている見たこともない機動兵器だったのだ。


 ようやく全容が見えてきたように思えたウィリアムは、後輪を滑らせるようにしてバイクを止める。歪められていた口は我慢できないとばかりに笑いをこぼし始める。


 BIG-C襲撃と奇形生物は痺れを切らした敵対者の宣戦布告。

 赤い機動兵器の女は左目と復讐者を呼び覚ますための切欠。

 そしてウィリアムがここまで招き入れられたのは、新型の機動兵器の起動試験のため。


 機動兵器はおろか、歩兵が持つ銃器から車両の何から何までを読み取る最強の切り札を持つ復讐者、それは試験相手にはうってつけの相手だろう。


 だからこそ、ウィリアムはその存在を許すわけにはいかない。

 アドルフが死んだのは、ローレライが家族を喪ったのは、このシナリオを描いた誰かのせいなのだから。


「お前等が俺の事情を知らないように、俺もお前等の事情なんか知らない。だから精々お互いの気の済むようにやればいい。ただ――」


 ウィリアムが灰色の布を引き千切り、露わになった緑色の瞳に応えるように、機動兵器のブルーのバイザーアイに光が点る。


「――俺を、返してもらおうか」


 緑色の瞳は似て非なる緑色の瞳を睨みつけていた。

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