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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
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Green Eyed Monster/Screen Died Goner 2

「ジェイコブ、そいつと話をするから立たせろ」

「はあ、マジで言ってるんすか?」


 のしかかるようにして子供を取り押さえていたジェイコブは、隊長の言葉に信じられないとばかりに眉を顰める。

 スラムで起きた事件に介入する事自体が稀であるというのに、スラムの住人に権利を与える隊長の行動が理解できないのだ。


「殺しをしたのは有色の子供、殺されたのは大人側。状況は見えるけど、事情を聞かなきゃどうにもならねえだろ――そういやマティアス、お前んち子供居たよな?」

「残念だがうちのは育ちが良いんでね、力になれそうにない」


 嫌味なく嫌味を吐く親友兼部下に肩を竦めながら、小隊長はジェイコブによって立たされた子供の前に膝をつく。

 取り押さえた際に砂で汚れてしまったものの、美しさの片鱗を見せる黒髪。


 灰色がかってはいるが、自身らの灰色の瞳は全く違う黒い瞳。

 白人以外のルーツを感じさせる、少し特徴的な顔立ち。

 服こそみすぼらしいが、目的を持って整えられたであろう容姿。


 隊長の男を強く睨みつけてはいるが、落ち着きつつある少年にゆっくりと話しかける


「いいか小僧、俺の質問に嘘をつかずに答えるんだ。問題がなければすぐにでも解放してやるからさ」


 少年が確かに頷いたのを確認したアドルフは、部下全員を証人にするために咳払いをして全員の視線を集める。

 簡易的ではあるが、これはあくまでも尋問なのだ。


「質問1、ここにある死体は全員お前が殺したものか?」


 少年が頷く。

 10歳になったかなってないかの少年。

 その少年が作り出した惨状から目を逸らしながら、隊長の男は質問を続ける。


「質問2、お前は正当防衛、というか何かされそうになって殺さざるを得なかったのか?」


 少年が頷く。

 男達は売却目的で少年を拉致しようとし、拉致されかけた少年がそれに対して応戦した。

 予想通りの展開に嘆息しながら、隊長の男は地面に落ちていた、少年が使っていたであろう拳銃を手に取る。

 その拳銃のグリップに描かれたCを象るエンブレムと、カーキのデッキジャケットの胸に飾られた同じエンブレムに視線をやる。


「質問3、この銃はお前の物か?」


 少年が頷く。

 隊長はどこか疲れたように右手で顔を覆う。

 違うと首を横に振ってくれればどれだけ楽だっただろうか。

 隊長はそう願ってしまうが、それはもう遅すぎた。


「決まりだな――あいつらは騒乱罪で、この子供は窃盗容疑で拘留する」

「窃盗だと?」

「ああ。喜べよマティアス、お前の銃がようやく出てきたぞ」


 アドルフはそう言いながら立ち上がり、歩み寄ってくるマティアスに銃を差し出す。

 確かにそれは過去に紛失し、減給処分を受ける切欠になった銃だった。

 少年は自分の立場の危うさに気付いたのか、途端に逃げ出そうと暴れだす。

 上司が少年の目の前に居た事で気が抜けていたのか、ジェイコブは少年を逃してしまう。

 しかし隊長の男は咄嗟に少年の右手を掴んで背後からおさえ込むように少年を拘束し、逃げ出そうとしていた少年の顔が苦しそうに歪む。

 その様子に隊長の男はジェイコブが少年に怪我をさせたのかと考えるも、それとは違う事実に辿り着いた。


 途端に隊長の男の胸にとある感情が湧き上がってくる。

 救いようもない、それでいてどうしようもない行動原理だが、小隊長の男はその衝動を堪える事が出来なかった。


「……お前には2つ道が残されてる。1つは窃盗犯として拘留の後の行方不明、2つは俺の弟になって保護観察処分を受けるかだ」

「はあ!? バカなんすか隊長!?」

「黙ってろジェイコブ。有色の子供を拘留しようもんなら人買いと繋がってる上の連中が持って帰っちまうだろ。出世はしてえけど横領に加担する気はないんだよ――それにこいつは正当防衛でゴリ押せる。どうやら、銃をろくに撃った経験もないらしいからな」

「これだけ殺しておいてか?」


 自分の銃が子供に盗まれていたのが気に入らないのか、不機嫌そうにマティアスは小隊長の男へと問い掛ける。

 私情は抜きにしても、その少年が大人数人を殺した事実に変わりはないのだから。


「右腕を怪我してる、おそらく反動による物だ。それに引き付けてから撃ったのはそうでなければ殺しきれなかったと判断できるだろ」

「銃に関して素人だとしても、その判断が出来てジュニアソルジャーじゃないなんて言い訳が通るのかね?」

「通す、そのためにこいつの経過観察を俺が引き受ける」

「……出世に響くぞ?」

「それ以上の結果を出してやればいい。どうせスラムに有色の子供が居たなんて上も知らないんだ、わざわざ与えてやる必要もないだろ」


 聞き分けのない親友の様子にマティアスは呆れたように肩を竦め、ジェイコブは勝手にしてくれとばかりに他の隊員達の手伝いに向かう。

 隊長の昇進が自身らの進退を決めるのは事実だが、説得できない以上2人に出来る事はない。


「好きに選べよ。どちらにせよ楽に生きられる訳じゃない、だから選んで後悔しろ。それが今のお前に残された自由だ」


 アドルフはそう言いながら少年へと向き直り、節くれだった手を差し出す。

 少年は逡巡するも、自分を傷付けるようには思えなかったその手を取る。


「決まりだ。こいつはコロニーCrossing防衛部隊第7小隊隊長、アドルフ・レッドフィールド預かりとする、以降こいつが起こした問題の責任は全て俺が負う。そして今日からお前はウィリアム・レッドフィールド、俺の弟だ」


 慣れ親しんだ名前を告げるように小隊長――アドルフ・レッドフィールドは少年に名前を与え、薄汚れた少年の黒髪の頭を撫でる。

 少年は戸惑いながらも、その温もりと名前を受け入れた。

 ただマティアスだけが、帰ってきた銃とウィリアムの名前を与えられた子供をただ不愉快そうに睨みつけていた。

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