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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
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Raedy To Flame/Heady To Blame 4

「待て、我々に敵から逃げろと言うのか?」

「ええ、目的は陽動である以上、復讐派が望む企業の戦力の殲滅はおまけでしかありませんわ――ああ、心配なされなくても敵陣に乗り込む事になるので空爆のご心配はいりませんわ」


 怪訝そうに顔を歪めるポズウェルにローレライは付け加えた憶測で隠した事実を誤魔化す。


 実を言えば、ウィリアムが無事に企業社屋に侵入できる保障などない。

 だがそれでも、企業の持つ享楽的な嗜好は、赤い機動兵器乗りの女の言う通りウィリアムを歓迎するだろう。


 そうでなければCrossingでの惨劇は起きなかったのだから。


 その確信に辿り着いたローレライは今作戦を書き上げたのだ。ウィリアム・ロスチャイルドという最強の切り札を、何よりも愛しい殺意を最大限利用する作戦を。

 しかしポズウェルは苛立ちを隠そうともせず吐き捨てる。


「僕が言いたい事はそうじゃない。薄汚い傭兵風情の伴侶が理解できるとは思わないが、誇りを穢された僕達にまた逃げろというのか?」

「1度も2度も変りませんわ。作戦の説明など何度もする気はございませんの。それとも誇り高き騎士殿の頭蓋骨(ヘルメット)は言葉も通さぬほどに分厚くてらっしゃるのかしら?」

「2人共いい加減にしろ。アロースミス卿、殲滅でなければ武装が少なくていい訳ではない。不足分はどうするつもりだ?」

「まず敵本拠地に攻め込む以上機動兵器との戦闘は避けられませんわ。ですのでロケットランチャー、グレネードランチャー、迫撃砲等の高威力兵器が必要ですわね」


 心底面倒そうに割って入るルーサムの問い掛けに、ローレライは華奢な指を唇に当てながら答える。

 BIG-C陣営が敵対する企業の私兵戦力、それらの脅威はパワードスーツと機動兵器にある。

 それらを突破するには高火力の兵器が必要だが、BIG-Cの所有する戦闘車両だけでは心許ない。

 だからこそローレライはかき集めた高火力兵器を車両に設置する事で簡易的な戦闘車両を作り上げる事にした。


 いくら機動兵器が強力といっても、瞬間火力で装甲を突破する事は不可能ではないのだから。


「そして歩兵の装備を全ては揃えられませんので、徹甲弾を徹甲弾用の経費を支給していなかった部隊から優先的に支給しますわ」

「先の戦闘で使ってしまった部隊はどうすればいい?」

「出納ログを見てから決めさせていただきますわ。どうやら弾丸の経費を別に回した部隊もいらっしゃるみたいですの」


 そう言ってローレライは思わずシニカルな笑みを浮かべてしまう。

 かつてのウィリアムの武装に衝撃を受けたチャールズは、生前に防衛部隊に徹甲弾用の資金の支給を決定した。その出費は決して軽いとは言えないが、グレネードなどの代用と考えれば決して高くはなかった。

 しかし平和は尊いものであると同時に、危機感を蝕む病毒でもあった。

 最初はどの部隊も支給金で徹甲弾を購入していたが、一向に現れない敵に切らした痺れを誤魔化すようにその金は交際費などに消えていたのだ。


 娯楽など消え去ったこの時代にどう使ったのか。気になる事はいくつもあったが、1番の問題は平和という病毒に侵されたBIG-Cの人々にあるとローレライは考えていた。


 マコーリー卿やポズウェルがそうであったように、BIG-Cの人間達はやはり戦闘に大してとても楽観的過ぎ、その侮りが傭兵という戦闘のプロフェッショナルの侮蔑に繋がっている。

 それでは勝てる戦いも勝てる訳がなく、相手が企業の私兵となれば勝機は無に等しい。


「資金がそう多くない以上、そう言った部隊にはポケットマネーから負担していただきますわ。自ら望んだ戦闘なのですから当然ですわね。そして戦力の補充には付近のレジスタンスに協力を要請し、補充しますわ」

「とことん薄汚い男達が好みのようだな。しかし、僕達のように誇り高き者達と彼らと戦線を共にするなんて出来ると思うのか?」

「ええ、彼らの戦力には傭兵も含まれているはずでしてよ。戦闘のプロを資金を使わずに戦力に加えるにはこの方法しかありませんわ」


 つくづく低レベルなポズウェルの皮肉にローレライは肩を竦める。

 全てがそうという訳ではないが、略奪などによって資金を稼ぐ事が多いレジスタンスは護衛兼戦力として傭兵を長期で雇い入れる事が多い。レジスタンス兼野盗(バンディット)などというキャラバンも珍しくもない。

 数多くあるレジスタンスの中から有力候補を選ばなければならないが、これ以上身銭を切らないで済む方法はローレライには思いつかなかったのだ。


「もちろん通信の傍受や決行日の漏洩等を警戒する為に前もって使者を派遣し、シークレットチャンネルで逐次報告という形を取りますわ」

「アロースミス卿よ、それではレジスタンスの負担を掛ける事にならないか? 彼らにそこまでして我々と手を組むメリットがあるのか?」

「ええ、我々の保持している戦力を知ればその程度の負担は許容の範囲でしょう」

「……傭兵の小僧か」


 少ない情報から全てを察したルーサムは嘆息する。

 幾度も私兵集団との戦闘を単独で勝利し、コロニーへ侵攻した大隊の殲滅に大きく貢献し、重傷を負いながらも機動兵器2機を撃墜した傭兵。それがある一定の情報網を持つ者達の知るウィリアム・ロスチャイルドであった。


 聞かれない限り自らの名前を名乗らない。そんなウィリアムの人柄がここにきて功を奏した事にローレライは胸中で静かに安堵する。

 誤魔化しようはいくらでもあるが、アドルフ・レッドフィールドと名乗っていた事実を知られていると面倒ではあるのだから。


「それに戦力や資金に余裕が無いのはどこも同じですわ。乗って来ないとは考えられません」

「しかし所詮は流れ者、裏切らないとは限らないだろう?」


 自分のものにならないと分かれば態度を変え、他人を平気で侮辱し、挙句の果てに発言全てに噛み付いてくる。だがその半面で自身のの提示する穴だらけの作戦に興味を示し、意欲を見せる元許婚の。

 あまりにも歪すぎるポズウェルにローレライはどこか困ったように手を頬に添える。

 どれだけ言葉を尽くし、どれだけ時間を掛けたとしても理解を得るのは不可能だろう。


 そう考えたローレライは、諭すように立てた人差し指をポズウェルへと突き出した。


「その疑惑ですらお互い様である以上、連携を取って戦闘する事も難しいかと。ですので、お互いの邪魔にならないような布陣を敷きます。たとえ裏切られたとしても迎撃も撤退もし易い場所に。現在、地図データを入手中ですので後日皆様に転送いたしますわ」

「そちらは分かった。ならあの傭兵はどうするつもりだ? 認めたくはないがアレに裏切られてしまえば我々など一網打尽だろう?」

「あの方は誰よりも遠くて誰よりも危険な場所の布陣となりますわ。撤退すら困難でしょう」

「……随分な事を言うじゃないか? あいつが死んでもまだ他に男が居るのか?」

「あら、相変わらずご聡明でらっしゃって。ポズウェル卿の明晰な頭脳にはあらゆる策士が舌を巻く事でしょう」

「……皮肉はいい。さっさと応えてもらおうか」


 裏切らなければ裏切らない、それがウィリアムの唯一の傭兵としてのルール。だがウィリアムを知らない人間からすれば信じ難いルールだろう。

 しかし逆を言ってしまえばそれを知っている人間からすればポズウェルの疑問は滑稽なものである。それがローレライなら尚更だ。


「あの方は絶対に負けませんし、そして裏切りませんわ。たとえ何があっても」


 そう言い切ったローレライは愛しげにの胸元の煌めきに指を這わす。

 白魚のように華奢で細い指の狭間、真っ白なシャツの胸元では見覚えのある金のフレアのエンブレムが誇らしげに輝いていた。

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