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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
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Raedy To Flame/Heady To Blame 5

 新調したガンホルダー、あらゆる銃器の弾丸、ハンドグレネード、バイクのメンテナンスの明細、ガスマスク、2人分のパワーアシスト機構が付属した衣服とボディアーマー。


 リンチを受けた事を受けて居住区として貸し与えられた車両のテーブルにそれらを並べていたウィリアムは、あくびを噛み殺しながら安っぽいシートに背を預ける。

 家族を養うためにしていた貯蓄は未だその余裕を見せている。不幸ではないが甲とは言い難いその数字から意識を逸らすように、ウィリアムはコロニーOdeon(オデオン)までの旅路に思いを馳せる。


 荒れ果てた大地、干上がった運河、汚染されつくした海。それらを行く旅は決して楽なものではなく、纏わりつく危険はどれもが致命的なものだった。


 しかし復讐者(アヴェンジャー)という役柄を押し付けられ、企業に狙われる可能性を恐れたウィリアムには企業の力が及ばないコロニーへ向かう以外の選択肢はなかった。

 現にバイク狙いの野盗と費用の割には乗り心地の悪い船舶にウィリアムの体は倦怠感を訴えており、可能な限り戦闘を避けられたのは行幸以外の何物でもないのだから。


 洩らした嘆息を吹き飛ばすように穢れた風が社内に吹き込み、気付かない間に白が混じった黒髪が揺れる。

 ウィリアムが風の行方を追うように視線を扉へと向けると、そこには嬉しそうに微笑むローレライが居た。


「おかえりなさいませウィリアムさん、いつお戻りに?」

「ただいま、ついさっきだよ」


 さりげなく銃器の類を遠ざけるウィリアムは、パタパタと駆け寄ってくるローレライの抱擁を受け入れる。

 再生された記憶の中で感じていた嫌悪感とは程遠い、忌避感すら沸かない柔らかな温もり。 体を売って生きていた頃には感じられなかったそれと共に、ウィリアムは胸中に安堵が広がっていくのを確かに感じていた。


 煌びやかな金髪、透き通るような碧眼、それらに彩られた美しい容姿に負けぬほどに優秀で高潔な精神。

 優美なルックスと優秀な頭脳、つまりは高い資産価値をを併せ持つローレライに安全地帯など存在はしない。それはウィリアムの傍らであってもだ。


 どうしようもない、とウィリアムは苦笑を噛み殺す。

 胸中に湧いている安堵と庇護欲。それがアドルフ・レッドフィールドの物なのか、ウィリアム・ロスチャイルドのものなのか。ウィリアムには分からなかった。


「お加減はいかがでして?」

「ちょっと疲れただけだよ、なんの心配も要らない」


 労わるように華奢な指先で撫でられた左目にウィリアムは肩を竦める。

 安くはない灰色がかった黒い瞳、灰色の布に覆い隠した未だ謎の多い緑瞳の左目(グリーンアイ)

 おそらくその義眼は使う度にウィリアムの体に重い負担を強いり、その命を削り続けるだろう。

 だが使わない訳にはいかない切り札(ワイルドカード)でもあるのは事実だ。

 全てにおいて負けているBIG-C陣営が勝つには、何もかもを利用する必要があるのだから。


「頼まれていた君の服を買って来た。一応確認してくれないか?」

「分かりましたわ。しかし、服のサイズを聞かずに書き起こさせたデータを店員だけに見せるなんてどこで覚えましたの?」


 体をやや無理矢理引き剥がされた事にローレライは不満そうに口を尖らせながらも、気になっていた事を問い掛けながら差し出された袋を受け取る。

 服というには重く、鎧というにはやわらかい戦闘服。

 時間がなかったために既製品で済ます事になってしまったが、ウィリアムのポケットマネーで購入したそれは紛れもなく一級品だった。


「そういうのに厳しい一家が居たのさ」

「きっと素敵なご一家なのでしょうね。きっとそこのご令嬢は聡明な絶世の美女ですわ」


 そう言って車両の奥へと消えて行く背を見送りながら、ウィリアムは返す言葉もない事実に肩を竦める。

 無邪気で清廉であると同時に、心を犯していくような蠱惑的な魅力。

 あの夜、透き通るような碧眼はウィリアムの目を捕えて離させず、語る言葉は鈴のような音を解して心を掴んでいた。


 もしもあの夜の全てが計算であれば、ローレライはどの観点から見ても優秀だろう。

 しかしやがて聞こえてきた衣擦れの音がそれを否定し、信頼か考え足らずなのか理解しかねるローレライの行動にウィリアムは嘆息する。

 少なくともこの事がローズマリーに知られる事となれば、ウィリアムは無傷無事では帰れないだろう。


 アロースミスの女傑に逆らってはいけない。ウィリアム・ロスチャイルドの記憶がそう強く訴えているのだ。

 疑う事を知らなかったチャールズを支え続けてきたのは、紛れもなくアロースミスの女達なのだから。


「いかがでしょう、パンツスタイルなんて久々でしてよ」


 そう言って車両の奥から姿を現したローレライにウィリアムは思わず目を奪われてしまう。

 白を基調にした配色のナポレオンジャケットとジョッパーパンツ、一目で質の良さを理解させてくる黒いフリルシャツとブーツ。細身に作られたそれらはローレライの均整の取れた美しいシルエットを露わにしていた。


「よく似合っているよ。ブーツとシャツは自分で用意したのかい?」

「ええ、ジャケットスタイルになるとお聞きしてましたので」


 当然のように隣に腰を下ろしてもたれかかってくるローレライの言葉に、平静を装っていたウィリアムは訝しげに眉を顰める。

 確かに、ジャケットスタイルになるというのはキャラバンを出る前に告げていた。

 しかしローレライが用意していたシャツとブーツが、何故ウィリアムの居住区であるこの車内に置かれているのか。


 着替えに行ったきりそれらを取りに行った様子はなかったローレライ、導かれる答えは1つだった。

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