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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Irregular(短編集)
181/190

Take Me Higher/Break Me Fire 4

「フェアじゃなくなってしまったわね。でも謝らないわよ? 道理なんてものはもうないんだから、私は私のしたいようにするわ。それが偽善だと言われても、私にはそれが出来るのだから」


 角ばったデザインのハンドガンを両手に持ちながら、麗人は何の感情も込めずにそう言った。翻る青いコートはその中に空になったガンホルダーを内包し、ハンドガンの銃口からは命を奪った証を示すように硝煙が昇っていた。


「分かったでしょう、無能諸君。実力も無い人間は、自分を信じて邁進するほか道は無いのよ。私のようにね。それも出来ない人間に、生きてる価値は無いわ」


 ほとんどが死に、そしてすぐにも死に行くであろう人買いの私兵達に背を向けて麗人はバーを覗き込む。

 幸いにも死者も怪我人も居なかった事を確認し、麗人は青い双眸でマスターを捉えた。


「マスター、外にある車両あげるからお店の修理費にでも充ててちょうだい。面倒かけたわね、ホットサンド美味しかったわ」


 代金を比較的原形を保っていたテーブルに置いて、麗人は未だ戦いのショックから抜け切れていないタチアナの手を引いてコロニーの入り口へと歩き出す。


「ごめんなさい、怖がらせてしまったわね」

「い、いいえ。ちょっと、ビックリしてしまっただけです――」


 お強いんですね、そう言おうとしたタチアナを背に隠し麗人は背後を振り向きざまにハンドガンの弾を放ち、そして部下のライフルを握った部隊長が、部隊長だった死体がそのまま地面に倒れていく。

 タチアナは濃密な闘争の空気に飲まれそうになるも、麗人はその様子にも取り合わずに改めてタチアナの手を引いてコロニーBastilleバスティーユを後にした。


「いい、タチアナちゃん。この世は実力主義よ。どれだけ自分と他者の可能性を信じられるか、そしてどこまで自分の力を磨けるかが明暗を分けるわ」

「自分を信じる、ですか?」

「そうよ。タチアナちゃんはまだ何もしていない、私はそう言ったわね?」


 タチアナの人生は両親に導かれるまま生きただけであり、自ら何かした記憶は無い。

 その思いがタチアナを麗人の言葉に頷かせた。


「タチアナちゃん、あなたに1つお願いがあるの。断れない状況でこんなこと言うなんて、とても卑怯だってことは分かっているけど」


 そう言うなり麗人はコートの内ポケットから、薔薇に囲まれたフレアのエンブレムが描かれたカードを取り出しタチアナへ手渡す。


「コロニーOdeonに交渉屋アロースミスっていう、交渉役ネゴシエーターの屋敷があるわ。そこへ行ってローズマリー・アロースミスという女性の力になって欲しいの。私はまださっきの連中を潰して回らなければならないから、ここでお別れになってしまうのだけど」

「私に、出来るでしょうか?」


 手渡された上等な紙で作られたカードに描かれた、麗人のコートの胸元に金糸で刺繍されたエンブレムと同じそれを見つめながらタチアナは言う。

 近くは無いコロニーOdeonへの道のり、軍需工場でしか働いたことの無い自らの経験の無さ、それがタチアナを躊躇させる。


「あなたが自分を信じられるのなら。私は、あなたを信じてるわ。信じられなければ私を信じなさい。あなたは必ず無傷でコロニーOdeonへ辿り着き、あの人にとって掛け替えの無い存在になるわ」


 タチアナの小さな体を抱きしめて、麗人は裏表の無い言葉をタチアナへ紡ぐ。

 何もしていないとことは、これから何かをすればいいということ。

 それを気付かされたような気がしたタチアナは、麗人の顔を見上げて問い掛けた。


「最後に、お名前を伺ってもよろしいですか?」


 タチアナの青灰色の瞳を透き通るような青い双眸で捉え、麗人は美しい笑みを浮かべて名を告げた。


「私はメアリー・アロースミス。交渉屋アロースミスの女主人の義妹で、企業を壊滅させた夫婦の叔母よ」



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