Dance With Shadow/Trance With Hallow 6
「いい加減にしなさい。それを決めるのはアタシ達ではないわ」
「ですが救うのはアンジェ達です。姉さんにリスクを背負わせてまで、それをしなければならない理由などありません」
そのアンジェリカの言葉を聞いた瞬間、メリッサは自らの頭に血が昇るのを確かに感じた。
心を救ってくれた男との約束で思わず口を突きそうになる暴言を必死に抑え、メリッサは灰色の瞳でアイスブルーの瞳を射抜くような眼光で見つめる。
「なら、アンジェがアタシを守りなさい。アンジェがなんと言おうと、アタシは仕事を遂行するわ。それがリスクを背負うことになると言うなら、アンジェがアタシを守り抜きなさい」
「で、ですが――」
久しく見たこともの無かった慌てるアンジェリカの様子を余所に、メリッサは意図的に口角を上げて仕上げに取り掛かる。
「ですが、じゃないわよ。それとも父さんの太刀を受け継いだアンジェが、そんなことも出来ないとでも言うわけ?」
「そんなことありません!」
「なら決まりね。成果に関係なく、30分後に撤退開始。車両には何人くらい乗せられる?」
「……無理矢理詰めて10人と言ったところですが、野盗の車両があります」
「ならLibertaliaの車両と、野盗の車両の車両に分けるわ。野盗の車両の運転はアタシ、アンジェはアタシのガードとして同乗。何か質問は?」
そう言ってメリッサは不承不承とばかりに折れたアンジェリカに微笑みかける。
その人柄でLibertaliaの皆に慕われているメリッサ。その実力でLibertaliaの皆に頼りにされているアンジェリカ。
イグナイテッド姉妹などと言われている2人ではあるが、元々は赤の他人。メリッサにいたってはアンジェリカの父、エイブラハムを殺害しよとすらしていた。
それでも2人はエイブラハムによって救われ、人間としての尊厳のある生を謳歌できている。
ここに居る少女達にも生きる義務があると傲慢な事は言えないが、それでもメリッサは無意味に可能性を奪う事だけはしたくない。
「救助を拒否された場合は?」
「置いて行くわ、それでも連れて行くなんて傲慢なことは出来ないもの。言葉でそれを告げられた場合にのみ、拒否をされたものとするわ。無言は拒否にならないから、そのつもりで――」
いなさい、そう告げようとしたメリッサの言葉をけたたましいサイレンが遮り、薄暗い施設内を飾りでしかなかった筈のレッドランプが染めていく。
状況を把握出来ないメリッサを余所に、アンジェリカは白銀の太刀を鞘から抜いて横並びの独房の鉄格子を斬り捨てながら走る。
アンジェリカは確かに指揮官を殺した、そうだった筈なのだ。
「死にたくなければ走って逃げなさい!」
全ての鉄格子を斬り捨てたアンジェリカはそう叫びながら、メリッサを肩に担いで走り出した。
「ちょっと、アンジェなにを――」
「ごめんなさい、姉さん」
アンジェリカはそう言いながら、ただ走り続ける。
破壊したガトリング砲を、殺し尽くした男達を、無残にも穢された上で殺されてしまった少女達を置いて行きながら。
レッドランプとは違う有機的な光、唯一の出口を捉えたアンジェリカはそこから飛び出し、岩陰に隠れメリッサを庇うように覆い被さる。
そして爆音が轟き、爆風が逃げ遅れた少女たちをも一緒くたに吹き飛ばしていく。
施設から吹き荒れる熱を伴う爆風がアンジェリカの白髪とメリッサの灰髪を掻き乱し、峡谷の乾いた砂を巻き上げる。
旧時代の自爆装置、あらゆる物資が貴重となっている、この時代では考えられることも無いであろうソレにアンジェリカは思わず歯を食いしばった。




