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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
28/190

Green Eyed Monster/Screen Died Goner 4

 コロニーCrossing内の薄暗い施設の一室、そこで1人の男がもう1人の男を締め上げていた。

 締め上げている方の男――アドルフは激昂していた。


「マティアス、テメエが仕組みやがったのか!?」

「そうだ、アレはお前に相応しくない。現にアレの存在はお前の出世に響いているじゃないか」


 親友だった男の言葉に、アドルフは胸倉を掴む手を更に強める。

 ウィリアムが受諾した小規模コロニーへの派兵には、「該当コロニー近辺の奇形生物の排除」という理由が後付けされた。

 しかしその小規模コロニーの周りで奇形生物が発見された記録はなく、小隊長権限で作戦内容を詳しく調べたアドルフは隠されていた内容に驚愕した。


 その内容は「有色の人間の護送と売却」であり、作戦立案者は部下であり親友だったマティアスだったのだ。


「弟を犠牲にして出世して、俺が喜ぶと思ったのかテメエは!?」


 既に出発して3日は立っているであろう義弟の安否が気になりながらも、アドルフは目の前のマティアスへと怒りをぶつけ続ける。

 マティアスがウィリアムの事を気に入らなかったのは知っていた。

 紛失した銃がウィリアムによって盗難されていたのだから、ソレも無理はないだろう。


 しかしこのやり方はあんまりだと、アドルフは憤っていたのだ。


「いい加減に目を覚ませ、アレは死んだお前の|"本当の弟"《ウィリアム》じゃない。スラムの生まれの薄汚い盗人だ」

「黙れよ! アイツはあの時から俺の弟なんだよ、たった1人の俺の家族なんだよ!」

「死んだ弟の名前を与えておいて良く言う」


 怒鳴り声を上げるアドルフの顔面を、マティアスは堪忍袋の緒が切れたとばかりに殴りつける。

 予想外の一撃をもらったアドルフの手からは力が抜け、マティアスは前蹴りの要領でアドルフを蹴り飛ばす。

 アドルフがウィリアムの派兵に怒っているように、"ウィリアム"を知っているマティアスもアドルフに怒っていた。


 マティアスは"ウィリアム・レッドフィールド"を知っているのだ。

 親友の弟であり、同時に親友でもあった灰髪の少年。

 家族と共にアドルフを置いて死んでしまった灰髪の少年は、決してスラム出身の有色の子供ではない。


 だからこそマティアスは気に入らなかったのだ。

 薄汚い盗人を弟の代替にしたアドルフが。

 その座にのうのうと居座るウィリアムが。

 その偽りの関係を大事に、それでいて本物であるかのように振舞う2人が。


「もう1度冷静に考えてみろ、トレーシーと薄汚いスラムの住人。お前はどちらを選ぶ気だ?」

「どちらもだ! そのために俺が努力してきた事をお前は知ってるはずだぞ、マティアス!」


 確かに商品価値のある有色の子供を匿った事で、アドルフは上から疎まれていた。

 それでも第7小隊は他の小隊とは比べ物にならない成果を上げ続けており、いずれ防衛部隊の全員がウィリアムを認めるはずだったのだ。

 しかしマティアスは見通しの甘いアドルフの考えに、深いため息をつく。


 有色の子供であるウィリアムの商品価値は、加齢して髪が退色するまで失われる事はない。

 それまでの間、ウィリアムを守り続けるであろうアドルフは間違いなく優秀だった。

 戦闘行為、指揮管制、作戦立案。

 マティアスの親友は間違いなく天才といわれる人種であり、その足を引っ張り続けるウィリアムがマティアスは許す訳にはいかない。


 咳き込みながらもゆっくりと立ち上がるアドルフを眺めながら、マティアスは待ち望んでいたメッセージを表示する端末へと視線をやる。

 100%望んだ通りではないが、マティアスにはソレで十分だった。


「……話にならんが、もはやどうでもいい。部隊は全滅したそうだ。何があったのかまでは知らないが、アレも生きてはいまい」


 その皮肉混じりのマティアスの言葉に、アドルフは全ての音に置いて行かれたような錯覚に陥る。

 胃の辺りは家族を喪った時に感じた不快感を覚え、口は水分を失ったようにカラカラと渇いていく。

 戦闘訓練を受けていないのにも関らず、男達を一方的に殺害した少年を抱え込むという打算はあった。


 少年を拾った事の全てが親切心というわけではなかった。

 それでもアドルフにとってウィリアムはたった1人の家族で、2度と喪ってはいけない弟なのだ。


「これからは一層仕事に励むといい、もうお前の邪魔をする奴は誰も居ない」


 何1つ躊躇いなど感じていないかのような、親友だった男の言葉。

 その言葉に積もり積もっていた苛立ちを堪え切れなかったアドルフは、立ち去ろうとしたマティアスへと拳を振り上げた。

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