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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
38/190

Red Field/Dead Field 5

 つい先ほどまで身を隠すほどに心強く感じていた瓦礫は、巨大な合金製の弾丸に破壊されて2人がさきほどまで居た場所を強く打つ。

 文字通りの死地から飛び出した2人は赤い機動兵器をその眼に捉え、瓦礫の合間を縫うように駆け抜けていく。


「アディ! 俺がアイツの気を引くから、狙撃ポイントを探してくれ!」

「バッカお前、俺が狙撃苦手なの忘れたか!?」

「俺だって得意じゃないけど、怪我人に囮をさせる訳にもいかないだろ!」


 ロケットランチャーを担ぐウィリアムは、空いている片手でアドルフの左腕を指差しながら叫ぶ。

 ナノマシンの投与こそ出来たものの、止血をする暇を与えられなかったアドルフの腕はデッキジャケットの袖に染みを広げていた。


「生意気言ってんじゃねえよ! 俺ならライフルで牽制しながら逃げられる、お前が狙撃をしろ!」

「そんな腕で設置もせずに銃撃なんて出来るわけないだろ! こっちはそっちが考えられないような地獄で生きてきたんだ、黙って傭兵(プロ)に任せとけよ!」


 怒鳴りあっている間にも赤い8本足は、瓦礫を踏み潰しながら2人に追い縋る。

 ウィリアムはその状況に焦れたとばかりに、腰のガンホルダーからハンドキャノンを取り出して後方へと向ける。


「迎撃を開始する、アディは狙撃と増援を急がせろ!」

「おい、待て!」


 冗談のような銃声に負けないよう、大声を張上げたウィリアムは唐突に進路を変更する。

 解き放たれた弾丸は赤い胸部の装甲を穿つ。

 赤い機動兵器は気分を害したのか、手負いのアドルフを無視してウィリアムに追い縋る。


「勝負といこうぜ。こっちは薄汚い傭兵、そっちはご立派なオモチャに乗った精鋭――アディを殺そうとする奴は、全員俺が殺してやるよ」


 挑発するように中指を立てて見せたウィリアムは、黄色いマシンアイの光を視界に収めながら思考をする。

 赤い装甲は戦闘車両の装甲並みに硬いが、赤い機動兵器の機動力は戦闘車両には及ばない。

 そしてウィリアムが背に担いでいるのは、戦闘車両すら燃やすロケットランチャー。

 しかしその切り札の装弾数は構造上1発限り。


 そのためウィリアムはハンドキャノンによる牽制をしながら、瓦礫の影を駆け抜けていく。

 防衛部隊側はアドルフに機動兵器の撃破を命じたが、増援を派遣している事からアドルフが対象を撃破する事を期待していないと考えられる。


 つまり、これは絶好のチャンスなのだ。


 もしウィリアムが赤い機動兵器を撃破出来たのであれば、賞賛を受けるのは傭兵ではなくそれを指揮したアドルフとなるだろう。

 その賞賛はアドルフの信用を回復し、優秀な指揮官を正しい道へと戻すだろう。


 だからこそウィリアムは増援などに期待せず、1人で決着をつけるつもりでいた。


「お仲間を殺したとっておき、1発1発が高額な品だ。存分に味わってくれよ」


 聞こえるはずもない皮肉を吐き出しながら、ウィリアムはハンドキャノンの引き金を引き続ける。

 装甲を削りきり、隙だらけとなったその胴体部をロケットランチャーで吹き飛ばす。

 ウィリアムは自身が辿り着いた結末へ辿り着くべく、牽制というには破壊力を持ちすぎた弾丸を放ち続ける。

 機動兵器はシステムが追いついていないのか、放つ弾丸の全てがウィリアムを捉える事が出来ないでいた。


 砲弾のような弾丸が吹き飛ばす砂塵をその身に浴びながら、ウィリアムは刻々と近付く自身の思い描く勝利に口角を歪める。

 壊殺者(ブレイカー)のようなワイヤーによる高速機動はなく、銃撃のほとんどは精細を欠いたもの。

 一方的に銃撃を命中させているウィリアムが、勝利の気配に酔ってしまうのも無理はないだろう。

 相手が殺しに快楽を覚え、泳がされている事に気付かないのも無理はないのだろう。


「死んでもらうぜ、蜘蛛野郎」


 再装填を終えたハンドキャノンをガンホルダーに戻し、ウィリアムはずっと担いでいたロケットランチャーを構える。

 展開されたスコープは機動兵器を捉え、ウィリアムの片膝は反動に耐えるために砂地にその身を軽く埋める。

 そしてウィリアムが思い描く勝利は、いとも簡単に崩されてしまう。


 赤い機動兵器が放った弾丸が、ウィリアムの傍の瓦礫を吹き飛ばしたのだ。

 突然正確さを得たその銃撃に、ウィリアムの頭は真っ白になってしまう。

 積み上げてきた勝利への道は水泡に帰し、それどころか瓦礫片が自分に向かって落ちてくる来ているのだ。


 咄嗟にウィリアムは横に飛び退く事で瓦礫片を回避するが、ついこの間まで家屋だったのだろう壁に背を強く打ち付けてしまう。

 予想だにしない衝撃からウィリアムの体はむせ返り、その手からはロケットランチャーが転がり落ちてしまう。


 ウィリアムは緩慢な動きで、ガンホルダーのハンドキャノンに手を伸ばす。

 その間にも赤い機動兵器は、余裕ぶるようにゆっくりとウィリアムに巨大な銃口を向ける。

 あまりにも巨大な合金製の殺意にウィリアムは敗北を理解するも、それでも戦う事をやめようとはしない。


 きっとこれが最後なのだ。

 何よりも大事な兄の期待に応えられるのは。

 この薄汚い体で兄の役に立てるのは。

 自分が食い潰してしまった兄の未来を取り戻せるのは。


 しかし赤い機動兵器はそんな悲痛なウィリアムの思いなど知らぬとばかりに、ゆっくりと引き金を引く。


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