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Actors On The Last Stage  作者: J.Doe
Program:Avenger
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In To The Deep Unknown/Brew The Cheep A Known 6

 遠くから向けられる敵意に似た視線に苦笑を浮かべながら、アドルフは荷物を括りつけたバイクのシートに腰をかける。

 ローレライとローズマリーに信用されている事に対する嫉妬。

 彼らがそれを得ることは出来なかったのは彼らの責任であり、自分には一切関係ないとばかりにアドルフは肩を竦める。

 事実これからの旅路の全ての責任を持つのはアドルフであり、彼らは待っているだけなのだから。


「では、ミッションの確認を始めましょう」


 アドルフが抱えるうんざりとしたもの感じたのか、ローズマリーは最終確認に意識を向けさせる。

 その意図を理解したのか、アドルフは感謝するように会釈をして最終確認を始める。


「我々はこれからコロニーCrossingへ向かい、分断されてしまった後続部隊の消息を確認します。そして――」

「臨時戦略指令であるローレライ・アロースミスと後続部隊の接触。もし後続部隊に救出が必要であれば、あらゆる手段を行使してそれを救出。最悪Ceasterまでの護衛を」


 アドルフの言葉を悪戦苦闘しながらも、なんとかアドルフの後ろに腰を掛けたローレライが言葉を続ける。

 結局アドルフはその決定を覆す事が出来ず、護衛対象(ローレライ)を連れて救出任務に当たる事になってしまった。


 子供に甘いのは相変わらずか。


 そう嘆息するアドルフに、ローズマリーは確認を続ける。


「成功条件は?」

「後続部隊の状況報告、ローレライ・アロースミスの生還、あるいはローレライ・アロースミスと部隊の合流確認」

「物資の確認は?」

「済みました。ですがいいんですか? 俺がこれをお借りしてしまっても」


 そう言ってアドルフが視線を送るのは、バイカーズバッグからはみ出しているアンチマテリアルライフルだった。

 扱いこそ難しいかもしれないが、企業の私兵達のパワードスーツを確実に撃ち抜ける切り札。

 ハンドキャノンを持っているアドルフではなく、BIG-Cの防衛戦力が持つべきではないのか。

 アドルフはそんな考えからそう問い掛けるも、ローズマリーは首を横に振ってそれを否定する。


「おそらくこちらが襲撃される可能性はありませんわ。それにアロースミスの銃は人々を救うための矛、飾っておくためのアンティークではなくてよ――最後の連絡から大分経ってしまいました、どうか彼らをよろしくお願いしますわ」

「了解しました――ローラ嬢ちゃん?」


 アドルフは後ろを振り向くようにして、ローレライへ視線をやる。

 この旅でローレライを死なせるつもりはないが、甘えと躊躇いはここに置いて行ってもらう。

 2人が行くのは怯懦も杜撰も許されない、死と硝煙が香る荒野なのだから。

 アドルフのそんな考えを全て理解出来ている訳ではないが、なすべき事を理解しているローレライはその視線に頷いてローズマリーへと視線を向ける。


 自衛のするための武器すら持てないほどに、争いを嫌っている優しい母。


 ローレライ達はそんなローズマリーに争いの引き金を引かせてしまったのだ。

 BIG-Cの生き残り達を救うために、傭兵に依頼をさせてしまったのだ。


 2度目があってはならない。


 その覚悟を持ってローレライはローズマリーへと恭しく頭を垂れた。


「行って参りますわ、お母様」

「ええ、必ず戻りなさい私のローラ」


 自分の腰にローレライの華奢な腕が回されたのを確認したアドルフは、ヒラヒラと左手を振ってバイクを走らせ始める。

 速度に乗り始めた合金の巨躯はコロニーCeasterを後にし、やがて砂ばかりの荒野へと飛び出していく。

 渇いた荒野の風がきめ細かいローレライの肌をくすぐり、顔に当たる髪を華奢な指先が除ける。

 透き通るような碧眼をふと背後へと向けてみれば、既にCeasterは荒野の砂の隆起によって見え隠れしていた。


 道が悪いとはいえ、順調に行けば数時間で終わる旅路。


 草1つ生えない大地と灰色の空を眺めながら、ローレライが思いを馳せるのは顔を合わせる事すら叶わなかったサビナという幼馴染だった。


 故郷が襲われ、父であるトニー・ルーサムの部隊が壊滅しかけていた。

 そんな不確かな情報からサビナは寝込んでしまったのだ。

 かつてBIG-Cで起きた戦闘で婚約者を失ってしまったサビナにとっては、その心労は人と違う意味を持っていたのだろう。

 その戦闘によってBIG-Cは戦闘員非戦闘員合わせて3割の人口を失い、今回の戦闘はそれを上回る損失をBIG-Cにもたらした。


 紛れもない地獄。


 ローレライの中ではそう言った認識の戦場において、アドルフは最適な判断を下してローレライと共に生き残った。

 その圧倒的ともいえる戦力に、ローレライはふと疑問を感じてしまう。


 強すぎるのだ。


 詳しい年齢は知らないが、おそらく成年前後と思われる推定年齢。

 "お兄さん"を優秀な戦力と見込んで依頼したとはいえ、たった数年の傭兵としての経歴とその強さが噛みあっているようには思えない。

 確かにこの時代の戦場で生き抜いているのは強さの証だ。

 しかしそれだけでは説明のつかない事実に、ローレライは考え込んでしまう。


 胸の奥がざわつくのだ。


 眼帯の男から次第に剥離していく"お兄さん"の面影に。

 2度と会うことすら叶わないかもしれない、"お兄さん"と進むこの最後の旅路に。


 しかしそれは仕方ない事なのだ。

 傭兵の"お兄さん"とコロニーBIG-Cの有力者の1人娘のローレライ。

 今でこそコロニーがなくなってしまったが、無事だったならばコロニー存続の為に身をささげていただろう。

 身分が違うとは言わない。ただ住む世界が違いすぎた。

 ローレライはあの時のようにただ"お兄さん"と一緒に居たいのか、それとも伴侶として添い遂げたいのか分らなくなっていた。

 それでも1つだけローレライにも理解できている事がある。


 "お兄さん"を幸せにするのは自分ではなく、故郷の待たせているという女だという事を。


 胸中で荒れ狂う不快感から逃れるように、ローレライはアドルフの腰に回した腕の力を強める。

 近くに居ながらも、限りなく遠い存在。


 しかし樹脂を織り込まれた生地越しの温もりだけは、あの頃と何も変わってはいなかった。

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