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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
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Down To Loneliness/Drown To Holiness 2

 アサルトライフルを振り上げる防衛部隊の男と、いたる所から血を流しながら目を閉じているウィリアム。

 そして再度振り下ろされそうになるアサルトライフルに、ローレライはその現場を囲んでいる男達を掻き分けてその最中へと飛び込んで行く。


「何をしていますの!?」


 ローレライは迷う事なく防衛部隊の男を突き飛ばし、ウィリアムを庇うように立ちはだかる。

 企業ではなく、BIG-Cの味方にウィリアムが狙われた。

 その事実を認めたくはない。

 しかし現にウィリアムは血を流して、地面にその身を横たえていた。


「黙れよ、裏切り者が! 俺達を置いてさっさと脱出したくせによ!」


 予想だにしない防衛部隊の男の言葉に、ローレライは驚愕から目を見開いてしまう。

 確かに結果的にローレライ達は最初に脱出したかもしれないが、脱出を前提にしていた作戦である事は最初に告げていたはずなのだ。


「そんな、撤退勧告は――」

「撤退勧告だけしてりゃ全員置いて逃げてもいいってのかよ!? 車両のほとんどは非戦闘員を逃がすのに使っちまって、俺達は負傷した仲間を見捨てさせられたんだぞ!?」


 怒鳴りつけれた言葉にローレライは、その美しい顔を悲痛そうに歪める。

 仲間が死んだ悲しみは理解出来る。

 その悲しみの捌け口を求めていたのも理解出来る。

 だがBIG-Cの人々を2度に渡って救ったウィリアムを、平然と傷付けるその意味が分からない。


 それと同時に理解させられてしまったのだ。


 父が命を懸けて、母が心をすり減らしながら守った人々。

 その人々がコロニーの英雄であるウィリアムを傷付けたのだ、と。


 ローレライは胸に広がる悲しみと失望を押し殺しながら、膝立ちになってウィリアムの傍らへと寄り添う。

 傷痕に覆われた左目、青褪めた顔、白が混じる黒髪。

 豊かなコロニーで暮らしていた防衛部隊の男達と違い、未発達なまま成長を止めてしまった体。

 戦場でただ1人で生きるために強く在り続けた、歪で希薄な存在。

 だがその手は振り上げたローレライを手を受け止めることはせず、ただローレライを受け入れてくれた。


「……許しは請いませんわ。それでも、彼を傷付ける事だけは何があっても許せなくてよ」


 そう言いながらローレライが手に取ったのは、ウィリアムのガンホルダーから取り出したハンドキャノンだった。

 重量約6キロの合金製の殺意。

 ローレライの華奢な腕はその重量と、圧倒的な恐怖に震えだす。

 銃など使った事はない。安全装置の外し方でさえ、ウィリアムのやっているのを見て覚えただけ。


 それでもローレライには退く事は出来ない。


 一度は手放してしまったその温もりを、ローレライには手放す事は出来なかった。


「そうかよ、結局アンタみたいな金持ち連中には分からねえだろうな!」


 怒鳴り声をあげた防衛部隊の男が、ローレライにアサルトライフルの銃口を向ける。

 決定的な敵対行為。

 刹那的でありながら、悠久にも感じる時間の錯覚の中。

 震えるばかりで力の入らない手に、ローレライは馴染みのある温もりを感じた。


「お前、誰に銃を向けてるんだよ」


 掠れてはいるものの、耳障りのいい声。

 敵意から守るように自身を抱き寄せる腕と、ハンドキャノンを構える手に被せられた手。


 ローレライがゆっくりと背後を振り向くと、そこには左目を瞑ったままのウィリアムが居た。


「黙れよ! お前らが俺達を置いて逃げたせいで、俺達の仲間が――」

「何だ、一緒に死にたかったのか?」


 弱りながらも、ウィリアムは相変わらずの皮肉に口角を歪める。

 まるで負わされた負傷などないように、まるでこの状況であっても敗北はないとばかりに。


「ローラちゃんが指揮を取るまでBIG-Cは明らかに劣勢だった。ローラちゃんはあくまで、非戦闘員を生き残らせる事を優先せざるを得なかった。そもそもあの空爆は誰にも予想できなかった――誰か教えてくれよ。どうすればあの状況で、あれ以上の成果を出す事が出来た? 甘えてんじゃねえぞ、クソッタレ」


 灰色がかった黒い瞳で威圧するように見つめながら、ウィリアムは言葉を矢継ぎ早に紡ぐ。

 その反論すら許さないウィリアムの様子に、誰もが黙り込んでしまう。

 ただ強く理解させられてしまったのだ。

 そこに居るのは圧倒的な暴力であり、アロースミスを守る戦力なのだと。


「それでもこの子に銃を向けるって言うなら、俺が相手してやるよ――1人残らず、全力で"殺してやる"」


 突きつけられる大口径の銃口と、純度100%の混ざり気のない殺意。

 数で勝っているはずの防衛部隊の男達は怖気づくように後ずさり、やがて我先にと逃げ出し始める。

 機動兵器を生身で撃破したという事実が虚だとしても、相手は単身で企業の私兵部隊に立ち向かっていく傭兵。


 衝動で立ち向かっていけるほど、防衛部隊の男達は命知らずではなかった。

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