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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Irregular(短編集)
186/190

Dance With Shadow/Trance With Hallow 5

「ちくしょう! 外の奴らはどうしやがった!?」

「通信が受諾されない! 隔壁を絶対に開けさせるな! 敵はガトリング砲すら退けた化け物だぞ!」


 つい先ほどまで夢中になって貪っていた少女達を端へと追いやり、装備を固めて隊列を組み始めた野盗(バンディット)

 怒号が飛び交い、途端に慌しく辺りの雰囲気にメリッサは思わず顔を引き攣らせてしまう。

 旧時代の防衛装置。企業と比べれば粗悪ではあるが、間違いなく脅威であるはずのパワードスーツ。圧倒的な戦力となるそれらを所有しているというのに、野盗の男達の口から漏れるのは嘆きばかり。


 メリッサはそれだけの事をさせるだけの存在を3人だけ知っている。

 移民の英雄であり、企業を壊滅させた事で世界を混乱のどん底に叩き落したウィリアム・ロスチャイルド。

 漆黒の機動兵器を駆り、白銀の刃を振るい、娘のために戦ったエイブラハム・イグナイテッド。

 そしてエイブラハム・イグナイテッドの全てを譲り受け、戦場から姿を消したウィリアム・ロスチャイルドから最強の座を奪ったアンジェリカ・イグナイテッド。


 他の誰でもない自分を救いに来ている妹。野盗達からすれば、鎌の代わりに太刀を携えた死神が訪れたようなものだろう。

 現に退色した目を血走らせた男の1人が恐慌に駆られ隊列から逃げ出そうとし、数人の男達がそれに続こうとしたその瞬間、轟音と共に眩い閃光が解き放たれ、合金製の隔壁が吹き飛ばされたのだから。


 隔壁だったはずの大質量の鉄塊は岩肌が剥き出す床を叩き砂埃を上げ、前衛の男達の体を打ち潰していく。

 白銀の太刀が振るわれる度に闘争の香りと共に広がる、死を体現するような鉄の香り。

 確かに底には迫り来る悪夢の影が、断罪者(パニッシャー)が存在していた。


「アン、ジェ」


 メリッサが囁くように妹の名前を呼んだその時、軽い金属音と共に鉄格子が切り落とされる。

 そして現れた白髪の麗人は、返り血をこびり付かせた顔でメリッサに微笑んだ。


「遅くなってすいません、姉さん。お怪我は? 下等生物共に触れられたりはしませんでしたか?」

「アタシは大丈夫よ、アンジェは?」

「……服が汚れました」


 返り血と砂埃で汚れた気に入りの赤いトレンチコートに視線を向けたアンジェリカはがっくりと肩を落とす。服1着を買えないほど財政は困窮していないが、父ならばもっと上手くやっただろうと思いは強いものだった。少なくとも、この真紅のコートを着たがっていたエイブラハムは、最後の最後まで純白のコートを汚さずに着ていたのだから。


「さあ脱出しましょう。指揮官らしい男は既に殺しましたし、外にLibertaliaリベルタリアの車両を待たせていますので」

「え、あの子達は?」


 自分の手を引いて立たせた妹の言葉にメリッサは思わず問い返してしまう。

 体を穢された上で殺された少女達の死体がそこら中に溢れているものの、他の牢獄にはまだ多くの少女達が囚われている。それをむざむざと見過ごす事は、エイブラハムに救われたメリッサには出来ない。


「知りません、アンジェは姉さんの救出に来ただけです。これ以上ここに留まる理由はありません」

「ダメよ、アタシは救援部隊の1人として派遣されたのよ?」

「救難信号を出した移民団は偽装した野盗、フェルナンド・リベルタリアはそう断定しました」

「それでも迫害を受けていた彼女達はここに居るわ。そういう弱者を受け入れるのが、コロニーLibertaliaの理念のはずよ?」

「ですがここに居るアンジェはLibertaliaに住んでいるだけの人間であって、行政の人間ではありません。あのコロニーを守っているのも、姉さんとアンジェが暮らすのに都合がいいからというだけです。――それに、あそこまでされても、生きていたいと思えるのでしょうか?」


 そう言ったアンジェリカの細められたアイスブルーの双眸は、男達の欲望によってその身を穢されながらも生き永らえた少女の1人を捉える。

 少女の灰色の瞳は光を失い、穢されたその身は野盗と共に地面に横たえられていた。

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