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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
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Raedy To Flame/Heady To Blame 1

 大型車両の1室に儲けられた司令部、それぞれの思惑を抱く4人の人間が居た。


 1人は復讐の強行を強く訴える復讐派のキンバリー・ポズウェル。

 1人は全員での安住の地を探すべきだと訴える穏健、再興派のバップ・モーラン。

 1人は黙して語らぬ完全な中立派のトニー・ルーサム。

 そして最後に、様子見に徹する戦略指令であるローレライ・アロースミス。


 ローレライを除く誰もがBIG-Cでは力を持っていた有力者であり、その力関係をあらわすように話し合いは難航を極めていた。


「有機プラントを失い、資産も時期に底を尽きる。だというのに何故無意味な復讐などに興じなければならない?」

「戦わずして逃げるか、土いじりしか出来ない君の考えは理解しがたいね」


 モーランはポズウェルの嘲笑混じりの返答に眉を顰めるも、苛立ちを誤魔化すように嘆息する。

 穏健派を気取る自分がけんか腰になっては元も子もないのだから。


「……質問に答えてもらおうか。人々を苦しめてでも果たさなければならない復讐、それにどんな意味があるのかをね」

「誇りと共に生きてきた我々が誇りを穢された、戦うには十分な理由だよ。それに収入源を失ってなお裕福だった頃と同じ暮らしを続けていれば資産が尽きるのは当然だろう?」


 予想をしていた解答を遥かに下回るポズウェルの言葉に、本人を除いた全員が深いため息をつく。もっとも、そのあきれの行き先はポズウェルだけではないのだが。


「ローラ、君からもこの日和見主義(オポチュニスト)に言ってやってくれないか。誇り高き我々が逃げる事など許されないのだと」

「ミスター・ポズウェル、あなたの1人よがりな考えにわたくしを巻き込まないでくださいまし」


 やれやれと首を横に振りながらローレライは毒づく。

 言うまでもなく、ポズウェルも日和見主義(オポチュニスト)の1人なのだから。


「ですが、このまま逃げ続けたとしても限界が近いのは事実ですわね」

「それは防衛部隊の怠慢だろう?」

「そういう見方が出来るのも事実ですが、戦う為の物資がないのも事実でしてよ。戦うというのであれば、守れというのであれば誰かが身銭を切って出資すべき。そうは考えませんでしたの?」


 痛いところを突かれたのか、言葉を失ってしまうモーランにローレライは改めてBIG-Cの了見の狭さを実感させられてしまう。

 収入源を失った以上私財を誰かの為に使うのを惜しみ、負けたままでは貴族は人々から尊敬されない。

 ウィリアムのやろうとしている事の支援が何よりも優先すべき事ではあるが、それも決めた後何も考えずに居た訳ではない。しかしこの2人の話はとても考えられた発言とは、ローレライには思えなかったのだ。


 それが今までまかり通ってしまっていたのはルーサムの言っていた通り首脳陣の怠慢でしかない。

 自らの父を貶したくは無いが、ローレライはソレについても実感させられ、何より若き小隊長を、自らの許婚だった男を見るとその矮小さにローレライは頭を抱えたくなるのを我慢した。


 当時のポズウェル家はアロースミス家と並ぶ程の力を持ち、コロニーの力を収束させるという事はその両家が手を組む事と同意義であった。不安定な情勢の中裕福なだけのコロニー内の平穏を保つためにその婚姻が結ばれるのは時間の問題と思われていた。

 しかしそこで大きな誤算が起こる。


 アロースミス家とその傘下の有力者達が傭兵を雇い入れたのだ。


 ポズウェル家や陰謀の渦中の者達以外は戦闘のプロであるその薄汚い男を暖かく迎え入れ、そしてローレライを始め子供達は外から来た男に夢中になっていた。

 その男はポズウェルからすれば野蛮で無教養で家柄も何も無い有象無象のクズでしかなかった。

 それ故それを知ったポズウェルは面白くないと感じていた反面、自分の中では決定事項である事への影響はないと切り捨てていた。ポズウェル自身、将来は父の後を継ぎ防衛部隊の大隊長になる予定だったので遊んでいる暇も無かった。薄汚い傭兵風情の力を借りずともコロニーを守り通せる事を自らの力で証明しなければならないとポズウェルは考えていた。


 そして事態は企業の私兵集団による襲撃で大きく動く。

 大隊長である父は装甲車2台工面し、自らの役割を果たしたがその装甲車は他の部隊から無理矢理融通させたものだったのだ。

 その事からアロースミス以外の有力者に攻め立てられたポズウェルの父は立場を追われてしまう。チャールズは自分の意思で装甲車を貸し与えたと強く訴えたが、結論が変わる事はなかった。

 結果を出せなかったどころか、傭兵を雇い入れたチャールズを追い詰めたポズウェルは人々にとって邪魔な存在へと変わっていたのだ。

 それをアロースミスとBIG-Cの裏切りと感じたポズウェルはコロニーが疲弊した現在、傭兵という不穏分子がコロニー内に居る事の危険性を強く訴えた。

 錯乱したとしか思えないポズウェルの言葉にチャールズは面食らうも、コロニーの有力者達はそうは捉えなかった。

 企業のオルタナティヴ戦力を単独で殺したウィリアムは、弱い人々にはあまりにも刺激が強すぎたのだ。


 その結果としてウィリアム・ロスチャイルドはアロースミス傘下にありながらポズウェルの影響力の中にいる男により金を渡されてコロニーを追われた。

 傭兵が追い出された後にローレライ・アロースミスは参謀としての教育を受け始める。

 ポズウェルはそれを薄汚い傭兵風情に頼るのではなく誇り高い我々で解決をしよう、とローレライが考えていると確信し事ある毎にそれを賞賛した。許婚の価値は自分の価値であり、没落してしまったポズウェルの家督を甦らせるには都合が良いと感じていたのだ。


 そしてある日ポズウェルはあの薄汚い傭兵の男を追い出したのは父で、常日頃から追い出すべきだと父に進言していたのは自分だとローレライに打ち明けた。


 BIG-Cには薄汚い傭兵など不要であり、品位を落とすその存在を追い出した功績は賞賛されるものだ。

 しかしポズウェルに与えられたのは賞賛ではなく、美しく可憐な許婚の平手だった。

 宝石のような青い瞳の目は涙を湛え、振りぬかれた手は怒りと悲しみから震えていた。


 ポズウェルは許婚の不義理な行動に怒ると同時に困惑していた。 

 ポズウェルにとってウィリアムをBIG-Cから追い出すというのは、不穏分子から人々を守る事と同義だったのだから。

 その事が切欠となり、チャールズはローレライの婚約を破棄し、ついに親友にまで見捨てられたポズウェル卿はその後家督を息子に譲渡し、第一線から退いた。


 尊敬していた父は立場を追われ、利用しようとしていたポズウェル家の権力は失われた。


 もはや何の役にも立たない家督を継いだポズウェルを立ち上がらせたのは許婚の麗しい少女への執念とあの忌々しい傭兵への憎悪だった。

 その感情はポズウェルを小隊長までの道を驚異的な速度で進ませた。ある時は上司を陥れ、ある時はライバルを消した。家督という首輪を失ったポズウェルは手段を選ぶ事をやめたのだ。

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