Red Field/Dead Field 6
爆発的な銃声。
その耳障りな轟音の中で、ウィリアムは聞こえてはいけない声を聞いてしまった。
「やっぱり、"ウィリアム"には俺がついててやらねえとな」
途端に突き飛ばされたウィリアムは、地面にその身を転がされながらその目で見てしまった。
自分を突き飛ばしたアドルフ。
そのアドルフの左肩から腹部にかけてが、巨大な弾丸に吹き飛ばされてしまったのを。
「……何やってんだよ」
幾分か軽くなってしまった肉体が叩きつけられる音を聞いたウィリアムは、痛み出した左腕と脇腹の古傷を無視してアドルフへと這いずり寄る。
砂地の地面には赤い液体が広がり、その血に塗れながらウィリアムはアドルフへと手を伸ばす。
「トレーシーが、待ってるんだろ」
指先は震え、口はカラカラに渇き、耳は聞こえない筈の激しい鼓動を捉える。
ウィリアムは理解したくない現実に抗いながら、止血を試みようと傷口を覗く。
しかしそこには心臓などのあるべきものがなくなっていた。
「アディが居なくなったら、俺はどこに帰ればいいんだよ」
吐き出すようにウィリアムは問い掛けるが、アドルフが言葉を返す事はない。
アドルフは死んでしまったのだから。
しかし赤い機動兵器は無視するなとばかりに、空中に向かって数発の弾丸を放つ。
銃身から排出された薬莢は地面に叩きつけられ、アドルフの首が衝撃によって傾いてしまう。
それをむざむざと見せ付けられたウィリアムは、自分の中で何かが切れるのを確かに感じた。
「うるせえんだよ、お前」
アドルフを殺した上に、その眠りすら妨げる敵対者。
ウィリアムは激昂しながらも、状況を瞬時に把握する。
赤い機動兵器は壊殺者のように正面からの勝負を望んでいるのか、こちらの動きを待ち続けている。
その余裕ぶった敵対者を殺すべく、ウィリアムはハンドグレネードをアドルフの腰からピンを残して引き抜く。
爆破までの秒読みを始めたハンドグレネードはウィリアムによって、赤い装甲めがけて投擲される。
赤い機動兵器はそれを振り払おうと銃器を構えるが、ウィリアムはそれよりも早くアドルフのライフルを手にとって引き金を引いた。
吐き出された徹甲弾は"異常なほどに"正確な軌道を描いて、ハンドグレネードを打ち抜いて合金と爆炎を撒き散らす。
合金片を叩きつけられ、高熱に炙られた赤い装甲。
その変形し始めた合金にウィリアムはライフルの引き金を引き続ける。
やがて装甲は欠損を始め、赤い機動兵器はシステムに異常が発生したのか動きを止める。
しかし弾丸が切れたライフルを捨てたウィリアムは、ロケットランチャーへと手を伸ばす。
生かしておく訳にはいかないのだ。
アドルフを殺したその赤を、自分から全てを奪ったその赤を。
「くたばっちまえよ、クソッタレ」
無感情な声とともに、ロケットが射出される。
吐き出されたロケットはゆっくりながらも真っ直ぐ赤い機動兵器へ向かい、赤い機動兵器はようやくシステムが復帰したのか無理矢理な回避機動を取ろうとする。
だがウィリアムは死から逃れようとするその行動を許しはしない。
ウィリアムはアドルフの血に塗れたアンチマテリアルライフルを手に取り、装甲が破損している機動兵器の胸部へと弾丸を放つ。
予想外の反動によってウィリアムは後方へと吹き飛ばされる。それでも弾丸はウィリアムの狙い通りに赤い胸部を強く打ち、赤い機動兵器は再度動きを止めて流線型の頭部をロケットによって吹き飛ばされてしまう。
節々が痛む体を無理矢理起こしてウィリアムは、再度赤い機動兵器にアンチマテリアルライフルの銃口を向ける。
このままいけば殺せる。
確信と怒りに荒れる理解の出来ない感情に駆られ、引き金を引こうとしたその時、ウィリアムは渇いた銃声に気を取られてしまう。
そして腹部には突然熱い痛みが広がり、ウィリアムは呆然とソレを見下ろす。
黒いインナーには見覚えのない穴が空いており、アドルフもものではない水分がその布地を染み渡らせていた。
ウィリアムの手は急に力を失ったように、アンチマテリアルライフルを地面に落としてしまう。
自分には何も出来なかった。
途方もない無力感に暮れながら、ウィリアムは重力に導かれるように地面に体を叩きつけた。