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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
34/190

Red Field/Dead Field 1

 コロニーBIG-Cは企業の私兵部隊に対して勝利したが、防衛部隊の2割が死亡。

 その戦死者リストの中にオリヴァー・モンクトンの名前を見つけてしまったウィリアムは、傷ついた体を引きずりながらシェアバスの停留所にようやく辿り着いた。


 あれからウィリアムは壊殺者(ブレイカー)の形見を敵中枢に投げ捨てて、私兵部隊の戦意を折ることに成功した。

 その後戦線に復帰するも、その既に傷ついていた体は、あらゆる方向から飛び交う弾丸によって更に傷付けられる事になった。

 チャールズに負傷時の説明は求められたが、ウィリアムにはそれをする事は出来なかった。


 ウィリアムが知る限り、ウィリアムを背後から撃てたのはBIG-C防衛部隊だけだったのだから。


 そして治療を受けたウィリアムはアロースミスの関係者に、提示額以上の報酬を押し付けられてコロニーBIG-Cを追われる事になった。

 文句は言えない、言ってはいけない。

 ウィリアムはあくまで傭兵であり、傭兵は契約満期を迎えたのであればそれまでなのだから。


「お兄さん!」


 暗灰色の空の下。砂だらけの荒野にボストンバッグを投げ捨てたウィリアムは、聞き覚えのある声に振り返る。

 途端に腹部に感じる柔らかな衝撃。

 見覚えのある金糸のような髪を見下ろしていると、涙を湛える青い瞳が灰色がかった黒い瞳を見上げてきた。


「わたくしとはお遊びだったんですの!?」

「その言葉を教えたのが誰かなのか、それだけ最後に教えてくれないか。安心して出て行けないじゃないか」


 インナーに涙を染み込ませていくローレライに、ウィリアムは顔を引きつらせて問い掛ける。

 BIG-Cに訪れた時点でスラングは禁止されていたので、自分の責任ではないと理解は出来る。

 しかしその言葉を覚えるきっかけがもし自分なら、とウィリアムが頭を抱えそうになる。


 だがその思考は、見覚えのある悠然と現れた金髪の夫妻によって遮られる。

 チャールズの目の下には熊が浮かんでおり、ローズマリーのシニョンにされていた金髪は原型がないほどに乱れていた。


「……ご迷惑をお掛けして、大変申し訳ありませんでした」


 視線を合わせる事も出来ないまま、ウィリアムは2人へと頭を下げる。

 ウィリアムという傭兵はアロースミスという狭い世界だけでなく、BIG-Cというたくさんの人々が住まう世界すら乱してしまった。

 その証拠にウィリアムはコロニーを追われ、あれから子供達に別れを告げることすら許されなかったのだから。


「頼む、謝らないでくれ。謝らなければならないのは私達だ」

「そんな事はありませんよ。皆さんに施された今日までの日々は、俺みたいな傭兵なんかにはもったいない日々でした」


 悔しげに歯噛みするチャールズに、ウィリアムはローレライの背中をあやすように叩きながら肩を竦める。

 あの時、ウィリアムは思考を続けながらも衝動のままに戦っていた。


 嘘をついてはいけない。

 子供にはやさしくしなければならない。

 何があっても生き残らなければならない。


 そのアドルフの約束があったとはいえ、アロースミスの人々はウィリアムに戦う正当性を与えてくれた。

 期待に応えるためのチャンスを与えてくれたアロースミスの人々に、ウィリアムは詫びられる意味が分からなかった。


「あなたもそんな事を言うものではありませんわ。私達を救ってくださったのは、紛れもなくあなたなのですから」

「それが俺の仕事なんですよ。それに俺がもったいないほどの施しを受けたのも事実です」


 ローズマリーはそんなウィリアムの態度と、BIG-Cの手の平の返し方が気に入らないとばかりの態度。

 策略もあったのだろう、打算もあったのだろう。

 それでもたった1人の家族に迷惑しか掛けられなかった自分を向き合ってくれたことが、ウィリアムにとっては何よりも嬉しかった。


「皆さんには本当に感謝しています。きっと、一生忘れる事はないでしょう」

「……すまない。君を恐れてしまった弱い人々を許してやって欲しい」


 チャールズはそれしか出来ないとばかりにウィリアムに詫びる。

 ウィリアムの功績を盾に、ウィリアムの有用性と安全性をチャールズはBIG-Cの人々にアピールし続けた。

 しかし人々は恐れてしまったのだ。


 "首から上を失っていた"死体、銃弾を受けながらも私兵を殺し続けた傭兵、冗談のようなその銃口を。


 身の丈以上の武器を操る企業の精鋭を、たった1人で殺してみせたウィリアムを。


「でしたら、1つだけ発言をお許し下さい」


 放っておけばどこまでも悔やみ続けるであろうチャールズに、ウィリアムはしがみついてくるローレライをやんわりと引き剥がしながら請う。

 目はシェアバスの2つのライトを、耳は耳馴染みのあるやかましいエンジン音を捉え、シェアバスという形で別れの時が近付く。

 もう時間がないウィリアムはあつかましいと知りながらも、アドルフの言葉を思い出しながら口を開く。


「何があっても生き残ってください、生き残るためなら何でもして下さい。死んでしまえばそこで何もかもおしまい、取り返しのつかない過去を悔やむ事も出来なくなってしまいます」

「……必ず約束しよう。ウィリアムもどうか無事で」


 突然告げられたその懇願にチャールズは黙り込んでしまうが、望まれているであろう答えを返す。

 アロースミス家の人々は裕福に暮らし、裏切らないという評価を得ていた傭兵を選ぶ事が出来た。


 だからこそ教育を受けることもなく、頑なに過去に触れさせる事もない少年の言葉を受け止めない訳にはいかなかった。


「精々しぶとく生き残らせてもらいますよ。もう会う事はないと思いますが、傭兵なんか必要ない今後を過ごせますように」


 どこか冗談めかすよう言いながら、ウィリアムは地面に放っていたボストンバッグを持ち上げる。

 その間にもローレライは縋るような視線をウィリアムに向けるが、ウィリアムは意図的にそれを無視して車体を停止したシェアバスへと乗り込む。


 気付かされてしまったのだ。

 金糸のような髪に触れるには自分の手は穢れすぎていて、傍らに在るにはあまりにも住む世界が違うのだと。


 やがて走り出したシェアバスの車内で、シートに座り込んだウィリアムは窓の外の光景から目を逸らすようにポケットから端末を取り出す。

 シンプルなデザインのディスプレイには、時刻と未読のメッセージを告げるサインが表示されていた。

 失血のせいか少しダルい体を押して、ウィリアムはメッセージを表示する。

 BIG-Cに2度と訪れるな、あるいは新しい依頼を受けて欲しい。

 そう言ったメッセージだろうと考えていたウィリアムは、表示されたメッ

セージに目を見開く。


 そのメッセージには"コロニーCrossingが企業の私兵大隊によって襲撃を受けており、企業の精鋭殺害に成功したウィリアム・ロスチャイルドに救援を頼みたい"と書かれていたのだ。


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