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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Liberator
170/190

Liberation Avenger/Gradation Surrender 2

 正式にコロニーLibertaliaの首脳となったフェルナンドに、亜里沙は1つの取引を切り出した。

 リベルタリア家の罪を黙秘する代わりにLibertaliaの恒久的な繁栄に務め、そして2度と自分達に関らないで欲しいと。

 チーロの死を隠蔽していたフェルナンドは罪悪感からその取引に応じた。

 形式上、亜里沙はリベルタリア家の人間であり続けるが、リベルタリア家から接触する事は2度としないと。

 たった1人で守り続けていた母の死、慕っていたナターシャの裏切り、両親が重ねた罪。それらと亜里沙に向き合わせる事など、フェルナンドには出来なかったのだ。

 そしてフェルナンドは残っていた資産の1部を使って交渉屋アロースミスに"しばらく義妹を預かって欲しい"という依頼を出し、それを聞きつけたレギナはその旅の同行を申し出た。


 決して長い時間を共に過ごした訳ではないが、レギナには亜里沙の目的が分かっていたのだ。


 亜里沙は交渉屋アロースミスで交渉役(ネゴシエーター)となり、ウィリアムの傍らに居続けようとしているのだと。

 義妹の旅を心配していたフェルナンドはレギナに資金と装備を与え、義妹を頼むと頭を下げていた。

 そして2人は多くのものを失ったが、それでも2人は自ら望む答えを得始めていた。


「なんてはしたない! あなたは仮にも令嬢なんですのよ!?」

「じゃあ令嬢やめたー。あ、ウィルのスーツなんかいい匂い」

「それはわたくしが選んだコロンですわ――ではなく!」

「ところでウィル、亜里沙・ロスチャイルドっていい響きじゃない? ウィリアム・リベルタリアも捨てがたいけど」


 出会ったことのないタイプの少女に振り回されたローレライは、苦笑を浮かべるだけのウィリアムにどこか咎めるような視線を向ける。だがつい先日まで世話役の女に裏切られたことに悲しんでいた子供に、ウィリアムが強く出れないことを理解しているローレライは何も求めることは出来ない。


 それどころか、状況は誰にとっても予想外の方向に転んでいく。


「れ、レギナ・ロスチャイルドなんてどう、ウィル兄さん?」

「……兄代わりが欲しくなったらおいで」


 アロースミスのエンブレムが入ったスーツの裾を指先でいじりながら言うレギナの頭を撫でてやりながら、ウィリアムは突き刺さるような2対の視線に深いため息をつく。

 ウィリアム・ロスチャイルドはローレライ・ロスチャイルドのものであり、他の誰かに利用される事は許されない。

 亜里沙とレギナにそのつもりがなくても、フェルナンドやナターシャは目的を持ってウィリアムを取り込もうとしていた。その事を考えてしまえば、ウィリアムが2人にしてやれる事は守ってやる事くらいだった。


 もっともそれはウィリアムが呪いと化した約束から脱却出来ていないという事であり、ローレライが望んでいない未来が続くと言う事なのだが。


「どうやら、あなたはとんだ泥棒猫だったようですわね。解放者(リベレイター)?」

「まだ子供に嫉妬してるんだ。余裕ないねー?」

「愛しい旦那様が薄汚い泥棒猫に擦り寄られているとなれば当然でしてよ」


 頭を撫でられて顔をだらしなく緩ませるレギナから目を逸らしたローレライは、未だウィリアムの腰に腕を回す亜里沙を睨みつける。

 憧憬と愛情が未だハッキリと区別がついていないレギナはまだいいが、目的を持って夫にへばりついている少女を、自分が庇護対象(コドモ)だと正確に理解している亜里沙は別だ。


 しかし、それは亜里沙にとっても同じ事。

 どんな事情があろうと、ローレライは意識のないウィリアムと婚約を済ませたのは事実なのだから。

 1人の男のために世界を混乱に落とし込んだ扇動者にして、最強の男を守る為に汚名に犯された続けた参謀。


 何もかもを失った被害者でありながらも、優秀な謀略者(フィクサー)見初められた解放者(リベレイター)

 胸に金糸で描かれたフレアのエンブレムを輝かせる美しき交渉役(ネゴシエーター)達は、それぞれの色の双眸を見詰めながら思うのだ。


 どうしても、気に入らない、と。


 正しくアロースミスの女傑への道を歩みつつあるローレライと、それに触発されるように急激な成長を遂げた亜里沙。

 そんな2人に割って入ったのは屋敷の主にして、アロースミス家最後の当主であるローズマリー・アロースミスだった。


「あら、またやってますのね」

「お疲れ様です、ローズさん」

「お疲れはそちらでなくて? ウィリアム」


 立ち上がって礼をしようとするウィリアムを手で制し、ローズマリーはウィリアムの対面のソファに座り、端末で侍女達にお茶の準備を促す。

 可愛い部下達と過ごすこの時間はローズマリーの数少ない楽しみの1つだったのだ。


「決着はつきましたの?」

「1つは。ですが、おそらく全てに決着はつかないかと」


 透き通るような碧眼がローテーブルに置かれた端末の情報を捉え、ローズマリーは自らの義息に背負わせ、背負わされたものの重さに嘆息する。

 復讐の体現者となったウィリアムを、この世の悪意が、戦いを中心に回る世界が、大事な人間を、そして復讐の対象を奪われた人々が繰り返される争乱から解き放つことなどありえはしない。


 しかし、それでもウィリアム・ロスチャイルドは変わった。


 死にかねない状況でさえ人を拒絶し、ただ誰かを守る事だけで自分を保っていた少年。その少年は自らの娘の傍らに居ることを望み、1人の少女を過去から救ってみせた男となった。

 背後の口論を聞き流しながらローズマリーはただ幸せをかみ締めていたその時、お茶の用意を申し付けていた侍女、タチアナが部屋へ駆け込んで来た。

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