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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
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Fascination With Fear/Damnation With Dear 4

 荒野の小高い丘の上に、ローレライと共に脱出した後続部隊達が展開している。

 比較的軽傷の者達は辺りの索敵を続け、重傷の者には順にウィリアムから預かったナノマシンを投与された。

 そしてローレライはCrossingから逃げ出す車両群と上る黒い煙を眺めながら、チャールズとウィリアムに何度目かの通信を試みる。

 チャールズには部隊との合流を、ウィリアムには撤退を勧告しなければならないのだ。

 しかし高濃度の情報攻撃ジャミングが展開されているのか、2人と通信が繋がる様子は一切ない。


 もう少し考えるべきだった。


 ローレライは焦燥の中で悔いる。

 なぜ貴重な奇形生物達が6体も現れ、その奇形生物達は知性を持っていたようにローレライ達を襲ったのか。

 コロニーCrossingが企業の襲撃を受けた理由は、後続部隊の殲滅だろうと見当をつける事は出来る。


 ウィリアムが言っていたように、ゲームの延長戦だったのだろうと。


 しかし理解が出来ない事が圧倒的過ぎた。

 荒野で出会った奇形生物達は企業の放った戦力だったのだろうか。

 企業はあの奇形生物達を操作する方法を持っているのか、それとも作り出す手段を持っているのか。

 そしてあの"赤い蜘蛛のような機動兵器"は一体なんなのか。

 BIG-Cで見た機動兵器とは大きく違うその存在感が、ローレライをただただ不安にするのだ。


 おそらく指揮官クラス、単独で動く事が出来る圧倒的な戦力であろう赤。

 ローレライは戦闘車両と共に戦うべきである機動兵器と、ウィリアム1人に生身で戦わせているのだ。


「アロースミス指令! 交戦が終わった模様です!」

「状況は!?」


 超高感度望遠レンズによって状況を探らせていた防衛部隊の男の声に、ローレライは思わず声を張上げてしまう。

 戦闘の真っ只中に飛び込んでいけば、ローレライ達はウィリアムの足を引っ張ってしまう。

 彼の戦闘の邪魔をしない、ローレライはローズマリーとそう約束をしたのだから。


「撃破された赤い機動兵器が見えます。一体どうすればこんなことが出来るのか……」


 信じられないとばかりに言う防衛部隊の男の目には、腰から上半身と下半身に分けられている赤い機動兵器がレンズ越しに見えていた。

 単機でスラム地区を焼き尽くし、自身らを絶望の淵に立たせたその質量を持った暴力。

 それをたった1人の傭兵が撃破したという事実を、受け入れられるはずがなかった。

 しかしローレライは戸惑う防衛部隊の男を無視して、行動を始める事にした。


「救援部隊を即座に結成、生き残りの回収に向かいますわ」

「本気ですか!? あんな状況で生きてる訳ないじゃないですか!」

「だとしても、我々はあそこへと戻らなければなりませんわ。生き残りがいるのであれば救い、コロニーの英雄であるお兄さん――ウィリアム・ロスチャイルドを迎えにいかなければならなくてよ」


 英雄の凱旋には少々地味かもしれないが、とローレライはどこか疲れたような笑みを浮かべる。

 おそらく企業が送り込んだ赤い機動兵器は企業の切り札の1つ。


 灰色の機動兵器とは違う、明らかなワンオフ機。


 それが撃破された以上、企業はこれ以上の損失を避けるために、一時撤退するしかないはずだとローレライは考える。

 そして赤い機動兵器の残骸を回収しにを企業の部隊が送り込まれる事が予想できる以上、ローレライ達は急いで生き残りの探索とウィリアムの回収を行わなければならないのだ。


「……でしたら先に申し上げます。BIG-C先行脱出部隊30番から60番、生き残りはここにいる全員です」


 言いづらそうに告げられたその言葉に、ローレライは言葉を失ってしまう。

 しかし自身らの命が掛かっているサルベージに、男はあくまで反対の態度を崩さずに言葉を続ける。


「脱出の最中に襲撃を掛けて来た急襲者は、狙い済ましたようにアロースミス卿の車両を真っ二つに……おそらく生存すら……」


 体からは一気に熱が引いていき、全ての音に置いて行かれるような感覚。

 ローレライは震える体を誤魔化すように、その華奢な腕出を自分の肩を抱く。


 チャールズ・アロースミスは死んだ。


 その男が言っているのはそう言うことだったのだ。

 しかし同時に理解してしまう。

 父はターゲットとなった自身らを救わせず、人々が逃げるのを優先させてしまったのだろう。

 共に散った部下が居たとは言え、彼らはおそらくチャールズの腹心。傷を負ったチャールズを放っておきはしない。

 おそらくこれは愚直な人々の愚直さから生まれた、愚かで悲しい結末なのだ。


 それでもローレライはここで膝を折ってしまう訳にはいかない。


 自分を守ると母と約束させてしまった傭兵が。

 過去も現在も自分を守り、ただ1人傷ついている"お兄さん"あそこに居るのだから。


「……お父様が逝かれたのであれば、わたくしは臨時ではない戦略指令ということになりますわね――今すぐにウィリアム・ロスチャイルドの救出に向かいます。これは、戦略司令命令ですわ」


 そう言いながらローレライは、浮かび始めた涙を誤魔化すように夜空を見上げる。


 白み始めたその空は皮肉なほどの暗灰色をしていた。

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