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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
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Hunting High And Low/Shunting Die And Grow 5

 月光とも日光ともつかないささやかな光を遥か背後に、ウィリアムは侵攻を開始していた。

 ガスを避けるためにガスマスクを被ったウィリアムが進んでいるのは下水道。洞窟のように横に空けられた入り口から侵入し、ヘドロのような汚水が流れる排水路に沿うように作られたキャットウォーク。


 ウィリアムが歩く度にアンチマテリアルライフルが提げるスリングはカチカチと音を立て、コンバットブーツの分厚いソールはキャットウォークを叩いて硬質な音を立てる。

 梯子を使う侵入経路を使用するためバイクはローレライに預けており、ウィリアムは行きも帰りも徒歩での行軍となっていた。


 もっとも、ウィリアムが生きて帰れるかは誰にも分からないのだが。


 何かに気付いたようにウィリアムは眉を顰め、タクティカルグローブを纏う右手で壁をまさぐり、目的のものを見つける。

 ようやく上への入り口を見つけたウィリアムは即座に端末を取り出して、コールした地図データと現在地を照らし合わせる。焦って目的以外の場所に出てしまえば、予想外の敵対者に見つかってしまう可能性が高い。


 遠く離れた荒野でコロニーGlaswegian(グラスヴィージャン)を包囲するように伏せているローレライ達の安全を思えばこそ、ウィリアムは迂闊な事は出来ないのだ。


「……正解、と。あとは上手くやりますか」


 座標が合っている事を確認したウィリアムはジャミングを掻い潜り、かろうじて繋がったシークレットチャンネルでローレライに合図を送信してデニムのポケットに端末を滑り込ませる。


 ここから先は最新にして最強の機動兵器を生み出した企業本拠地、紛れもない地獄。果たさなければならない目的があるウィリアムには他の事に構っていられる余裕はもうない。

 何度か梯子を踏みつけて腐食していない事を確認したウィリアムはゆっくりと梯子を上り始める。


 適度な緊張感を保った体からは嘆息が漏れ出し、嘆息はガスマスクのフィルターを通して霧散していく。

 迫る頭上のハッチの向こうに敵が待ち構えているかもしれない、リアリティのあるその発想が脳裏をよぎるのだから無理もないだろう。


 数段上がって手が届いたハッチのハンドルを掴み、ウィリアムはゆっくりとハッチを開いていく。水流の音に消えているはずの金属の擦過音がウィリアムの平常心を刺激し、神経をゆっくりとすり減らしていく。


 やがて漏れ出した光に目を細めながらウィリアムはハッチの向こうの様子を窺うも、敵はおろか何かが動く様子すらない。

 即座にハッチの向こうへと飛び出したウィリアムは、急いでハッチを閉めて手近な柱の影へと姿を隠す。


 BIG-Cとは違う選民思想を持つ企業の人間達の思想から予想はしていたが、排水施設に寄り付く人間は企業内には居ない。清掃ですら外部からの労働者を雇って行っている。そうでなければ企業社屋の地図データが外部に流出する訳がないのだから。


 なぜそんな無意味な事をするかと言えば、それは一重に企業の好戦的な側面にあるとウィリアムは仮定していた。

 新しい兵器を作る度にあらゆるコロニーを襲撃しては記憶(ショウヒン)の在庫が尽きてしまう。だからこそ、迎え入れる事でテスト相手と記憶を同時に手に入れられるようにしたのではないか、と。


 つまり侵入に無事成功したが、今この状況は企業が作り出したものである。ウィリアムはそう確信していた。

 それを裏付けるように、カードキーと黒いボディのバイクが置いてあるのだから。


「どこまで知ってやがんだ」


 ウィリアムは舌打ちをしつつ拾い上げたカードキーを、バイクのキーの部分に設置されたカードリーダーに差し込む。

 装備にバイクが加わったのはつい最近の話。それこそ、BIG-Cの撤退戦から。


 だというのに企業はウィリアムの装備を正確に把握した上で、バイクを用意していた。罠である可能性も高いが、それ以上にウィリアムの居場所を把握するための首輪でもあるのだろう。

 そんなウィリアムの懸念を余所に息を吹き込まれたバイクは鋼鉄の産声を上げ、流麗なデザインのボディにシアングリーンのラインを浮かび上がらせた。


 しかしこれは同時にチャンスでもある、とウィリアムはガスマスクを外してバイクのシートに跨る。


 復讐者(アヴェンジャー)という存在を理解した上で招いているという事は相手の注意がウィリアムに向けられていると言う事でもあり、それはローレライ達の存在の隠蔽に繋がるのだから。

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