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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
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Raedy To Flame/Heady To Blame 2

「しかし、戦う事で得られる物がないのも事実のはずです」

「逃げるだけで安寧が得られると思うのであれば、それは度し難い愚考ですわ。我々は外の世界を知らなかっただけで世界は戦いを繰り返していましてよ。我々はそれから目を逸らして都合のいいものだけ見ていただけに過ぎませんの」


 ウィリアムが守り抜いた移民達と違い、BIG-Cには少なくは無い財産があった。それによる庇護を求めて人々は集まり、壊滅させるには手間が掛かる存在として今までは見過ごされてきた。だが、全てを失ってしまった以上この世界の、入った郷の掟に従わずに生きていくのは不可能だろう。

 戦わずには生き残れない。ウィリアムが生きる為に傭兵になったように、アドルフが金の為に防衛部隊に入ったように。この時代において戦う理由というのは限りなくシンプルだった。


「戦う力を持たぬ者達の事を考えれば、我々が露払いを引き受ける他ありませんわね」

「その者達を思えばこそ、逃げて逃げて逃げ延びるのが得策なのでは!?」

「もはや我々に皆を庇護し続ける力などなくてよ。皆を遠くへ逃がす為の陽動にしろ、相手に痛手を負わせて牽制するにしろ戦いはもう避けられませんわ」


 風向きが悪くなったのを感じたのか、思わず声を張り上げるモーランにローレライは肩を竦める。

 なんと言われようと、これだけがウィリアムの支援と戦略指令でである事の義務を果たす唯一の方法なのだ。

 しかしモーランは納得がいかないとばかりにテーブルを殴りつける。


「なんと無責任な! チャールズ氏が知ればなんと仰られ――」

「その父が追撃により亡くなりましたの! 他の皆をそのような目に遭わせぬ様にするには戦える者が戦うしかない事くらい分からなくて!?」


 モーランの言葉を遮り、ローレライは抑えきれない感情と共に言葉を叩きつける。

 不躾に踏み込まれた上に癒えぬ傷を抉られた。

 無責任でデリカシーのないその態度に、父を失ったばかりのローレライが怒らない理由がなかった。

 ルーサムを含め、皆の驚愕に歪む表情を順に見渡してから、ローレライ心を落ち着けるように深呼吸をする。


 父は死に、悲しい事に自分の考えを理解出来る人物は母と傭兵しか居ない。

 ウィリアムとの約束を果たし、父の無念を晴らさなければならないローレライに、立ち止まることは許されないのだ。


「ポズウェル卿の言い分が気に入らないのも確かですが事実は覆りませんわ。物資が足りない、戦力も足りない、意思すら統一出来ない。ここらが潮時と言う事ですわね」

「何をおっしゃりたいんですか?」

「対立する両者を纏めようとするから無理が生じるんですわ。先ほども申し上げましたが、ここからは別々に生きるしかないかと」

「わ、我々を見捨てるというのですか!?」


 モーランは怪訝そうに歪めていた顔を一気に青褪めさせていく。

 穏健派に戦闘員が居るのは事実だが、それ以上に復讐派に戦力を取られているのも事実。

 BIG-Cの戦力分散は誰にとっても致命的のはずなのだ。


「重ねて申し上げますが、我々が人々のための梅雨払いとなりましてよ。モーラン卿率いるキャラバンの脱出支援、および企業に対する軍事攻撃を行うと言う事ですわ」

「そんな、本気ですか!? 企業と戦うなど正気とは思えない!?」

「遊びでこんな事は言いませんわ。わたくしは参謀として正しく事態を掌握し、勝利に辿り着く道を作っているつもりですの――だからこそ皆様には選んでいただかなければなりませんの。戦うか逃げるか、どちらを選んでも糾弾はさせませんわ」


 あくまで冷静に、あくまで尊大に。ローレライは逃げることだけは許さないとばかりに透き通るような碧眼で、モーランの灰色混じりの双眸を見つめる。

 戦場の恐怖を知っているからこそ及び腰の姿勢は仕方ないとは思う。だが命を張るのが自分たちである以上、中途半端な立場に居られては困るのだ。

 穏健、再興派が逃げるのであれば戦う意思のなさを粉飾でき、復讐派が戦う覚悟を決めるのであれば穏健派から目を逸らさせる事が出来る。


 お互いにとってマイナスにならない提案をした以上、ローレライにしてやれる事はもうない。


 そしてモーランは覚悟を決めたようにゆっくりと口を開いた。


「……どうやら、もう分かり合う事は出来ないようですね」

「当たり前だよ。誇りを持たぬ者と誇り高き僕達が分かり合える可能性など――」

「お黙りなさい、この考え足らずの日和見主義(オポチュニスト)が」


 吐き捨てるようなローレライの言葉に、ポズウェルは遮られた嘲りの言葉を余所に黙り込んでしまう。

 その声色は冷たいものであり、戦う事は決めたもののポズウェルの側につく気はない事を現すようだった。


「モーラン卿、脱出の日時が決まり次第教えていただけまして?」

「もちろんだ、支援に感謝する」


 約束通り糾弾を退けたローレライに、モーランは皮肉げに口角を歪めて立ち上がる。

 脱出決行まで日時がある以上、素早く動いて戦力を増強しなければならない。

 戦わずとも一緒に生きられる道を探そう。あくまで人道的な誘いを遮る事は誰にも出来ず、戦力強化は逃げる人々の生存率を著しく向上させるのだから。


「良かったのか、チャールズの娘よ」

「ええ、想定内ですわ。誰もがアロースミスのように自衛手段を持っていない以上、モーラン卿のお力添えは必須でしてよ」


 去っていくモーランの背を横目にルーサムは静かに問い掛け、ローレライは当然のように肯定する。

 戦力が減るのは悩ましい事なのは事実だが、戦う意思もない兵士は陣営の瓦解の原因になりかねず、復讐派の人々の家族を守る存在も必要なのだ。

 どれだけ自分の判断が正気を疑われるものだとしても、上に立ってしまったローレライに浅慮な判断は許されない。


 高貴なる者の義務(ノブレスオブリージュ)


 それが父を追い詰め殺したのだとしても、ローレライはその先の答えに辿り着かなければならないのだ。

 ただの女では傷ついた傭兵の隣に並び立つ事は出来ず、生き様を切り捨てるにはローレライは何も知らなさ過ぎる。


「いさぎが良くなったものだ、これも傭兵の小僧の影響か?」

「戦うだけなら誰でも出来ますが、勝利するというのはとても困難。それが企業ならなおさら。わたくしは負けたくないんですの」


 そうか、とルーサムはどこか満足げに吐息をつく。

 その言葉には復讐派の衝動から生まれた言葉とは違う、先を見据えているような覚悟を感じさせるものがあった。

 親友が死に、その娘に重責を背負わせてしまった。

 その事に責任を感じていたルーサムは安堵すると共に、杞憂とさせてくれた傭兵に含み笑いを落とす。


 良くも悪くも、相変わらず狡賢い小僧だ、と。



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